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『世界は僕らに気づかない』飯塚花笑監督インタビュー「映画は誰かの心を軽くすることや、救うことだってできる」


本年度の大阪アジアン映画祭にて「来るべき才能賞」を受賞した話題作『世界は僕らに気づかない』が2023年1月13日(金)より新宿シネマカリテ、Bunkamura ル・シネマほかにて公開中です。

本作は、トランスジェンダーである自らの経験を元に制作した『僕らの未来』が国内外で注目を集め、昨年1月公開の『フタリノセカイ』で商業デビューを果たした飯塚花笑監督が、レプロエンタテインメント主催の映画製作プロジェクト「感動シネマアワード」にて製作したオリジナル長編第五作。群馬県太田市で、フィリピンパブに勤めるフィリピン人の母親レイナ(ガウ)とフィリピンダブルの高校生・純悟(堀家一希)のアイデンティティや愛をめぐる問題を描いています。

本作の監督と脚本を務めた飯塚花笑さんにお話を伺いました。

――映画とても素晴らしかったです、ありがとうございます。本作は脚本も監督が務められていますが、どの様なことからお話をふくらましましたか?

最初は、ゲイの男の子を主人公に、母親に理解してもらえなくて苦しむという内容で話を書いていました。それが8年くらい前です。その頃は、まだセクシュアルマイノリティに関する作品は少なかったのですが、今はたくさん作られています。だとしたら、僕が改めてゲイの悩みや葛藤を描く作品を作る必要は無いと思いました。そこで、僕のもう一つの関心のある「自身のルーツ」というテーマを組み合わせたストーリーにしようと思いました。

――おっしゃるとおり、セクシュアルマイノリティに関する作品は増えましたよね。本作はそれらの作品とも違う、セクシュアルマイノリティがフラットに描かれていた所が魅力的でした。

ありがとうございます。幅広い作品が作られる様になったといいながらも、セクシュアリティのこと自体が主題になっている作品が多いいですよね。セクシュアリティのことで悩むとか、 セクシュアルマイノリティであることが、障害となって生きづらいとか。もちろん知ってもらうことの大切さもあるのですが、そればかりが作り続けられると、「セクシャルマイノリティは苦しまないといけないのか?」というしんどさもありますね。いちトランスジェンダーの当事者として思うことがあります。あくまでもセクシュアリティであることはその人の背景のひとつでしかない。そのことは脚本段階で意識しました。

――「こうであるはずだ」「こんな悩みを抱えているはずだ」といった描かれ方がしている作品があることも事実ですよね…。私は本作で、純悟がパートナーである優助の家をうらやましく思う、そんな環境の差異が切なく感じました。フィリピンと日本のミックスである少年を主人公にしようとしたことはどんなきっかけからですか?

僕は、この映画の舞台となる群馬県出身なのですが、工場が多い土地柄、ブラジルをはじめとする海外からの出稼ぎ労働者が多い県なんですよね。海外にルーツを持つミックスの友人もクラスに当たり前にいたのですが、僕自身、幼少期はあまり彼らの置かれた状況や複雑なバックグラウンドを理解していなかったと思います。

子どもの頃、ミックスの友人の家で遊んでいて、夕方になって家に帰ろうとするとすごく彼が寂しがるんです。僕は、「そろそろ家で母が夕飯を作っているから」と言って帰るんですけど、彼の家庭はシングルマザーで、夜はお母様がフィリピンパブへ働きに出かけちゃうから、ひと晩中、一人で過ごさなきゃいけないという…。寂しかったんだと思います。他にも、お母様が夜に働きに出かけているから、自分も一緒に遅寝になって遅刻をしてしまったり、朝ごはんがしっかり食べられなかったりという子もいました。

自分は幼少期、彼らのバックグラウンドに関心がなかったりして、それが心の引っ掛かりになっていた部分があります。理解がなかった。そんなことを脚本にも入れています。

――ご自身の経験から描かれているからこそ、描写がとてもリアルで魅力的なのだと思います。私はこの映画で知ったのですが、群馬県はパートナーシップ宣誓制度も導入されていたりして、とても進んでいる場所ですね。

そうなんですよね。外国人労働者が多く在住しているので、一部の地域では多文化共生のまちづくりが進んでいます。人種やセクシュアリティの多様性への理解も進んでいて、先ほどのお話のとおりパートナーシップ宣誓制度も導入されている。この作品にぴったりの舞台だと思いました。

――そうやって色々な環境を知れることもこの映画の魅力だと思います。

セクシュアルマイノリティであり、ミックスである主人公という設定に「複雑すぎる」という意見をいただいたこともあるのですが、そんなことはないんですよね。だって複雑もなにも、実際にこういう方がいるのですから。僕は今までに描かれてない人物像を描くことを映画づくりにおいて大事にしています。僕自身もトランスジェンダーで悩んでいた思春期の頃は、スクリーンの中に自分のような人物がいて欲しかったんです。海外の作品なら自分に近しい役がいる映画はありましたが、日本の映画の中はいなかった。もしいたら、誰かの心を軽くすることや、救うことだってできるのに。この映画で描きたかったのは、現実世界で、複雑な設定と呼ばれるシチュエーションで生きている人たちはいるよ、ということをはっきり示したかったんです。

――監督が作品へのコメントに「身近な愛に気づいてくれたならば」という言葉を残していますが、本当にそのとおりだなと感じます。そして、もっと世の中で他人に対して優しくなれたらと、自分も心がけたいと思いました。

どうしても他人に優しくなかったり、そんな部分を目撃してしまう世の中ですよね。今回色々な問題、さまざまな登場人物を取り上げることで、映画を観てくれたお客様の価値観がアップデートされれば嬉しいなと思います。

――今日は素敵なお話を本当にありがとうございました!

https://sekaboku.lespros.co.jp

撮影:オサダコウジ

(C)「世界は僕らに気づかない」製作委員会

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