平安時代から現代まで、1000年を生きた2人の男たちの物語を、辰巳雄大と浜中文一の主演で描いた『僕らの千年と君が死ぬまでの30日間』。現在全国で上映中です。
舞台×漫画×映画で物語が展開するプロジェクトの映画版となり、舞台版は平安時代、漫画版は平安時代から大正時代、そして映画版は物語の終局となる現代を描きます。本作の監督を務めた菊地健雄監督に作品へのこだわりからキャストへの印象などお話しを伺いました。
――本作楽しく拝見させていただきました。監督は本作の撮影を通して、辰巳さん、浜中さん、小西さんのそれぞれにどんな所に魅力を感じられましたか?
皆さん今回の作品で初めてお仕事させていただきました。辰巳くんは初めての映画出演かつ初主演ということで、最初の顔合わせのときにお会いした時から、とても意欲的で。こちらが想定してないような部分まで、役を固めるために考えてきてくれていました。1000年に渡るお話なので、ちょっと想像し難いというか、通常我々が生きている人生の中では、経験し得ないようなことを演じてもらわなければならない部分が多い中、柔軟性を持って取り組んでいました。浜中くんや小西さんと対峙した時の嘘のない感情がそのままこうポンと出せるような、素晴らしい資質を持った方でした。また本当にご一緒したいと思いますし、自分が言うのもちょっとおこがましいですが、さらに経験を積んでいったら素晴らしい俳優さんになるのだろうなと確信しています。
――監督がおっしゃるとおり、普段経験出来ないお芝居が求められますものね。
記憶を無くしている設定など、非常に難しい役柄だったと思います。脚本で書かれていること以上に、俳優さんたちのパワーがぶつかって生まれたシーンが多いですし、間違いなくその中心にいたのが辰巳くんだと思っています。
――辰巳さんは舞台やライブ、そして落語など色々な表現に挑戦されているので、映画初出演ということが意外でした。
すごく好奇心がある方だなと思っていて、それが彼の素晴らしい人間性を形づくっているのだと思います。草介という役に辰巳くん自身のパーソナルな部分を注ぎ込んでくれたことで、ちょっとファンタジックな世界観にしっかりとしたリアリティを与えてくれました。彼の存在がこの作品そのものを地に足がついたものにしているのは間違いありません。
――素晴らしいですね。浜中さんはいかがですか?
第一印象は、光蔭という役にぴったりなミステリアスなクールな人なのかなと思いきや、蓋を開けてみれば、とても面白くてユーモアのある方でした。今回の役柄的には、なかなかそういうユーモアのセンスを活かしにくかったとは思うんですけど、撮影のカメラが回ってない時の現場の雰囲気を浜中くんが作ってくれていたのだと思います。でも本番がはじまると、一気に光蔭の何を考えているのか分からないようなミステリアスな魅力が溢れて、その非常に難解な内面を本当に繊細に演じていただきました。辰巳くんと浜中くんの2人のコンビが、凸凹なのですが、ずっと見ていたくなる様な感じで。1000年とは言わないですけど、長い付き合いのある2人だからこそ、その核にある関係性が草介と光蔭の空気作りに活きているのだと思います。
――長年一緒にいるという説得力のあるお2人の存在感でしたよね。
小西さんが演じた舞は、「現代に転生した“とわ”」というとても複雑な役柄だったので、事前の準備もすごく丁寧にアプローチされていました。さらに、現場で感じたことも取り入れながらお芝居に活かしてくださって。3人の中でも一番悩んでた印象はありましたけど、その悩みを経たからこそ、演じているときの眼差しがセリフ以上に感情を表現してくれていたのだと思います。本当に素晴らしい女優さんですし、小西さんの持っているチャーミングさが舞というキャラクターを魅力的にしてくれていたなと。
――私が言うのもおこがましいですが、小西さんって映画の女優さんだなという雰囲気を持っていらっしゃいますよね。
ご本人のキャリアも映画からスタートしていますし、立っているだけでサマになる、スクリーンの中で輝く方だなと僕も思います。この映画に出演する前はドラマなど映画以外のお仕事が続いていたそうで、そういう意味でもすごく意気込みを持って挑んでくださってありがたかったです。
――映像もとても綺麗でした。海が印象的なロケーションであったり、撮影についてのこだわりを教えてください。
舞台版の演出と上演台本を手がけた鈴木勝秀さんがお書きになられた「波」についてのセリフが、実は自分も全く同じように考えていたので驚いたのですが、波って何年もの間ずっと行き来を繰り返しているんですよね。それはきっと1000年前も変わらずそうだったのではないかと。本作では「人形伝説」がテーマの一つでもあるので、「水」を1個キーポイントにできないかなと思って、水のゆらめきが綺麗にうつっているような照明も作っていただきました。さらには刻々と変化する太陽の光や潮の満ち引きという自然的な条件とも戦いながら撮影をしなければならなかったことによる良い緊張感もありました。声の出し方も、部屋の中で出す声と、自然の中で出す声の質っていうのは当然変わってきます。3人それぞれがロケーションに対しても、しっかりリアクションをしてくれていたことが素晴らしかったです。小西さんも率先して水に浸かって、体が濡れたことから出る “変化”をお芝居にしっかりと活かしてくれました。
――私は菊地監督がこれまでに手がけた作品、『生きるとか死ぬとか父親とか』や『ヒヤマケンタロウの妊娠』などのファンです。本作もそうですが、菊地監督の描く繊細な人間描写というのは、どういうことを意識して作られているのでしょうか。
色々と観てくださりありがとうございます。一番は「分からなさ」じゃないですかね。そのキャラクターをつかむために、分かりやすい理解の仕方をしてはダメだなと思っています。これは、僕の師匠の瀬々敬久監督から教わったことも大きいのですが、分からないものを、簡単に分かったように描かないというか、例えば、家族とか友人であっても最終的にはその人の心の奥底までは分からないはずなので。人間同士が持っている、その分からなさがあるからこそ関係を結べたりする部分もあるのだと思います。毎回キャラクターと向き合って、分からないことを頑張って考えるのはしんどい作業でもありますが、インスタントに分かったようなフリをしない様に気をつけています。特に本作は、自分が経験したことの無い、1000年生きていたり、記憶喪失の描写があるので悩みました。
――「分からないものを、簡単に分かったように描かない」すごく腹落ちのするお言葉です。
分からないからこそ、想像しがいがあるというか、この部分は理解できたりするけど、この部分は分からないとか。その間を想像したり、描いたりすることが大変ですが楽しいのだと思います。監督という仕事はどこかで自分がジャッジしなくてはいけないですけれど、現場で色々な意見を戦わせて、多様性のある意見が飛び交って、それが一つの方向に向かっていく、そんな時に「良いものが撮れたな」と感じられる気がします。
――監督がこれまで影響を受けた監督や作品、最近これは良い!と思った作品などはありますか?
最近観て感動したのは『バービー』ですね。グレタ・ガーウィッグ監督もすごいですけど、あれをプロデュースして主演しているマーゴット・ロビーが素晴らしいなと思いました。バービーの映像化の権利を買って、それをグレタ・ガーウィッグにオーダーするというセンスも素敵ですし、映画の中の「マテル社」の描き方も、日本だったら絶対怒られちゃうようなこともやっていて、その大らかさも楽しかったですね。色々な文脈でとらえられる映画だと思うので、賛否両輪はあると思いますが、すごく刺激になりました。
同じく、ウェス・アンダーソン監督の『アステロイドシティ』も箱庭的な世界観の中で、お話自体は随分とファンタジーよりの設定なのですが、素晴らしいキャスト陣のお芝居によって成立していて、「映画の作り方」ということを改めて考えさせられたりしました。ウェス・アンダーソン監督やリチャード・リンクレイター監督は大好きなクリエイターで、すごく影響を受けています。
――私が言うのも生意気ですが、リンクレイター監督と菊地監督の「人間を描く時の優しい眼差し」に共通点を感じました。
僕はまだまだ頑張らなくちゃいけないんですけどね。でも嬉しいです。「映画」という形式が描けることの、拡張性を常に広げている方達なので、とても刺激になりますし勉強になります。
――今日は本当に素敵なお話をありがとうございました!
『僕らの千年と君が死ぬまでの30日間』
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(C)2023映画「僕らの千年と君が死ぬまでの30日間」製作委員会