地元密着型スーパーのウメヤで働く45歳の伊澤春男。勤続25年にして万年主任の彼を取り巻く悲喜こもごもを描いた映画『私はいったい、何と闘っているのか』。お笑い芸人・つぶやきシローさんによる小説を、『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』と同じ主演・安田顕さん、李闘士男監督、脚本・坪田文さんにより実写映画化したヒューマンドラマです。
今回は李闘士男監督に本作のこだわりについてお話を伺いました。
ーー本作大変楽しく拝見させていただきました!安田顕さんのお芝居が本当に絶妙で、気付いたら春男を応援しているというか、素敵でした。安田さんとの久しぶりのタッグはいかがでしたか?
久しぶりにご一緒出来て本当に嬉しかったですね。安田さんもお忙しいと思ったけど、またやりたいと言ってくださって。とにかく「真面目にやってほしい」と言いました。なおかつ「暗く演じないでほしい」と。この春男って、本人は大真面目で、面白いと思ってやっているわけではないのですが、観ている方からすると面白くて。僕がコメディーをやる時の大前提がそれなんです。
ーー原作がつぶやきシローさんによる小説ですが、映画にするにあたって工夫されたことはどんなことでしょうか?
セリフとモノローグを分けました。モノローグが春男の本音で、セリフは建前です。本音と建前の振り幅が大きいほど楽しいと思っているので、そのギャップを大きくしましょうと安田さんとも話しました。
ーーまた、ファーストサマーウィカさんも素晴らしい演技をしていらっしゃいますね。
嬉しいです、良かったでしょ。彼女の存在はもちろん知っていたのですが、こんなに映画に馴染んでくれて本当に良かった。いかにもウイカさんという感じではつまらないと思ったので、「あれそうだったの!」と思っていただける様な役作りをお願いしたというか。彼女が演じる高井さんって春男のことが好きなのかな?そうじゃないのかな?って絶妙なラインだと思うのですが、ウイカさんは非常に良い塩梅で演じてくれたので、この映画の良いアクセントになってくれていると思っています。
ーー本作は何か大きな出来事があるわけではないのに、すごく引き込まれてあっという間に観終わってしまいますよね。監督の中で山場をどこに持って行こう、などという意識はあったのでしょうか。
山場…これは僕の考えなのですが、山場を意識して映画を作ることは無いんです。山場を持たせる、ってよく言いますけどゲームシナリオの発想だと思っていて。それが良いことでも悪いことでもないんですけどね。飽きさせないという考え方は分かりますし。
でも、事件のような派手な盛り上がりがないのに、人が愛おしく見える映画も素敵だと思っています。登場人物たちに共感できると、山場がなくても観続けられるというか。この映画では山場という考え方をせず、春男やスーパーのスタッフたちのおかしさに興味を持ってもらえるかということは考えました。
ーー今のお話を聞いて、「人が愛おしく見える映画」という部分にすごく納得しました。まさにそういうお話ですよね。
善悪がはっきりしている作品の方がドラマとしてはやりやすいのですが、僕の作品の中では悪人を作りたくない。あと、不器用や人生がうまくいっていない人の方が好きなんです。僕の映画にはスーパーマンは出てこなくて、市井の人々しかいないのだけど、ちょっと過去に傷があったり鈍臭いひとたちに寄り添いたいという気持ちがあるんですよね。
ーーこの映画はそういったたくさんの人の心を温める映画だと思います。本日は素敵なお話をどうもありがとうございました!
『私はいったい、何と闘っているのか』大ヒット上映中!
https://nanitata-movie.jp