本年度のアカデミー賞国際⻑編映画賞部門の韓国代表に選出、カンヌ国際映画祭コンペティション部門で監督賞を受賞した、パク・チャヌク監督最新作『別れる決心(原題:헤어질 결심/英題: Decision to Leave)』が、2月17日(金)より全国公開となります。
『オールド・ボーイ』(03)で第 57 回カンヌ国際映画祭グランプリを受賞。その後『渇き』(09)、 『イノセント・ガーデン』(13)、『お嬢さん』(16)など唯一無二の作品で世界中の観客と批評家を唸らせ続けてきた巨匠の6年ぶりの 最新作は、サスペンスとロマンスが溶け合う珠玉のドラマ。
【ストーリー】男が山頂から転落死した事件を追う刑事ヘジュン(パク・ヘイル)と、被害者の妻ソレ(タン・ウェイ)は捜査中に 出会った。取り調べが進む中で、お互いの視線は交差し、それぞれの胸に言葉にならない感情が湧き上がってくる。いつしか刑事ヘジュンはソレに惹かれ、彼女もまたへジュンに特別な想いを抱き始める。やがて捜査の 糸口が見つかり、事件は解決したかに思えた。しかし、それは相手への想いと疑惑が渦巻く“愛の迷路”のはじまりだった……。
昨年、本作のPRのため来日したパク・チャヌク監督にお話を伺いました!
──本作とても楽しく拝見させていただきました。パク・チャヌク監督が本作の様なロマンティックな作品を作られたことに驚いたのですが、ただのロマンティックな作品では無く、描き方に多くの工夫があったと感じています。
刑事が事件を追っていくうちに、容疑者に特別な感情を持ってしまうという映画はこれまでにもあったと思います。本作はそれらの作品と全く別物にしたいなと思いました。これまでのそういった映画では、女性はファム・ファタールとして描かれていて、本作の予告編を観た人は「ソレ」もそうなのではと思うかもしれません。
しかし、この映画は大きく分けてパート1、2で構成されていて、パート1はいわゆるフィルムノワールになっていて、そこだけでも1本の映画として成り立つと思います。ただ、その後見続けていくと、これはただのフィルムノワールではないと気付くと思います。ソレという女性の姿が明らかになっていく。そこがロマンスのスタートだと思っています。
──ソレが“どちらなのか分からない”ことで、とてもストーリーに引き込まれました。
途中でソレが身につけているワンピースがありますが、あれは緑なのか青なのか、どちらともとれる色です。そう言った部分でも、ソレがファム・ファタールなのか、本当にへジュンという男性を愛しているのか?そういったことを考えさせる装置になっています。それは、脚本には書かれていませんが、衣装さんが頭を働かせて作ってくれました。その他にも、美術を担当している方は、『オールド・ボーイ』からの付き合いであり、スタッフからアイデアを出してくれて採用されている部分がたくさんあるのです。
──主演のお2人とどの様なコミュニケーションをとりましたか?
本作ではじめて、私とパク・ヘイルさんとタン・ウェイさんが一緒に作品作りをしたわけですが、まずは仲良くなることが必要でした。タン・ウェイさんは私生活では幼い娘さんがいて、なかなか家をあけることが出来なかったので、私たちはタン・ウェイさんの家に出向くことが多かったです。
タン・ウェイさんは、女優は副業みたいなもので、今は農業がメインのお仕事になっているんですね。彼女の作った野菜を使ったサラダをいただいたり、芝居のことはもちろん、人生のことをたくさん話しました。3人がそれぞれ違う考えを持っていて、それを合わせるという作業ではなく、3人とも同じことを考えていることを確認する時間だったとも思います。アメリカでは「同じページを読んでいるかどうか」という表現をするそうなのですが、同じ脚本を読んでいても芝居の捉え方は違うと思います。そのまま現場に行くと、みんながバラバラの演技をしてしまう。そんな状況にならないために時間を使うことが大切なのです。
──タン・ウェイさんが俳優が副業というのは驚きました! 俳優さんのお芝居やセリフでは無いところで作品を盛り上げているものの一つが、『霧』という韓国歌謡曲だと思います。監督はこの曲が好きで、舞台を“霧の街”にしようと考えられたそうですが、どんな所が好きなのか、この曲が韓国ではどの様に親しまれているのか教えてください。
この『霧』というのは1967年に発表された曲です。当時、私も子供だったのでこの曲がどれほどすごいのかは分かっていなかったのですが、大ヒットしていたのでたくさん聴いていました。歌っているのは、チョン・フ二さんという韓国で一番素晴らしい歌手の一人です。作曲家さんも著名な偉大な方です。私以上の年齢の方は、韓国では知らない人がいない曲だと思います。ただ、今の若い人は知らないと思いますね。イギリスであれば、ビートルズのことは若い人でも知っているのになぜ『霧』を韓国の若者が知らないのかなと残念に思っています(笑)。
私がイギリスで、『リトル・ドラマー・ガール 愛を演じるスパイ』というドラマを撮っている時に、韓国が恋しくて韓国の曲を探しては聴いていました。久しぶりに『霧』を聴いて、それが、韓国の有名歌手であるソン・チャンシクさんのver.だったのです。ソン・チャンシクさんは私にとって偶像の様な存在で、ぜひ映画に取り入れたいと思いました。多くの人が知っている女性の声の『霧』を映画の前半でずっと使って、最後の最後にサプライズの様な形でソン・チャンシクさんの『霧』を使おうと思いました。でも、実際に映画を作ってみると、ソン・チャンシクさんの『霧』が最後だとあまりにも悲しすぎました。主人公のへジュンの気持ちが全て整理されてしまった様に感じたんです。なので、チョン・フ二さんとソン・チャンシクさんをスタジオに改めて招いて、この曲を一緒に歌っていただいたんです。
──ソレが香水をつけるシーンが印象的で、スクリーンの中なのにこちらまで香ってくる様な映し方をされていたと思います。ソレが身に纏っている香りは、どんな香りなのでしょうか?
結論としては「分からない」という回答になってしまうのですが、実はプリプロダクション(撮影の前に行う準備)の時に、タン・ウェイさんに同じ質問をされたんです(笑)。「監督、これはどういう香りなのですか?」と。私は香水に詳しくないので「分からない」と回答したら、タン・ウェイさんがたくさんの香水が入ったセットを送ってきて「この中のどの香りですか?」と聞いたんです。なので、一つ一つ香りをたしかめて「これが良いです」と話し、タン・ウェイさんも納得してくれました。どれがソレの香りなのか、探す時間はとても面白かったです。これは女性や、おしゃれが好きな男性の楽しみ方の一つなんだなと発見になりました。
──今日は素敵なお話を本当にありがとうございました!
監督:パク・チャヌク
脚本:チョン・ソギョン、パク・チャヌク
出演:パク・ヘイル、タン・ウェイ、イ・ジョンヒョン、コ・ギョンピョ
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2月17日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー