どうも特殊犯罪アナリストの丸野裕行です。
あなたは刑務所内で行われている懲罰─《閉居罰》というものをご存知ですか? 逮捕や刑務所への収監とは無縁で生きてきた一般のみなさんからすると、このような用語を耳にしたことはおそらくないと思います。
・【実録! 刑務所シリーズ】
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懲罰といえば、受刑者が刑務所のルールを破った際に言い渡される罰則。規則を破ったあとに懲罰調査が入り、所内で起こった事件の詳細を取りまとめます。それから懲罰委員会が行われて、それ相応の懲罰が言い渡されるわけです。
今回はあまり知られていない、この謎の懲罰《閉居罰》について解説していきたいと思います。
《閉居罰》とはなんぞや?
この懲罰は、刑事収容施設(刑務所)法によって定められている受刑者に対して行われる懲罰のひとつになります。
30日以内の間、独居房内で謹慎させて、その間は自弁物(自分で購入したノートやペンなど)の使用や読書、宗教上の行事や儀式への参加、面会、自書の発受は禁止。20歳以上で特に所内で犯した問題が重い場合は60日以内となります。態度良好であれば免罰といって2日〜5日間まで短縮。受刑者同士がケンカした場合は、軽いあざができるくらいであれば50日間程度の懲罰になります。
閉居罰の謹慎姿というのは、居室で壁を見ながらただただ正座または胡座で、太ももの上に手を置き、背筋を伸ばした状態で座っているというものです。別に映画などで見るような気が狂ってしまうような薄暗い部屋に幽閉されるわけではなく、部屋としては普通の独居房になります。ちなみに、これはB級(犯罪傾向の進んでいる者)刑務所で、A級(初犯者)になると、注意を受けたときに「壁を向いて立っていろ!」と壁から5センチほど離れた廊下に立たされることがある程度です。
閉居罰の1日の流れ
閉居罰で無言で座り続けるのは、朝食時間から夕食時間(8時~17時)まで座り続けるというものです。部屋の掃除や洗顔、歯磨きなどの朝の準備を終わらせて朝食を食べ終えたら、壁を向いて座ります。
刑務官が時折チェックするので気を抜けません。昼食時は壁側を向かずにいても許されるのですが、昼食を摂った後は、夕食時間がくるまで再び座り続けるのです。
閉居罰中は、私物は全部房の外へ
夕食を食べ終え、食器を「空下げ(からさげ)」(※配食係が食事の済んだ樹脂製・アルミ製容器を回収)してもらってからは、特にすることはありません。壁を向く必要もないし、座る必要もない。しかし、何もやることというのはありません。
それはなぜか? 筆記用具や書籍をすべてバッグにしまい、刑務官が私物のすべてを房の外に出したからなんですね。独房の中にあるものといえば、チリ紙と石鹸、歯ブラシなど最低限生活に必要とするものだけなんですね。
さらに、閉居罰中には当然テレビやラジオを観たり、聞いたりすることができません。かすかにですが、隣の房のラジオが聞こえてくることもあるので、耳を澄まして盗み聞きする受刑者もいます。ですから、閉居罰中は基本なにもできないわけです。
面会も手紙も読めない苦痛
面会ができないので、家族などの肉親が面会にきたとしても会わせてもらうことはありません。刑務官に「諸事情によって面会はできません」とあしらわれて、面会もできずに帰るということになるのです。ちなみに親族が亡くなったときには恩赦で、《教誨室》に3日間通うことができるので、そこで宗派問わず手を合わせたり、祈りを捧げたりすることができます。
手紙の発信はできず、手紙の受信はできるのですが、届いた手紙を読むことは禁じられています。ですから、刑務官が手紙を差し出し、宛先だけを確認。そのあとは、房の外にある受刑者のバッグの中へ……。懲罰が解除になると、手紙や差し入れの品が一気に押し寄せてくるので、受け取りの処理にてんてこ舞いになるとのこと。しかし、一方でこの逆のパターンがあります。
天涯孤独であれば、誰も面会にこない、誰からも手紙は届かなくてもなにも気になりません。元受刑者のFさん(46歳)の話によれば、刑務所で一緒になった身寄りのない九州出身の受刑者Hは、人と交わるのを嫌い、常に閉居罰を受け続けていたそうです。
「俺は工場には絶対に落ちない」……それが彼の口癖だったそうです。Fさんは、彼がなぜここまで頑ななのかを調べてみると、良からぬことをいろいろな人間に吹き込む嫌われ者だったということが受刑者仲間の情報からわかりました。嫌われすぎて、組も破門になったそうです。
しかし、彼が語った常軌を逸した閉居罰のやり過ごし方にFさんは驚愕しました。
以下、Fさんの証言をもとに再現した、当時のやり取りとなります。
刑務官が通り過ぎればなにをやってもいい
受刑者H「閉居罰は意外と楽なんだよ。刑務官が房の前を通過するときだけ、壁を向いて座っていれば済むんだよ」
Fさん「ええっ!」
受刑者H「通過して、コツコツと靴の音が遠ざかる寸前に腕立て伏せと腹筋、屈伸運動をしたりするんだよ。バレなきゃ大丈夫だから……」
Fさん「バレたらどうするのよ?」
受刑者H「バレるかどうかのスリルがいいんよね。バレたらバレたで、また閉居罰を延長すればいい。誰も会いにもこないし、誰に手紙を出すという相手もいないし、いいんだよ」
Fさん「でも、私物がなにもないんじゃなにもすることがないんじゃ?」
受刑者H「いやぁ、今石鹸箱の中でゴキブリの子供を飼っているんだよ。小さくて大きくなるまで育てるんだ」
……このやり取りを経てFさんは、「こりゃ、この矯正罰はなんの役にも立たないな」と思ったそうです。
閉居罰中でも審査申請はできる
さらに《審査の申請》などの不服申立て制度を利用し、申請することによって、便せんや封筒、雑記帳、辞典や法律書などの書籍、筆記具など申請するときに必要だと認められるもの使用許可が下ります。
これには盲点があります。秘密確保が重要な不服申し立ては、その特性から刑務官が記述内容を知るということができないのです。
ですので、受刑者Hは懲罰中でありながら便せんや雑記帳に日々の食事のイラストを書いたり、あらかじめ記入しておいたクロスワードパズルをすることができたそうです。それでも、誰から文句を言われることはないのです。
閉居罰は懲罰中なにもすることがありません。しかし、同房のほかの受刑者との人間関係やしがらみが疎ましいと考える受刑者にとっては、逆に気が楽なのです。受刑者同士、受刑者と刑務官の関係……それほど刑務所の中の人付き合いというのは面倒だということでもあります。
以上、閉居罰の内容と意外な“抜け道”、いかがでしょうか。
この閉居罰に限らず、どんな罰則もそれを苦痛と感じることがなければ罰たり得ないということなのかもしれません。
(C)写真AC
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(執筆者: 丸野裕行)