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原作すべてを全く知らない状態で『劇場版 異世界かるてっと』を観て、あろうことか監督に話を聞いてみた

2022.06.13 16:00
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2022年6月10日(金)から『劇場版 異世界かるてっと~あなざーわーるど~』が劇場公開となりました。
この作品は大人気“異世界系作品”5作品である『オーバーロード』『この素晴らしい世界に祝福を!』『Re:ゼロから始める異世界生活』『幼女戦記』『盾の勇者の成り上がり』のキャラクターたちがもとになった、“ぷちキャラアニメ”。(※このぷちキャラであることが実は非常な労力を生んでいるということを後述します)
TVシリーズ『異世界かるてっと』(通称いせかる)で大好評を博しての劇場映画化となります。なのですが……。

元ネタを全く知らないのに観に行く

普通こういうのって、元の作品が好きなファンが楽しむものだと思うんですが、今回、筆者は元ネタ5作品、どの作品も全く知らない状態です。(ギリ、『リゼロ』のピンクとブルーの女の子をなにかで見たことがある、という程度……)
「そんな状態で観に行くのは作り手に失礼では」という意見はごもっともですし、筆者自身にその気持ちもあったのですが、「あえてその状態で観てほしい」と言ってくれたのが、芦名みのる監督、本人。
芦名監督から「率直な感想言ってもらっていいんで」と声をかけてもらい、某日、試写に向かいました。……良いの? 本当に元ネタ全然知らないよ……。

観始めて生じた偽らざる感想

筆者、もともと映画を観るときは前評判とかあらすじ自体を入れないで行きたい派ではあるのですが、こういうシリーズものはそうもいかないと思うのですよね。
それでも今回「わからない部分があったとしてもそういうものである」として“全てを受け入れるモード”で観始めました。
──以上、観た直後の感想です。主観ばかりなのでなかなか伝わらないかもしれないけれど、とにかく、どんな観客も置いてけぼりにしない、という印象が強かったです。すごく丁寧に作られた素性の良い作品だなあ、というのが偽らざる感想です。
観る前は「監督にウソもおべんちゃらも言いたくないな」という心配があったけれど完全に取り越し苦労でした。
そんなわけで、芦名監督に話を聞いてみます。

芦名みのる監督に話を聞いてみた

<写真:映画監督であり獣医師もつとめる芦名みのる氏>

キャラが勝手に動く

─『劇場版 異世界かるてっと~あなざーわーるど~』観ました。元ネタが全く分からないという、普通だったら“初見殺し”状態で観たんだけれども、めちゃめちゃ丁寧に作られてるせいなのか、ストレスなく最後まで楽しめたし、最終的には元の作品が気になってきて 芦名みのる監督(以下芦名):ありがたいね。TVアニメシリーズの『異世界かるてっと(以下いせかる)』は一期のときから、「いせかる観てから、原作見た」っていう感想を持ってくれるファンがいっぱいいるのが特徴だからね。元々どれかの作品が好きで『いせかる』見ているうちに、他のキャラが気になって、その作品見たらめっちゃ面白かった! みたいな感想は作り手として冥利につきます。
それもこれも、いせかるのキャラクターが勝手に動いちゃうからってのはあるよね。
キャラが勝手に動く? 芦名:そうそう。普通、物語って大筋を考えて、そこに向けてキャラクターにセリフを当てるのね。ここでAというキャラが喋ったら、Bは必ず茶々を入れる。Cはそれを止める、って感じで。
でも『いせかる』に出てくるキャラクターは全員、個性が確立しすぎているからさ、こちらの必要最低限のセリフやアニメーションで終わってくれないの。いらないボケを入れてくるキャラクターもいれば、やらなくていいチャチャを入れてくるキャラクターもいる。でも、納得しちゃう。「ああ絶対この時こいつ言うよな」「この時こいつ言うよなー」って。それはキャラクターの魅力のおかげだし、それがあるからこそ作品に厚みが産まれるんだと思う。
まあ、そこをうまく調整するのが本当に難しいんだけどね。「ハイハイ、そっちのルート面白いけど、今回本編関係ないから!」ってうまく軌道修正する(笑)。
それだけ元の作品が、みんなとても良い作品だからこそだよ。心底、そう思う。
─元の作品をちょっと後で調べたら、実はどれもテイストが全然違う! ビックリするくらい(笑)。ちゃんと元の作品、キャラクター、世界観を踏まえた上でいせかるっていう世界でどうやって折り合いをつけるか、は苦労したのでは? 芦名:この作品の制作の軸に “本編のルール”と“いせかるの都合”というものがあるのよ。その2つを踏まえて、わかりやすく納得できる形にしないといけないのは苦労したね。言葉選びは本当に難しくて。うん。キャラクターとして絶対言わないような言葉とかもちゃんとあって、例えば元の作品だったら「殺す」って言ってるんだけど、いせかるの世界では絶対言わせない、とかね。 ─バランス調整だ……
芦名:『異世界かるてっと』は他作品との交流であり、魅力のマリアージュなんで、やっぱりそれをファンたちが「違う」って思わないように、ちゃんと近いところで接点を作りながら、ちょっとずつ重ねて動かすって作り方かなあ。
でも、作品やキャラによっては、他とのかかわりではなく、自分らの世界、内側にしか向いていないキャラとかもいるんだよね。「自分たち以外は全員死んでいいっていうスタンス」みたいな。
─そういうキャラを扱うのが一番難しかった? 芦名:いや、なんだかんだ言って、全部難しい(笑)。たのしげにイジりやギャグをやっていても、他の世界でそのキャラにしたらイジメであり、攻撃になるってのも普通にある。イジったりできるのは元の世界のメンバーだから許される、ってのはたくさんあるね。「世界が違えば適用されるルールも違う」ってのは、現実同様、いせかるにおいても普段から意識している部分です。

まさかのタイトルが『アベンジャーズ』

─TV版でも人気だった『いせかる』が、いよいよ劇場版、って流れなのかと想像したのですが、そもそもは? 芦名:マーベルのアベンジャーズシリーズって、沢山の作品の主役たちが集まった作品なのに、一つの作品として成立していて面白かったでしょ? シリーズ最後の『エンドゲーム』なんて鳥肌立っちゃって。「アベンジャーズ、マジすげえな」と、で、「こういう作りってできるもんなんやなあ」と話していたら、KADOKAWAのプロデューサーが「芦名さんもやりましょうよ」って(笑)。 ─え? 芦名:「ぷちキャラでアベンジャーズやりましょう」と真顔で言うから、「お、いいね!」と適当に言っている間に企画が通っちゃった(笑)。おかしいよあそこの会社のプロデューサー。だから、最初は「異世界アベンジャーズ 」ってサブタイでスタートしたの。「異世界アベンジャーズです」「いいですねー」って感じで話とか作っていたんだけどいざ発表が近づいたときに、「やっぱダメです 」ってなって。「ん? なんで? “Avenger”って、普通の英単語やぞ」って言ったけど、上から「NON!!」と。 ─(笑)
まあ、なんやかんやで『劇場版 異世界かるてっと』というタイトルで始めたのですが、いざやってみると他の作品ではない作業がたくさん発生するわけですよ。
─ほうほう
たとえばシナリオを書く中で、全部のキャラクターのセリフの数をリスト化して偏りが起きないようにって調整したり。
─うわあ。さっきの「キャラの使いやすさ」とは、真逆の作業 芦名:俺はね、感情で話を書かないように心がけているの。もちろん、俺自身が面白いと思うものを第一に作品を作ってるけど、だからといって偏ったりしたら、他の作品のファンに失礼だからね。で、その最初の段階で必要だったのが、セリフ数の調整だったわけ。

自分を出すのではなく元の作品の良さを出す

芦名みのるの“色”を出すとか、そういうクリエイターの主張みたいなのは? 芦名:アニメをやるのなら、その先に原作を愛して欲しいという気持ちを大事にしている。だって、原作があってアニメがあるんだもん。あ、別に原理主義者ではないよ?(笑)
そりゃ、俺だってやりたい事はいっぱいあるし、色々あるわけよ。俺の元々得意とする作風って、不条理なぶっ飛んだギャグとかだと思う。わかりやすく言うと『ごっつええ感じ』(※)の「キャシー塚本」とか。
※1990年代ダウンタウンらによる伝説的コント番組。
マンガで言うと読者に通じるかわからないけど『ゲーメスト』って雑誌に載ってた雑君保プ(ざっくんぽっぷ)のマンガ(※)とか、ネタを畳み込んで、もうよくわからないけどカオスで面白い!みたいなのが大好きなのよ。
※ゲーム雑誌 ゲーメスト(新声社)の読者投稿ページ発祥の漫画家。超シュールな作風
─爆発オチとかも好きですよね(笑) 芦名:爆発オチ大好き。爆発オチって、一番「えええええ!?」となる基本だから(笑)。唐沢なをきとかの同じオチを続けることによって、読者が「もうこれは面白いと思うしかない」というのをやりたいし、やってきた。
でもまあ、そんなん、この作品でやったらあかんやん?(笑) あかんねん、あかんねんて。
それは自分のオリジナルでやるべきことで、「俺が好きなことを何でもやりたいです」ってのにお金を出してもらえて初めてやっていいこと(笑)。
─お金出す人と、ファン、観る人のことを考えてる 芦名:俺は自分のことをクリエイターじゃなくて、アレンジャーだと思っているのよ。元の何かを増幅させたり、新しい魅力を伝えたりすることが結構好きだし、そこが自分の売りかなと。もしかしたら自分の何か、0からの何かを産み出して見てもらいたいという欲求が低いのかもしれない。 ─一般的に、作品って「俺を見てくれ」「俺のワールドを見てくれ」があるっていうのが前提だと思ってたんだけど、芦名監督の─―今回の『劇場版いせかる』もそうだけど──何か人を喜ばせる、っていう気持ちが強い 芦名:ま、「喜ばせてやれ」というあざとい感情は持ってないけどね(笑)。

低頭身のアニメの強烈な難易度

芦名:そうそう、今回作っていて一番感動したのは、「等身が低いほど、やっぱりアニメーションは難しい」ってこと。普通の頭身でやった方が楽だったと思う。 ─え、そうなんです? 芦名:もちろんさ、ちっちゃいから(作画上)ズルできるっていう場合もあるはある。手足パタパタで済むとかね。でもね、小さいキャラクターだと、カメラの関係で、違う手間がかかるのよ。 ─違う手間? 芦名
そうそう、カメラ引くでしょ? すると今回の映画とかだと当たり前に20人ぐらいキャラがおるわけですよ。本当はメインで会話している4~5人だけちゃんと作画して、後ろ適当に描いてボヤけさせときゃいいんだろうけど、全員大事なキャラだからそれができない。しかもサイズが小さいから全身足まで映っている。どうカメラを調整してもどこかに誰かが映っちゃう。じゃあ、全員に演技つけないといけないわけですよ。
「いや、この発言したらこいつちょっと眉ピクって動くだろ」とか「違うキャラが反対側で発言してんだから、お前そっちの方向かなきゃおかしくね? 」とか、誰かが何かしたら、他の誰かも動くっての多すぎるわけ。
あのね、映画をする時にキャラの頭身はでかい方が楽です。もうこれだけは書いておいて欲しい。
まあ、完成作品を観た声優さんからは「セリフがない時も全員がすごくちゃんとキャラクター通り動いてる!」って喜んではもらえたけど。
─(笑) 芦名:ちっちゃいキャラでアニメをやるんだったら、まあ30人超えるのは良くないね。少人数の物語の方がいいよね。10までかな? それでも多いか(笑) ─でも、今回、あれだけの数のキャラクターが同じフレームに居ながらにして、最後まで話を楽しめて、なおかつ初見でも元のキャラクターに興味を見いだせた、っていうのは改めてすごいな、って思いました
芦名:そう言ってもらえると素直に嬉しいですなあ。

BGMがなじみすぎる理由

─あと、音。なんかすごく臨場感があったんですが
今回もテレビと同じく、川田瑠夏(かわたるか)に音楽を作ってもらいました。でも、今回は映画ということでテレビと違って、絵に合わせて曲を作ってもらったんです。
─絵合わせで曲を作る? 芦名:曲って普通は、 例えば「学園日常」とか「バトル」とか「ラストバトル」みたいなタイトルがあって、それらにM-1、M-2っていう感じでナンバリングしていくのね。M-2のメロディーでちょっと違うバージョンはM2-02みたいな感じとかね。
で、それをリストして音響監督が「このセリフからこのシーン、このカットまでこのM-14を使う」とか指示出して、キレイにそこで合うようにミキサーが整えてっていう作業するの。通常は。
だけど今回は尺を完全にカチーンって決めて、画(動画)を渡して「この画に合う音楽にしてください」って各シーンに対して全部やったの。
─うわあ、贅沢 芦名:だから音と絵の違和感が全くないでしょう?
まさに画に馴染むってやつですね。
─最後の曲もそうでしたが、……そういうことだったのか。あと臨場感もすごくてまさに映画という感じだった

削ったからこそ得られた脚本

─演出もセリフも、かなり気を使ってますよね? 芦名:まあ、キャラクター多いから……、30人いて1人3分喋ったらもう90分だし(笑)。
本当の話はもっと長くて4~5時間分は書いたかなあ……。その中で、ファンは喜ぶかもしれないけれど「物語としては蛇足」と感じる部分や「ここまで説明しなくてもわかるだろ」って部分をひたらこそげ落として。こそぎ落としまくって、よし! 少なくなった!って通しでチェックしたらあれ? 話がよくわからんようになったな。削りすぎや! 戻せ、戻せー、……で、どこ戻す?って(笑)
─これはこれでとんでもない作業 芦名:自分が脚本としてテキストを書く人間なので、文字主体になりがちなのよ。でも、アニメって絵で説明すりゃいい部分もいっぱいあって、そこの調整とかもするから大変でしたね。『オーバーロード』の(丸山くがね)先生と『Re:ゼロ』の長月(達平)先生2人とも「脚本の時だと伝わるかなと思ったけど、アニメになったら全然解像度が高くてわかりやすかった」とおっしゃってくれて。でも今思ったら「もっと削ってもよかったな」と感じている。
言葉書いてメシ食ってる自分が言うのもなんだけど、言葉なしで「うん」って思えるような演出にたどり着きたいです。
ちょうど次『夜は猫と一緒』ってTwitterで人気の猫のアニメを8月からやらせていただくのですが、こっちは言葉がほとんど無い。
結構作りとしても、今までのアニメにない手法を取っているから、そっちもお楽しみにしてもらえればと。

「思考停止」「自己愛」

─最後に、監督業で一番大切なものってなんだと思いますか? 今回の『劇場版 いせかる』を観たり、芦名監督の話を聞いていたら「熱意とコミュニケーション」なのかなあ、って思ったんですが 芦名:んんんー。大事なことは「作り手が考えることをやめないこと」な気がする。作品って、多分作ってる途中でなんかの理由で─予算とかさコミュニケーションかもしれんけど─何か心が折れて考えることやめるってしてしまった結果、つまらなくなっていくんだと思うの。そして、それが作品を観ている人に伝わっちゃう。そういう作品をよく観てきた。だから考えることをやめないこと。やめないためにコミュニケーションを取る。そういう話やと俺は思う。 ─思考停止が、作品に現れてしまうのかもしれないと思うと怖い 芦名:あとはね。バランスとか色々言ったけど、どうこういって「自分が面白いと思うものを作る」という覚悟かもしんない。色々、気を使っていても自分が面白くなかったら意味がない。
俺なんて「100回以上(本編を)見たからもう飽きちゃってるよー」とか言ってるくせに、いまだに『いせかる』のあの映画を、劇場で見てちゃんと泣いちゃうもん。
俺はすごいオナニー野郎だなと驚くほど、同じシーンでしっかり感動するからね。「めっちゃ泣ける……。これ書いたん誰や?? ……俺やんけ!」って(笑)。マジ天才やな! って。もうナルシストなんちゃうかなと思うけど、やっぱり自分を一番喜ばせるために作っている。だから楽しい。
俺の持論、というか自分に言い聞かせてることがあって、「自分を好きになれない人って人を好きになれないし、自分を笑わせられない人は人を笑わせられない」ってのがあるの。ここは大事にしている。だからアニメを作る以上は、当然自分を一番喜ばせたい。
─改めて聞きます。『劇場版 いせかる』は面白い? 芦名:俺って結構、見る目があると評判なのよ。偉そう(笑)。でも、そんな俺が面白いと思ってるから面白いと思うよ(笑)。そこはそう。それはそうだよ。生意気な言い方だけど、おもろい俺がおもろいと思ってるから。
うん。俺がおもろいと思ってるからもう絶対におもろい。
─最高ですね。ありがとうございます 芦名:ここ、すげえ嫌なやつに聞こえるから、ガジェ通さんはうまくまとめといて(笑)。 ─がんばります

原作を全く知らない人にこそ観てほしい『劇場版いせかる』

終始、本音100%で作品のことを語ってくれた芦名監督。観る人、原作ファンのことを第一に三方良しの心意気で作品を手掛けつつも、最終的に一番喜ばせたいのは「自分という観客」。作品に対して嘘が無い、ということがよくわかるインタビューでした。
ところで『TV版 いせかる』シリーズはもちろん、今回の『劇場版 異世界かるてっと』は『Adobe Animate』(Flash)を用いて作成されています。「(今まで、Flashってツールを使っただけで)ショートアニメだからって軽視されてた。今もされてるし。そうじゃなくて、もう本編と言わせるように作ったら、ちゃんと人は見るんじゃないの」と語る芦名監督の原作愛、映像愛が詰め込まれた『劇場版 異世界かるてっと』、6月10日(金)から全国公開中です。
是非、劇場に足を運んで確かめてみてください。「1ミリも知らない」人にむしろおすすめです。
原作ファンの方向けに言うと、「今後に関わるすごい秘密」も露出しているそうです。僕はこの通り初見だったので全く何もわかりませんでしたが、ディープな考察班の方はザワつくかもしれない? ようです。
劇場版 異世界かるてっと~あなざーわーるど~ 公式サイト
http://isekai-quartet.com/
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