
とある介護施設で織り成される人間模様を通じて、生と死の関係を深く、そして温かく描き出す映画『また逢いましょう』が全国公開中です。
突如父親が介護施設に入所することになった主人公の漫画家・夏川優希を演じるのは、『STRANGERS』『初級演技レッスン』などの主演映画のほか、『ハコヅメ』『花咲舞が黙ってない 第3シリーズ』、7月から『完全不倫』がスタートするなど、ドラマ出演が後を絶たない大西礼芳さん。
前半は何事にも受け身だった優希が、自分の意志で走り出すようになる過程を繊細に表現。編中のマンガとピアノ演奏も自身で手がけるなど、多彩な才能と一面も発揮しています。ご本人にお話を聞きました。
■介護施設の利用者の心情を主人公を通じて学べました

●介護施設で織り成される人間模様を通じて生と死の関係を深く描いていく本作ですが、介護やデイケアについて知らないことが多く、とても興味深く拝見しました。
そうですよね。わたしは、祖父も祖母も介護施設でお世話になったんです。なので感謝の気持ちもありますし、身近なことでもありました。介護職の物語でもあるので、関わることができてうれしかったです。
また、登場する施設が介護だけではなく、施設に入られた方がどうすれば輝けるかとでも言いますか、生きる喜びを見つけられるのかまでを描くので、施設側と利用者さんの関係まで知れたことがよかったです。
●大西さん演じる主人公・夏川優希が、ある日突然父親の介護に直面するようになることと同様に、勉強になることが多かったです。
わたし自身も優希を通じて、いろいろなことを勉強させてもらいました。お年寄りだけでなく、障害を持たれた方も出てくるのですが、たとえば事故で歩けなくなり車椅子になった方がどういう心情であるとか、今まで考えたことがないことを考えるきっかけを与えてもらいました。
●主人公の夏川優希は漫画家という設定で、大西さんご自身が描かれたというイラストを公式ホームページでも見ることができますね。
漫画家の役だったので、手塚治虫さんについての書籍など、いろいろな本を読み肉付けしていく作業は、とても楽しかったです。ただ、優希の発する言葉は言いすぎだろうと感じることはあり、自分とはかけ離れているところについて個人的に引っかかりはありましたが、厳しいことも言うけれど彼女は真っ直ぐな性格だから、と理解して演じました。
■35歳になったので、ひとりの女性としても考えることが増えた

●2011年の高橋伴明監督『MADE IN JAPAN こらッ!』で映画デビュー、芸能活動をスタートされたとすると、来年で芸能活動15周年になりますが、節目という意味で想うことはありますか?
歳、とりましたね(笑)。普段そういうことを考えないので、今言われて気づきました(笑)。でも思い返すと、最初はお芝居をすることが辛かったです。人前でお芝居をするなんてと。他人に評価されることが怖くて、どうしてこんなことを始めたのかなって思うこともありました。やりたくて始めたのですが、もともとは映画であればなんでもよくて。技術も編集も経験しましたし。
●今後については、どのように考えていますか?
お芝居ももちろん頑張りたいですし、ちょっと前まで何かを背負った役や暗い役が多かったのですが、ここ最近明るい役も増えてきたんですよ。それはすごくうれしい。なので、面白味を持ちながら今後もお芝居をやっていきたい気持ちはあります。
それと35歳になったので、ひとりの女性としても最近ものすごく考えます。子どもが出来たらどんな感じなんだろうとか、そんなことを想像しますね。母親になったらどんな自分になるんだろう、どんな仕事ができるんだろう、きっといろいろなことを教えてもらえるんだろうなと、そんなこととを考えたりしています。
●今日はありがとうございました!

■公式サイト:https://mataaimasho.com/ [リンク]
■ストーリー

東京でアルバイトをしながら漫画を描いている夏川優希(大西礼芳)は、父親・宏司(伊藤洋三郎)が転落事故で入院した知らせを聞いて京都市右京区の実家に戻る。宏司の診断の結果は、手足に重い麻痺が残る頸髄損傷だった。
優希はひとり娘で、母はすでに他界している。家に残って父親の世話をするが、無口で頑固な宏司とは昔から会話もろくに弾まない。障害を抱えた宏司が何を考えているのか分からないし、ちょうど出版社に持ち込んでいた漫画の原稿も不採用で戻ってくる。すっかり先が見えない心境のまま京都での生活を再開させる優希。
宏司は退院後、介護施設「ハレルヤ」に通所を始める。ハレルヤは、ハイデガーの哲学を学んできた所長・武藤雅治(田山涼成)がその思想を運営に活かしているという施設だ。優希も付き添いでおそるおそる行ってみると、そこは利用者と職員が和気あいあいと談笑しリハビリテーションに励む、居心地の良さそうな空間だった。
人と関わるのを苦手にしてきた宏司が、ハレルヤには嫌がらず通うようになった。ここには何か独特の魅力があるらしい。いつしか優希もハレルヤに行き、明るいベテラン職員・向田洋子(中島ひろ子)らと会うのが楽しみになっていく。通所先にハレルヤを勧めてくれたケアマネジャー・野村隼人(カトウシンスケ)とも、野村が大の漫画好きなのをきっかけに距離が近づいていく。
しかしハレルヤにも様々な人生がある。職場では陽気にふるまう洋子も、若い職員たちとの意識のズレに苦労しているし、家に帰れば高校生の娘・ルイ(神村美月)の気持ちが掴めない。利用者のひとりである加納ゆかり(田川恵美子)は、脊髄梗塞で下半身を動かせなくなった自分の現実を受け入れ難く、誰にも心を開けずにいる。
そんな人々を孤立させず結び付けているのは何か—。優希は次第に、いつも温和な笑顔で利用者や職員を見守る武藤所長の考え方の深さに魅かれていく。
武藤が考案した、利用者それぞれのライフストーリーを聞き取る「ハレルヤ通信」。それは施設内のコミュニケーションを円滑にするだけでなく、誰にも訪れる死の運命を肯定的に受け入れるためのものだった。
ハレルヤのムードメーカー的な利用者だった東田梅子(梅沢昌代)の急逝や、「ハレルヤ通信」を通して初めて知る宏司の内面の思い。それに、洋子に強引に巻き込まれた新しいレクリエーションの準備。急に様々なことが起きるなかで、優希も自分自身と出逢い直す日を迎える—。

(C) Julia / Omuro
(執筆者: ときたたかし)