映画『ブルーイマジン』が現在公開中です。性暴力やDV、ハラスメント被害者に寄り添い、救済するためのシェアハウス「ブルーイマジン」を舞台に、心に深い傷を負った女性たちの葛藤と信念と連帯のドラマを描いた青春群像劇。 “黙ってちゃだめだ。声を届けられるなら、どんなかたちでも届けたい”そんな信念を胸に、これまで抑圧されてきた女性たちが共に連帯し、勇気をふりしぼって声をあげようとする物語が展開します。
彼女たちの真摯な姿勢と誠実な心の叫びは、多くの人々の心を揺さぶり、やがて主人公たちは自分自身の本当の生き方や居場所を見つけ出していく――。閉鎖的で偏狭な日本社会をシニカルに捉え、時にブラックユーモアも交えながら、傷みを抱えた女性たちが、かすかな希望と青く澄んだ一縷の光を取り戻していくまでの姿を、透明感あふれる鮮やかな映像美で描き出しています。
勇気をもって自らの信念を行動に移す主人公・斉藤乃愛(のえる)を演じた山口まゆさんにお話を伺いました。
――本作とても素晴らしい作品でした。ありがとうございます。俳優である山口さんにとっては、ご自身が活動されている環境がテーマになっている作品ですが最初にどの様な印象を受けましたか?
同じ業界で働いている身としては、ちゃんとこの事実を伝えていかなきゃいけないなと思いました。嘘がないように、丁寧に演じなければいけないと身が引き締まる思いでした。それぞれに苦しみやつらさがあって「これが正しい」とはっきり言えない問題だからこそ、被害に遭われた方がさらに傷つくような作品にはしたくない、寄り添いたいという気持が大きかったです。女性キャラクターたちが魅力的で、たくましさを強く感じる脚本でした。
――描いているテーマは辛い事実ですが、キャラクターの描写がすごく魅力的ですよね。
脚本を読んだ時、「被害者の乃愛」ではなく、「1人の女性の乃愛」がどう生きていくか、どう前を向いていくかということを意識して演じたいと思いました。
――本作には松林監督ご自身の経験も投影されているということですが、監督とはどの様なお話をしましたか?
松林監督は「山口さんが演じる乃愛を大切にしたい」と言ってくださっていたので、自分自身が乃愛と向き合う時間、考える時間が長かったように思えます。私が脚本を読んで感じた乃愛と監督が思い描く乃愛をすり合わせながら、撮影していきました。難しかったですが、一緒に乃愛を作っていくことができて心強かったです。
――悩みを抱える乃愛と、後半の道を切り開いていく乃愛の成長の対比が素晴らしく、一方で役作りはとても難しいのだろうなと思いながら拝見していました。
誰にも言えず悩みを抱えている人もいるし、被害を訴えている人もいるし、なにが正解か分からないし、どれも正解だと思います。その中で一番譲れなかったの乃愛と同じ経験をした方にできる限り寄り添っていきたいという気持です。だからこそ本や記事をたくさん読みましたし、彼女の心の動きにずっと向き合っていました。
――表情の変化も素晴らしかったです。
最初に脚本を読んだときに乃愛が最後に前を向いていく姿がすごく素敵だと思いました。だからこそラストに向けて、乃愛の心の変化を繊細に描きたかった。そこは松林監督と何度も話し合いを重ねました。
――撮影現場での雰囲気はいかがでしたか?
みんな割と悩んでいましたね。どう表現すればいいのか、すごく悩んでいました。私がすごく悩みながらやっていたので引っ張ってしまったのかもしれないですが、一つのシーンごとに熟考していっていました。
印象的だったのが、ジェシカが乃愛を抱きしめるシーンです。フィリピンの女優さんの躊躇いのない大きな愛情や暖かさを感じました。日本人の場合、恋人や家族でもない限り、ハグなどで直接的に触れ合う機会があまりないので、お芝居でも緊張感を感じることがあるんです。彼女たちの指先には緊張感や躊躇いがなくて、乃愛だけでなく、私自身もぎゅっと抱きしめられたような気がました。今でもその暖かさを覚えています。
――とても良いシーンでしたし、素敵ですね。本作への出演を経て学んだこと、今後この経験をどう活かしていきたいですか?
今だから言えますが、本当にずっと悩みながら撮影していたんですよ。フィクションでもあるし、事実でもある、伝えたいことも、伝えなきゃいけないこともある。色々悩みすぎて、自分の中でいっぱいいっぱいになってしまった時に、自分自身もケアしてあげないといけないな思いました。役と自分を切り離して、一息ついたり。自分自身を客観的にみることを学びました。
――山口さんのそんな熱演もあって、本当に多くの方に観ていただきたい作品となっています。
悩んでいる方に少しでも寄り添えたり、どんなことであれ「嫌なことは嫌」と伝える後押しができる作品になっていたら嬉しいです。男女問わず少しずつ声をあげられるようになっていますが、まだまだ難しいことの方が多いので。
――映画の中にもあったのですが、被害にあったり、それを打ち明けられなかったことを「情けない」なんて思ってほしくないですよね。
本当にそうですよ。「情けない」なんて思ってほしくないです。でも打ち明けるはとても勇気のいることだと思います。もし少しでも信頼してもいいなと思う人がいたら、少しずつ頼っていくのがいいかもしれません。乃愛も周りの助けを借りてゆっくり前を向き始めたので、この映画がそのちいさなきっかけになれたらいいなと思います。
――最後に、山口さんご自身のお話も少しお聞きします。女優を目指したきっかけはどんなことでしたか?
私は舞台に立ってみんなに見てもらうことが好きだったんですよね。小さい頃にクラシックバレエを習っていたので、舞台に立つ機会があって、それが楽しかったんです。その憧れから芸能界に入って、お芝居を始めたら「お芝居って楽しいな」と、思うようになりました。お芝居の魅力にどんどん、どんどん惹き込まれて。最初は華やかなものに憧れて入ったけど、いまはお芝居好きだという気持ちでずっと続けています。
――好きな作品や、影響を受けた作品があれば教えてください!
役所広司さんの『すばらしき世界』(2021)が一番好きです。人間味溢れる描写がたまらなくて、いつかああいう作品に出られたらなと目標にしています。特に教習所のシーンが大好きで、人としてすごく可愛いらしかった。私もお芝居だけでなく、人としても愛されるようになりたいと思える作品でした。
――私も大好きな映画なので嬉しいです。今日は素敵なお話をどうもありがとうございました。
撮影:たむらとも
ヘアメイク:美樹(Three PEACE)
スタイリスト:竹岡千恵
『ブルーイマジン』公開中
【STORY】
「なんであのとき、ちゃんと言えなかったんだろう……」
俳優志望の斉藤乃愛(のえる=山口まゆ)は、かつて映画監督から受けた性暴力の被害者だったが、過去の自分のトラウマを
誰にも話せずにいた。乃愛は、性暴力や DV、ハラスメント被害を受けた女性たちを救済するためのシェアハウス「ブルーイマジン」
に入居する。巣鴨三千代(松林うらら)が相談役を務める「ブルーイマジン」は、住人たちの皆が心の傷みを知っている場所だった。
乃愛は、親友の佳代(川床明日香)、俳優志望の凛(新谷ゆづみ)、兄で人権派弁護士の俊太(細田善彦)、フィリピンからやっ
てきたジェシカ(イアナ・ベルナルデス)ら、「ブルーイマジン」に集う個性あふれる面々との交流を通じて、初めて自分自身の心の
傷と向き合えるようになっていく。やがて乃愛は、「ブルーイマジン」の人々との連帯を深め、さまざまな葛藤を積み重ねながら、勇
気をふりしぼって“声をあげるための行動”を起こす決意をする――。
一方そのころ、佳代と音楽ユニットを組んでいる「ブルーイマジン」の住人・友梨奈(北村優衣)はある晩、自らの葛藤を込めた自
作の歌詞を、ひとり口ずさむのだった。彼女たちにかすかな希望の灯りがともる未来は、やってくるのだろうか――?
霧のなか何処へ 哀しみはつづく
夜空にも届かぬ 今は私だけ……
出演:
山口まゆ 川床明日香 北村優衣
新谷ゆづみ 松林うらら イアナ・ベルナルデス 日高七海 林裕太 松浦祐也 カトウシンスケ
品田誠 仲野佳奈 武内おと 飯島珠奈 宮永梨愛 渡辺紘文 ステファニー・アリアン 細田善彦
スタッフ:
監督 松林 麗
脚本 後藤美波 音楽 渡辺雄司 プロデューサー 松林うらら 後藤美波
コプロデューサー ライザ・ディニョ 製作 小野光輔 三谷一夫 玉井雄大 ライザ・ディニョ アイス・セグエラ
コエグゼクティブプロデューサー 坂本聡 桐久井琢三 アソシエイトプロデューサー 江部亮 ラインプロデューサー 三好保洋
撮影 石井 勲 照明 大坂章夫 録音・整音・効果 石寺健一 美術監修 北地那奈 編集 菊池智美
カラーグレイディング 廣瀬亮一 衣裳 根橋優太 ヘアメイク 高田知美 助監督 伊藤一平 監督補 Kaz Ittetsu Takahashi
特別協賛:株式会社 IP エージェント
豊島区国際アート・カルチャー特命大使/SDGs特命大使自主企画事業
配給 コバルトピクチャーズ 海外販売・配給 108MEDIA ©“Blue Imagine” Film Partners
2024 年/日本・フィリピン・シンガポール/カラー/シネスコ/ステレオ/93 分