どうも、特殊犯罪アナリストの丸野裕行です。
個人情報というのは様々な利用価値があり、裏社会の人間にとってはまさに宝の山を掘り当てる羅針盤になります。その個人情報の中身はいろいろで、それぞれのカテゴリ分けがなされ、名簿を購入する業者側のニーズに合わせて販売されています。
こんなことは「個人情報保護法」上けしからん、となると思うのですが、個人情報保護法には、5,000件を超える個人情報をデータベースとして保有して、事業に使用する事業者は個人情報の取り扱い事業者とみなされます。
個人情報保護法23条第2項によれば、情報が手元にある本人からの削除要請があった場合は削除することを条件にして、個人情報取り扱い事業者がデータのある本人の同意がなくても第三者に個人情報を提供できることになっているわけですね。様々な禁止項目はありますが、名簿業者というのはビジネスにすることが可能で、合法的な活動ができるということです。
闇金業者が喉から手が出るほどほしい購入名簿は、多重債務者、闇金利用者、債務事故者(債務整理、自己破産者)がほとんどです。ただ、これら名簿は必ずしも名簿屋から買うとは限りません。
闇金融利用のリストというのは、闇金融を利用する債務者なので、その情報は当然闇金業者が保有しています。その情報は、さらに闇金から闇金を経由して最終的に名簿屋へと流れるわけです。その後は、その名簿屋から別の名簿屋へ、さらに新興の闇金業者へと面白いようにどんどんと流れていきます。
今回は、以前公務員が生活保護名簿を闇金融に流した事件を紐解きながら、この多重債務者リストがどのように作られているのかを、元闇金融業者のS氏(60歳)に話を聞きながら綴っていきたいと思います。
名簿で拡散されるのは「しょぼい客」
丸野(以下、丸)「非常に怖い話だと思ったんですが……」
S氏「闇金業者にとって、今借金している、支払いをしている、また完済をしているという債務者のリストというのは非常に大事なんですわ。特に同業他社の顧客名簿は、すごく熱い。でもね、なかなか手に入りにくい名簿であることは確かですね。闇金融に内通している人間が金に困って売ったか、闇金同士で現客名簿を交換したり、組織内での名簿のやり取りがあったりとそういう感じでしか出回ることはないわけですわ。だから、そこに名簿屋がいるんですね」
丸「その中にも上客がいるんですか?」
S氏「いや。そういう顧客名簿は、質が悪い≪しょぼい客≫が多くて、質がいいおいしい客はほとんど業者間に出回らないんですわ」
丸「それは、やはりそういう客を逃したくないという考えからですか?」
S氏「そうですね。自分のところで絞るだけ搾り取って、食い物にしてから顧客名簿に記載する。そんな感じですねん」
闇金融の情報元って?
丸「闇金融業者の情報源ってどこから収集しているんですか?」
S氏「闇金が使っている名簿屋の情報源は、どこからでも入ってくる。例えば、多重債務者のブラックリスト、官報に開示される破産者情報、Webサイトからの申し込み、雑誌からの申し込み、ポスティングチラシからの申し込み、詐欺サイトの申し込みなんてのが主なものになるんですわ。前は、やっぱり携帯電話へのDMが強かったね」
名簿屋が買う個人情報は1件〇〇円
丸「情報はどのくらいの金額で売り買いされているのですか?」
S氏「そやねぇ、名簿屋が収集している個人情報は、1件あたりで数円程度可能。いくら高額でも10円以下やねぇ。その情報を住所・電話番号が存在するのかのクリーニング(洗浄作業)や顧客情報の重複などを防いで常に最新状態にしておくクレンジング(整理作業)を行ってから、十数円~数十円ほどで闇金業者に販売しているわね」
丸「なるほど」
S氏「販売している名簿は、喜んで買ってもらえるように、DM用にタックシールというシール状にして、使いやすく売っていたりするんですわ」
丸「値段が変わるということですか」
S氏「融資の申し込みがあったときに名前の下に記載された文字やアルファベットの羅列があるので、業者は必ずそれを聞く。本人かどうかのチェックができるからなんやね。よく名簿を入手して、闇金融業者を詐欺る奴がいるもんでね」
情報源は無限大、そこにハマる公務員
丸「ちょっとした事件になったことを思い出したのですが、公務員が生活保護者の名簿を流出させたということがあったと思うのですが……」
S氏「十数年前にあった熊本県人吉市の事件やろ? 公務員は借金苦になりやすいんよ。(※福祉課保護係の職員が、闇金融業者に生活保護世帯が記載されている名簿などの個人情報を提供していた。公務員の在り方を疑問視する声が上がった事件)この人吉市職員は、公務員ということもあって上限がほとんどなしに借り入れができるわけ。複数の消費者金融に莫大な借金があって、闇金融に手を出してしまったわけやね。金融屋は、公務員をターゲットにしている場合も多い」
丸「はぁ、安月給だといわれているのに公務員は結構な額が借り入れできるんですね」
S氏「流出した名簿を悪用して闇金業者は手広く商売したという声も聞いてるな。まぁ、どっちにしても公僕でも信用できないということやね」
市役所だけでなく、警察官や消防所職員でも多重債務者になる
丸「じゃあ、安定した公務員である役所の職員、警察官や自衛隊員、税務職員、消防隊員、水道局職員なんかは借金をこしらえているケースが多いんですね」
S氏「昔、俺が商売をしていた頃も首が回らない公務員の連中がよく訪れてたわ。昔、崔洋一監督の映画(※1983年『十階のモスキート』)でも警察官を演じる内田裕也が最後に郵便局に押し入ってるシーンがある」
丸「小泉今日子が娘役で出ていた映画ですね」
S氏「そのあと出所してきて同僚の拳銃を奪って消費者金融に押し入ったという、実話を基にした映画やねんね。『HANA-BI』の刑事を演じているビートたけしも同じで金を借りていたヤクザを皆殺しにしてる。まぁ、人間ギリギリになれば、なんでもするようになるという話やね」
なぜ公務員が借金まみれになってしまうのかが、多少なりともお分かりいただけたかと思います。それにしても、闇金融というのはげに恐ろしき商売なんですね。
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(執筆者: 丸野裕行)