
第97回アカデミー賞®長編アニメーション賞を受賞した映画『Flow』が3月14日より公開となります。
本作は、ラトビアの新鋭ギンツ・ジルバロディス監督最新作。制作費350万ユーロ(約5.5億円)、50人以下のスタッフという極めてインディペンデントな体制ながら、ハリウッドのメジャースタジオ作品を抑えオスカーを見事受賞。アニメーション映画史の歴史を変えた、ビッグサプライズ受賞となりました。
本作の主人公は一匹の猫。本編では洪水に呑まれつつある世界を舞台に、時には運命に抗い、時には流され漂う一匹の猫の旅路を見つめる、圧巻の映像体験が繰り広げられます。ギンツ・ジルバロディス監督ご本人に作品へのこだわりについてお話を伺いました!

――本作とても楽しく拝見させていただきました。素晴らしかったです!私は黒猫と暮らしているのですが、主人公を黒猫にした理由は何ですか?
実はこの猫はブラックでは無くて、ダークグレーなんです。僕は子供の頃にダークグレーの猫を飼っていたものですから、この色を選びました。照明の関係で時々違う色に見える所も面白いですよね。
――ダークグレーでしたか!とても綺麗な猫さんで素敵でした。
色を濃くすることによってシルエットでの表現が出来るし、背景とのコントラストを際立たせられるなと思いました。本作で、僕は様々なスタッフの方とご一緒していますが、新しいことを色々と知ることが出来ました。例えば、耳の動きによって感情の表現が出来たり、目の動きだけでその時の状況を表すことが出来たり。僕は猫を飼っていたことがあるので、猫そのものを研究する必要は無かったのですが、アニメーターに依頼する時には的確な指示が必要になりますから、そこは大変でした。人間と違って猫にはモーションキャプチャーの黒い丸はつけられませんからね。
皆さんご存知の通り、YouTubeをひらけば猫の動画はたくさんありますから、中途半端な描写をしてしまうと、下手だなとバレてしまう。その点は気をつけました。

――他の動物たちも活き活きしていて素敵でしたが、どうやって描きましたか?
動物園に行ったり、様々な動画を見て研究しました。特に、ヘビクイワシは南アフリカの鳥なんですけれど、どこにでもいる鳥ではなくて、たまたま自分たちが訪れた動物園にいたので参考にさせてもらいました。ヘビクイワシは、セクレタリーバードというのですが、セクレタリーって“秘書”という意味なのでその点も面白いですよね。大きくないと猫を引っ張っていくシーンが不自然になってしまうので、あの大きさの鳥を探したんです。

――監督はこれまでお一人でアニメーションを制作されてきましたが、本作では複数のスタッフさんとご一緒されていて。監督の頭の中にあるものを言語化して共有することは難しく無かったですか?
自分の頭の中にあるイメージを人に説明するということは大変で、自分には出来ないとずっと思っていたんです。でも、今回やってみたら意外と出来たというか。やらなきゃいけないことだったのだなと気付きました。
それまではずっと1人でやっていたので、的確な表現を自分だけで考える必要がありました。アニメというのは、見せ方によって捉え方が全然違ってくるので、やりたい表現を周りに伝える時には、自分の絵コンテやルックを見せることが一番早いなとおもっていました。例えば「海」と一言で言っても、皆さんの頭の中でイメージがそれぞれあるわけですから、そこを統一していかなければいけないわけです。
それから、音がとても大事だと思いました。音楽というのは非常に主体的なものであって、どうやって聞こえるかとか、どういう風に感じるかというのは聞いた人によって異なりますから、編集段階で音楽を含めて共有していくことが大事だなと思っていました。
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https://getnews.jp/archives/2857076 [リンク]

――「水が溢れる」とか、「水が流れている」という言葉でも、人によって浮かぶ風景は違いますものね。
本当にその通りで、水の表現というのは色々な難しい所があって、挑戦の連続でした。実写でも水のハンドリングというのは大変なわけですけれど、アニメーションの場合でも、広い海に流れていく水なのか、狭い川と通っていく水なのか動きによってツールを作っていく必要があるわけです。
考えてみれば、初めに制作がスタートした時と、完成した作品では水の表現もだいぶ変わっていったと思います。いわゆる大きな予算の映画だと10人ぐらいの人が関わることを、2人でやらなければいけなかったので、それは大変でした。ツールを作るためのプログラミングであるとか、様々な知識が必要になりますが、どんどん新しくアップデートしていくのでついていくことにも苦労しました。
主人公の猫が他の動物とフレンドリーに触れ合って、楽しんだり驚いたりしている様子を気持ち良く表現すること。そのイメージをブレずに持ち続けることを大切にしていました。
――色々迷った時に本来のテーマに立ち戻る必要があると思うのですが、監督はその時に自分のメモなどを見るのでしょうか。
映画作りのための資金を集める際に、自分の中のイメージをまとめた短い作品があって、迷った時にはそこに立ち返っていました。動物のイメージはしっかりとブレずに持っていましたね。

――本作での経験は今後の作品作りにどう活きていきそうですか?
自分にとって1番大事なことは、自分が何に注目をしていて、何を描きたいのかを明確にすることです。監督によっては成功することにより商業的になって、大きな作品をどんどん手掛けていく人もいると思います。実際、僕もありがたいことにアメリカのメジャーなスタジオからアプローチを受けることもありました。でも自分としては、自分の物語を守りたいですし、「仕事」として作品作りをしたくないのです。今後も自分の想いやインスピレーションを大切にしてやっていきたいです。
――監督の今後の作品も楽しみにしております。今日はどうもありがとうございました!

(C)Dream Well Studio, Sacrebleu Productions &Take Five.