映画『ドーナツもり』の定谷美海が監督・脚本を務める最新作の短編映画『Colors Under the Streetlights』が、12 月 13 日(金)よりテアトル新宿にて公開されます。
本作は、Los Angels New Filmmaker、そして、第 43 回バンクーバー 国際映画祭ショー トフィルム部門でオフィシャルセレクションにノミネートされるなど海外映画祭で高い評価を得た注目作。 人間関係がもたらす複雑さや多様性、そのニュアンスへの強い理解を映像化することで定評のある定谷美海監督が、主演にイシヅカユウを迎え、東京の夜を生きる女たちを描いています。
定谷監督、イシヅカユウさんにお話を伺いました!
――本作とても楽しく拝見させていただきました。まずは定谷監督とイシヅカさんの出会いからお聞き出来ますでしょうか。
定谷:ユウちゃんの存在を知ったのは、私が前に仕事でご一緒していたドラァグクイーンの方の紹介です。キャスティングディレクターを呼べるバジェットも無かったので自力で探すしかなくて。それでご紹介してもらったんです。Instagramなどの投稿を見ていて「ああ、会いたいなあ」と思って連絡したことがはじまりです。映画制作に本格的に入る3、4ヶ月前ぐらいに初めて打ち合わせをした感じですね。結構口説くのに時間かかったんです。
イシヅカ:すみません(笑)。『片袖の魚』という作品で、主演として当事者役を演じたことがあったので、もう一度当事者役をやるのは自分としてどうなんだろうと、自分の中で精査する時間がちょっと必要だったのです。脚本をいただいて拝読したら今までやってきた役とはまたちょっと違う切り口で、演じてみたいなと率直に思ったことが最初です。
まず運転手役ということに驚いて。トランスシェンダーという役が描かれる時って、そういった行動的な人として描かれることってあまり無くて。自分でどんどん動いていく主人公のユリカというキャラクターが印象的だなと思いました。私は地元が静岡県の浜松で車が必要な場所なので免許は持っていて、地元では運転していたのですが東京では全くでしたのでたくさん練習しました。
定谷:ビンテージのボルボをお借りしたのですが、絵としてもカッコ良くしたいなと思ったし、裏設定として、「ユリカのお父さんが長年乗っていた車をもらった」というものがあったので渋い車になっています。まずはレンタカーで練習していたのですが、このボルボは右ハンドルとはいえ、ウインカーとか細部が違うので、ユウちゃんも「不安です」って言いながらたくさん練習してくれて。
――すごくサマになっていてカッコ良かったです。監督がこのドライバーのお仕事をされていたのですよね。
定谷:そうなんです、私このバイトやっていたんです。運転自体は好きなんで、今もストレス解消のために車を借りてドライブしたりはしていて。このバイトをしている時も運転自体は楽しかったけれど、時間帯だけきつかったですね。電車が無い時間に女の子たちを送るので、
――ユリカが朝日を浴びるシーンがとても気持ち良さそうでしたが、監督のご経験も活きているのでしょうか。
定谷:朝日を見る高揚感はありましたね。あの頃仕事がなくてこのバイトをしていたんです。車を返しに行く明け方に「私今何してるんだろう」と思いながら朝日を見ることもあって、眩しさがこう、自分に刺さるみたいな。撮影は朝日登るぐらいに集合するので、真逆なのも面白いなと思いながら書いていました。
イシヅカ:撮影の時も、朝日のシーンは本当に綺麗な時間だったし、短編映画の中で朝日のシーンをしっかり使っていて。完成した作品を観てもすごく印象的でした。
――ユリカというキャラクターについてはどの様に感じましたか?
イシヅカ:すごくクールな人だなって最初は思いました。でも実際に監督と会ってお話するうちに、監督のセンスが入っているから、クールの中にあたたかさがあるんですよね。自分が演じる時には、最初の印象よりもっと柔らかい感じでいたいなと思いました。監督がいつも話しているとすごく優しいから、その感じも出せたら良いなって。
――ユリカさんってベタベタしているわけじゃないけれど優しい方なんだってすごく伝わりましたし、今日お会いして監督とユウさんご自身が持っているものなのだなと感じました。
定谷:ユウちゃんがモデルしている時ってすごくカッコ良くて強い感じなのに、ユリカを演じている時って少し小さく見えるというか別人に見えることがすごく不思議でした。ユリカを演じている時ももちろんカッコ良いんだけど、モデルの時の「かっけえ!」って圧倒される感じが無くて、親しみやすくなっているところがすごいなあと思って撮っていました。
――ユリカさんと、キャストの女の子たちの「そこまで親しく無いからこそポロッと話せる感じ」がすごく心地良いし切ないし良い時間だなと思っていました。
定谷:私がドライバーをやっていた時に、身の上話をしてくれる人がいっぱいいて。もちろん完全に一緒では無いのですが、送っている時に「もうちょっと付き合ってほしいな」と言われて、ぐるぐるぐるぐる車で周りながら色々な話をしたんですね。
中国から来ている方は「日本語を完璧にしすぎない方がモテる」と言っていたり、現役から結構遅れて美大に入った方がいたり、みんな色々なお話をしてくれて、その経験がこの作品を埋めてくれました。
イシヅカ:定谷さんには色々話してしまうという感覚、分かりますね。私の場合はこういうインタビューとかもそうですけれど、元々パーソナルな部分を皆さんに晒している部分があるので、初対面の方でもどんどん自分のことを話しちゃいます。
定谷:初めて会った時もこんな感じだった。そのオープンな感じがとっても素敵だなって。
イシヅカ:もちろん誰にでもオープンなわけではないのですが、一緒にものづくりをする上で、自分の内面も見せてからスタートする方が気が楽なんです。
――今日は素敵なお話をありがとうございました!
撮影:オサダコウジ
【あらすじ】ガールズバーのキャストたちを乗せ、夜の街を走るドライバーのユリカ(イシヅカユウ)。バーカウンターに立つミチル(大森亜璃紗)は、今夜も上手く客をあしらっている。カオル(千國めぐみ)は、デート相手の男の車を降り、家に帰る振りをして店に出勤する。スタッフルームに身を潜めるユリカは、そんな二人を光るカーテンの向こうがわから見つめていた。
その夜、仕事あがりのミチルと路肩で言葉を交わしていると、巡回していた警察官が二人を見つけ、事情を聞き始めるが…
【クレジット】
出演:イシヅカユウ、大森亜璃紗、千國めぐみ、斉藤陽一郎、マギー、関口アナン
監督・脚本:定谷美海
配給:ニチホランド
クレジット表記:©CUTS
公式SNS X:@cuts_1213 Instagram:@colors_under_the_streetlights
2024 年|日本|22 分|DCP|カラー|2.39:1|5.1ch|配給:ニチホランド