美容業界のヘアコンテストを舞台に描く、全編ワンショットの英国発ゴシップ・ミステリー『メドゥーサ デラックス』が、いよいよ日本公開となります。映画ファンから絶大な支持を得ている気鋭の製作・配給会社「A24」が北米配給権を獲得。世界の映画祭で話題をさらってきた注目の一作です。
美容師同士のプライドと対立、優勝への執着、無意識の差別、互いへの不信、そして隠されていた真の人間関係などが暴かれ、その日コンテストの裏側で何が起きたのか。本作で長編デビューを果たした監督・脚本のトーマス・ハーディマンさんにお話を聞きました。
●本作『メドゥーサ デラックス』ですが、なぜヘアを題材にしようと思ったのでしょうか?
母親が毎週、美容師に通う人でした。幼い頃サロンに連れられて、色んなことを眺めていて、ヘアサロンの環境に、そしてヘア自体に興味が移っていったのです。美術や文学などの世界では創造性が評価されていますが、髪型という分野では、そういうことが今までなかったと思います。同じ創造性から生まれているはずだと思うのです。そこで、ヘアドレッシングに対する愛について声を上げたかったのです。
●そのために今回、チャレンジだったことは何でしょうか?
ジャンルの解体をやりたかったのです。本作には探偵もいないですし、主人公が存在しません。通常、ミステリーを描く時はカットをたくさん入れるものですが、キャラクターにそのままついて行ってワンショットで撮影することで、リアルさが表現できるのでは、と思いました。
わたしははロバート・アルトマン監督の『ナッシュビル』(1975)が大好きです。キャラクターが先行していくスタイルの作品です。また、キャラクターから他のキャラクターへ物語が移ってゆくリチャード・リンクレイター監督の『スラッカー』(1990)も大好なのきです。トロイの木馬のようにジャンルを裏切り、また別のジャンルのものに移行する、という考えのもと、作品を作っていきました。
●<メドゥーサ>というタイトルについて教えてください。
メドゥーサは、男性的な視点で描かれてきた神話だと思います。世界の外にはじき出された存在が、魔女として語られてゆくプロセスと似ています。女性が率いていく映画を想定していたので、女性の視点で描くことを第一義として、神話を作り直すことが意図としてあったのです。
●実際の撮影はどのように行われたのでしょうか?
9日間で撮影を行いました。とてもクレイジーだったと思います(笑)。リハーサルはその前に2週間ありました。Zoomを使って会議をして、リハーサルは自分でiPhoneを使ってやりました。
●ヘアスタイリスト&ウィッグアーティストにユージン・スレイマンを起用した理由を教えてください。
他のアートの分野の人たちが技術をどう使うかについてとても興味がありました。ユージンは本当に素晴らしく、最高のヘアドレッサーです。彼はジュンヤワタナベなど素晴らしいデザイナーとコラボしてきていて、彼の仕事には彫刻家のような印象を持っていました。境界線を押し広げ、新しいものをどんどん作ってゆく人です。
わたしはコム・デ・ギャルソン、ガリアーノ、ヴィヴィアン・ウエストウッドにも強く影響を受けてきました。彼には、なんとか今回引き受けてくれないか、ひざまずいてお願いしました。「ずっとこれまで影響を受けてきて、あなたが作る形にとても影響を受けてきた、なんとか一緒にやってくれないか」と。今回、わたしは脱構築的な作品を作ろうと思っていましたが、彼はそれをヘアの分野でやってきた人なので、そこも分かり合えた部分ではないかと思います。
●長編デビューを果たされて、この先の展望についてはどうお考えですか?
人とは違う物語を語っていくことが大切だと思っています。あえて違うものを作ろうとしているわけではなく、興味が人とは違うのだと思います。たとえばカーペットについての映画など、人が思いつかない世界を自分なりにとらえていくことが自然にできているのだと思います。こうした映画を撮れるチャンスをもらったことは素晴らしいことなので、このまま続けていきたいです。
今は、経済についての脚本を書いています。コメディやドラマで、いろんなことについて人の人生が回っていくということをとらえられたら、と思います。それを引っ張ってゆくのは情熱だと思っています。
■ストーリー
舞台は年に一度のヘアコンテスト。
開催直前、優勝候補と目されていたスター美容師が変死を遂げた。
奇妙にも頭皮を切り取られた姿で発見されたのだ。
会場に集まっていたのは、今年こそ優勝すると誓って準備を進めていた美容師3人とモデルたち4人。さらに主催者や恋人、警備員らを巻き込みながら、事件や人間関係に関する噂をひそひそと囁きはじめる――
2023年10月14日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
(C) UME15 Limited, The British Film Institute and British Broadcasting Corporation 2021
(執筆者: ときたたかし)