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『誓いノ淵』上級騎士なるにぃインタビュー 第一回 ~ゲーム考察系の人気YouTuberがかかっていた、創作への呪い~


ゲーム考察系の人気YouTuber・上級騎士なるにぃ氏(以下、なるにぃ氏)。『ダークソウル』シリーズを考察する動画が特に人気を博し、50万人以上の登録者数を獲得している。

助けてください。(YouTube)
https://youtu.be/KLV5EN2u-Q4

そんななるにぃ氏が、先日なんと自らのゲーム『誓いノ淵』を開発すると発表。ファンに衝撃を与えた。開発も決してYouTubeの片手間ではないらしい。制作発表と同時にCAMPFIREにてクラウドファンディング(以下、CF)を実施。『ヴァルキリープロファイル』などの作曲家、桜庭統氏をはじめ豪華コンポーザーの参加も公表されており、本格的なプロジェクトをうかがわせた。

【誓いノ淵】ティザー映像(YouTube)
https://youtu.be/cZNp0d_lI2o

そんな座組もあって、数多くのファンが出資。結果、目標金額3000万円を大きく上回る約5085万円もの資金調達に成功している。インディーゲーム開発におけるCFの多くが目標金額を100万円前後に設定していることを考えれば、数十倍もの調達金額である。本作は異例なケースでもあるのだ。

ついにゲームを考察する側ではなく、される側として自らの作品制作に取り掛かったなるにぃ氏。それにしても「一体なぜ人気YouTuberがゲーム開発を?」というそもそもの疑問もあるだろう。

そこで今回インタビューを敢行。そこには、実はなるにぃ氏がYouTuberを始める以前から捉われていた “創作の呪い”が伺えた。

——CFで気になったのはYouTube活動以前に「自作小説の執筆活動をしていた」という記述なんですよ。もともと創作をやりたかったというのが意外でした。「もしや何か葛藤がある方なんじゃないか?」と思いまして。

なるにぃ:あまり表では言ってなかったんですけど、昔から小説を書きたい欲求があったんです。過去には講談社さんのライトノベルの賞に送ったことがあったんです。でもそれは2次選考で落ちてしまって、

——「小説家になろう」などで自作をアップするのではなく、正規の新人作家の登竜門に挑んでいたんですね。

なるにぃ:「専業で食っていくことは不可能だけど、少なくともそこから始めよう」って思ったんです。

——当時はどんな小説を執筆されたんですか?

なるにぃ:もともと「ハリー・ポッター」や「ゲド戦記」のようなジュブナイル小説が流行った時期に思春期を迎えていて、そういう小説が書きたかったんです。日本でそういう小説はパッと思い浮かばなかったので、そこはライトノベルという形で行くのがやりたいことに近いかなと。

その賞は枚数無制限で、当時は1年かけて1000枚も書いて応募したんですね(苦笑)。全力投球して、僕的にも「絶対に行ける!」って思って。

——1000枚! 下読みの方が根を上げますよ! 情報量が溢れかえっているのが予想がつくというか。

なるにぃ:当然のごとくダメでしたね。それはいま考えたら当たり前なんですけど……。どん底に落ちましたね。

結局そのころは創作というものに真摯に向き合えてませんでした。語りたいことだけど語るってスタイルでしたし。ぜんぜん創作の土俵に立てていなかったんです。

——作家志望のころは方向性に迷っている感じがしますね。CFのプロジェクトページにも書いてありましたが、YouTubeを始めたきっかけが「ゲーム実況者にフォーカスした小説を考えたため」というのも、恐縮ながら迷走を感じるというか。

なるにぃ:やっぱり迷いましたね。最初に考えたのは「どうしたら有名になれるか?」です。有名でなければ自分の書いた小説を誰にも読んでもらえないと思いました。そこでYouTubeをやる必要がありました。

自分に何ができるか? と考えたとき、好きなものじゃないと力を発揮できないと思ってゲーム実況者になったんですよ。

——小説の技術じゃなくて「有名になることが先」は独特の理由ですね。ちょっとアテンションエコノミーの闇も感じます。ちなみに当初考えていたゲーム実況小説の内容とは?

なるにぃ:異世界転生ものってあるじゃないですか。あれはゲーム実況者とすごく似てるんです。観測者としての現実があって、その一方で異世界がある構図をゲームにおけるモニターと現実世界の関係と考えれば、異世界転生ものを視聴者とゲーム実況者の関係に落とし込めるんです。そういう流れで新しいジャンルを作ってみたいと思っていました。

——そうしてYouTubeを始め、考察動画の制作にのめりこむようになるんですね。

なるにぃ:「ゲーム実況者というカテゴリから視聴者をスライドして小説に読者を持ってこれるかな」と考えたんです。

——本格的に人気が出たきっかけとなった動画はなんですか。

なるにぃ:最初は『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』の負けイベントである、葦名弦一郎戦で勝った動画を出した時です。それがバズったんですよね。

「これはチャンスや!」とその日のうちにボス攻略動画を出しまくって認知度を稼いで、 “フロム・ソフトウェア系作品の解説の人”というポジションを取ることができました。

——今のなるにぃさんのイメージですよね。作家志望というよりフロム・ソフトウェアのわかりやすい考察動画を作る方という。

なるにぃ:いま解説動画をやっているから「説明がうまい」というイメージがあるかもしれませんが、ぜんぜんそんなことはなくて。

でもそこで気づいたんですよ。解説動画で本当に必要なのはなにかというと……情報じゃないんですよ。感動なんです。

——意外な解答ですね。でもしっくりくるというか。

なるにぃ:ぼくは凝り性だし、見つけたものは全部ぶちこみたくなるんです。でも心を動かされない情報は意味がないんです。だから身を引きちぎる思いで、できるだけ不要な情報を削るようにしましたね。

——それで感動を伝える解説動画のスタイルができたと。奇しくも、小説を書いていた頃には足りなかった、情報を整理する方法を覚えたかたちですかね。

なるにぃ:そのとおりなんですよ……! ぶっちゃけた話、YouTubeを解説動画に絞った理由は、もともとは意識してなかったんです。動画を作っているうちに、偶然学んだんですよ。

「自分が提供している本当の価値に気づいていたら、小説ももうちょっとましな結果になったんじゃないか? 1000枚も送る必要なかったんじゃないか?」って。

——ただ小説家志望だったのに、YouTuberの活動がメインになったことについてご自身の中で納得はしていたんですか?

なるにぃ:実は複雑で……。小説を書くことを第一目的としてYouTubeを始めたわけですけど……(少し間を置いて)小説を発表することがとあるタイミングから怖くなっていたんですね。

なぜかというと、「YouTuberとしていい小説を書けば伸びるだろう」と思っていたんですけど、YouTubeをやっていると見えてくるんですよ。求められていないものを出してしまえば見向きもされないという現象が。

統計は残酷なもので、結局独りよがりな動画を出せばアナリティクスは悪化する。しかも小説を書く時間もなかなか取れない。そんなこともあり、YouTubeに専念という状況がずっと続いたんです。

——葛藤はあったんですね。結局ゲーム実況異世界転生小説は書いていないわけですし。

なるにぃ:もちろん「このままじゃいけない!」とはずっと思っていました。人って怠惰なもので、現状維持を捨てる差し迫った理由がなければ挑戦しない理由を探し始めてしまうんですよね。小説を書けない理由を探してしまっていました。

それに気づいた瞬間に「これはアカンな」と思い、ゲーム開発に突入しました。

——そこで小説じゃなくてゲームなのは何故ですか。

なるにぃ:物語を作れたら、僕はなんでもよかったんですよ。身もふたもない言い方をすれば、僕が作りたいものは人の心を動かすものです。小説という形に必ずしもこだわる必要はなくて、新しい媒体があればそれでやりたいなと思いますし。

——ただ小説と違い、ゲームは集団で開発するケースがほとんどです。どのようにメンバーを集めましたか。

なるにぃ:ゲームを作りたいと思ってから、『地罰上らば竜の降る』を開発しているHytacka(ハイタカ)さんなどインディーゲームを作る人たちと連絡を取り始めたんですよ。そうして繋がりができてゲーム開発という土壌に繋がった形ですね。偶然です。全部。

——なるにぃさんはこれまでゲーム開発の経験はございますか。10秒程度で終わる小規模なゲームなども含みます。

なるにぃ:……ないですね。僕には「どうすれば人の心を動かせるのか」、「どういった伏線の貼り方で熱い物語を作れるか」という統計学の知識しかないので、世間にお見せできる作品はひとつもないです。小さい作品ならありますが、公表はしていません。

——このゲーム開発によって、なるにぃさんの中で創作への思いは解消されそうですか。やはり長らく小説を作るような活動とは遠かったと思いますし。

なるにぃ:やっぱりYouTubeで成功したと言ってくださる方は多いんですけど、僕的には「まだ死んでない」って感覚の方が近くて。結局、チャンネル登録数などの数字って飾りで、実際の再生回数などの数字と必ずしも結び付くものじゃないです。

死なないうちに何ができるかな、と思ったときに、自分がいなければこの世に存在していないものを生み出すしかないよなって思うんですよね。僕ができることは物語を作ることだと思っていますし、自分の中に無条件の信頼感があるんです。なんというか、自分がしなければならないタスクや宿題に近い何かですね。

(第二回に続く)

取材/文:葛西祝

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