
三井住友ファイナンス&リース株式会社(以下、SMFL)は2026年11月4日、東京・日本橋で「“エンタープライズ バイブコーディング”を用いた企業向けパーソナライズ型SaaS」発表会を開催した。
発表会にはSMFLの代表取締役社長・今枝哲郎氏と、米国のAI企業Replit社の創業者CEO・アムジャド・マサド氏が登壇し、生成AIを活用した新たなシステム開発手法と、両社の協業による企業向けサービスについて説明した。
リース会社がシステム開発に取り組む理由

今回発表されたのは、生成AIを活用し、企業ごとの業務や要望に合わせたシステムを効率的に開発する新サービスだ。従来は専門のエンジニアが時間をかけて対応していた個別開発を、より柔軟かつ短期間で実現することを目指している。
SMFLは約9兆円の営業資産を持ち、パソコンや工場設備、航空機など幅広い資産を扱う。今枝社長は、同社が長年培ってきた「モノの管理」のノウハウこそが、今回のサービス開発につながったと説明する。
企業が保有する資産の管理には、所在や利用状況の把握、更新・処分の判断など多くの手間がかかる。SMFLはこうした課題を解決するため、自社でシステムを開発し、改良を重ねてきた。その代表例が、2021年に外販を開始した資産管理クラウドサービス「assetforce(アセットフォース)」だ。現在では200社以上と有償契約を結び、400万点以上の資産データを管理している。
一方、企業ごとに業務の進め方や社内ルールは異なる。既存のシステムでは対応できない個別の要望に応えるには、エンジニアによる追加開発が必要で、時間やコストが課題となっていた。そこでSMFLが着目したのが、生成AIによってシステム開発の在り方を変える「バイブコーディング」だった。
AIとの対話でアプリを開発、企業向けならではの仕組みとは?

「バイブコーディング」とは、生成AIに作りたいものや必要な機能を伝え、プログラムのコードを生成させる開発手法だ。例えば「備品の貸し出し状況を管理したい」「承認画面を追加したい」と伝えることで、専門的なプログラミング知識がなくても、AIと対話しながらアプリを作り上げられる。
今回SMFLが協業するシリコンバレー発のAI企業Replit社は、こうした開発を可能にするクラウド型開発環境「Replit」」を提供している。従来型のインターネット経由で利用するソフトウェアサービス(SaaS)では、あらかじめ用意された機能に利用者側が業務を合わせるケースが多い。これに対し、今回発表された「企業向けパーソナライズ型SaaS」は、企業ごとの業務や要望に合わせた機能を、生成AIを用いながら柔軟に開発できる点が特徴だ。
ただし、企業向けのシステムは、単に動けばよいというものではない。情報管理やセキュリティ、計算結果の正確性が強く求められる。そこでSMFLは、自社の資産管理クラウドサービス「assetforce」と、Replit社が提供する開発環境を安全につなぐ基盤「ADP(assetforce Data Platform)」を構築。企業が許可したデータや操作だけを扱えるようにした。
さらに、AIが生成したプログラムを独立した品質管理AIが検証した上で、最終的にはエンジニアが確認する仕組みを採用。こうした企業利用に必要な安全性や信頼性を担保し、従来の「バイブコーディング」を企業向けに発展させた開発手法を、SMFLは「エンタープライズ バイブコーディング」と名付けた。

Replit社のマサドCEOは、AIエージェントが多くの業務を担う「セルフドライビング・カンパニー」という未来像を提示。AIによる業務の自動化と、人間が培ってきた知識や経験、創造性を融合させながら、最終的な意思決定は人間が担う、新たな企業の在り方について語った。
こうした企業向けサービスの普及を目指すReplit社は、アジア初となる日本オフィスを開設し、国内での事業展開も本格化させる。発表会では、今年8月に同社初の日本人社員として入社した佐藤氏も登壇し、日本市場でのサービス展開に向けた意欲を示した。

開発期間を大幅に短縮、驚きの実践成果

両社の協業はすでに具体的な成果を生んでいる。SMFLは2026年7月、社員23人をシリコンバレーのReplit本社に派遣。その後の開発では、 200超の画面を持つ、固定資産の会計・税務処理システムの再開発に新たな手法を適用し、要件定義後の開発・テスト期間を従来の3分の1に短縮できる見込みだという。
さらに、assetforceの個別カスタマイズでは、従来6人で約半年を要すると想定された開発を、1人で1週間という短期間で実現させた。もっとも、開発期間はシステムの規模や要件によって異なる。それでも企業固有の機能を短期間で形にできることは、SMFLにとって大きな手ごたえであるだけでなく、企業向けシステム開発の可能性を大きく広げるものだ。

一方、今枝社長はAIによって開発が効率化されるからこそ、事前に「何を作りたいのか」を整理する要件定義が重要になると強調した。そこでSMFLは、顧客とともに業務上の課題や要望を整理し、AIを活用した開発を支援する専門人材「FDE(フォワード・デプロイド・エンジニア)」の育成にも注力。顧客と試作・修正を繰り返しながら、蓄積された暗黙知(現場にしかない知識や経験)をシステムに反映していく考えだ。
デジタルサービス売上を5年で10倍へ

SMFLは今回の新サービスをデジタル事業の新たな柱の一つと位置づけ、今後5年間でデジタルサービスの売上規模を10倍に伸ばす目標を掲げた。今枝社長は囲み取材で、この取り組みを大企業の中の「社内ベンチャー」のようなものと表現。顧客のニーズを捉えながら、事業を柔軟に成長させていく方針を示した。
SMFLが目指すのは、顧客自身がシステム開発に参加し、現場の課題や要望を直接反映できる環境づくりだ。今後は専門人材による支援に加え、顧客が自らアプリを開発・改善できる体制の構築も視野に入れ、企業向けデジタルサービスの拡充を進めていく。
(取材・文/西本心)
