どうも特殊犯罪アナリストの丸野裕行です。
前回お伝えした《懲役累計20年の受刑者ノート》第1弾ではリアルな獄中の叫びが綴られたノートに多くの反響をいただきました。
■懲役累計20年の「受刑者ノート」を入手!彼は獄中で何を思っていたのか?
https://getnews.jp/archives/3175946
以前は入所した直後の様子をお伝えしましたが、今回は出所を心待ちにしていたであろう頃のX氏(50歳)の様子について、ノートを見ながら綴っていこうと思います。
出所とはいったいどういう手順を踏み、どのように迎えるのか、実際のノート内容・画像を基に、X氏の当時の記憶を辿ってみましょう。
<写真:ムショに入ると本の虫になる。これらの書籍の情報は新聞やスポーツ新聞などに掲載されていて、出版社に「新刊のカタログください!」と手紙を送るか、文庫本のあとがき後の広告をチェックして購入する>
入所前もいろいろな手続きがある
X氏「判決が下り、14日の控訴期間が終了後、確定受刑者となる。確定受刑者になれば、受刑先刑務所が決まるまで、確定受刑者として拘置所又は最寄りの刑務所で受刑しながら移送される日まで待ちますが《移送待ち=待機》。この間は、紙折りの仕事をします」
<写真:常に刑務所の待遇について考えていたX氏。刑務官たちも一目置いていた>
丸「内職みたいなお仕事をするわけですね?」
X氏「そうなんです。刑務所の法律で確定受刑者には刑務作業をさせなければならないと決まっているんですよ。そのままのその刑務所にいるのであれば考査工場(受刑者の性格や体力等を見ます)に、14日後に各工場(その受刑者に合った)に落ちます」
丸「他の刑務所に決まれば、どうなるんですか?」
X氏「他の刑務所に決まれば、移送されるのが当日に伝えられるわけですが、仲間が待ち伏せしていたりした場合を想定してです。移送の場合は、手錠と腰縄をつけて刑務官数名で移されます。それからが最後の3年のはじまりでした」
出所1ヵ月前には《領置調べ》がある
丸野(以下、丸)「だいたい出所何ヶ月くらい前から準備をはじめるんですか?」
<写真:こういうエッチな本の虫にもなる>
X氏「そうですね、少し前から出所しても困らないように“中髪刈り”が許されはじめて、1ヵ月半くらい前に《領置調べ》というものがはじまります。領置調べというのは、刑務所に預かってもらっている衣類や靴、持ち物が何品あるのかを調べるものですね」
丸「ほほう」
X氏「それからは《分類面接》というものがあって、出所時の注意、帰るところがあるか否か、保護施設が必要かなどを説明されて、クリーニング申請。このクリーニング申請というものがすごく大切で、3年間も着ていない衣類になるとカビが生えていたり、すごい臭いがしたり、キレイに洗わないといけない。外に出て電車に乗ることなんかできませんからね」
丸「さすがに数年放置した洋服というのは、着る勇気がないですね」
出所前に個人名などの情報を消す
<写真:ノートの1ページ、1ページに“検閲”の判が押されている>
X氏「それからは一応検閲は受けていますが、ノートに書きこまれた個人名などを消したり、年数を消したり、破棄したりします。これは所内の情報を漏洩させないためですね。こちらを見てください。すべてはがして破棄です」
<写真:すべてはがした後。ここにノートの使用心得というものが貼ってありました。《同房の住所や電話番号を書くな》と書かれています。さらにページを破るな(番号が振ってある)、大切に使え、などという注意書きがある>
私物を引き上げられると、また官服を着なければならない
丸「所内での刑務作業は出所何日前までなんですか?」
<写真:刑務所の流れが克明に書き込まれている>
X氏「だいたい満期出所の場合は、3日前まで通常作業です。直前に《警備隊面接》というものがあり、“出所時に何人集まるか”“何台の車がやってくるか”などの確認があります。それからは、工場作業がラストになり、《引き込み=単独房に移される》。処遇本部で説明を受けて、そこからは《満期出所房》に入ります」
丸「それからは天国なんじゃないですか?」
X氏「でもね……その間に、書き物をしていたペンやノートなどは念のために、《私物引き上げ》です。ここからが地獄でね。また入ったときのように、誰が履いたかわからない官服に着替えなければいけません。汚いゴムが伸びたパンツを履いて、単独房で内職をしたり、テレビを自由に観たりして過ごします」
丸「それからは?」
X氏「出所直前に《領置金調べ》という所持金と作業報奨金のチェックがあります。金額が合っていれば、そのまま書類に指印(左手の人差し指)をして、札や小銭の入った封筒に封をされます。ちなみに、土日は出所がなく、月曜日などの平日になりますね。そして“刑務所のアカを落とす”という語源になった最後の入浴。ゆっくりと体を清めるわけです」
丸「長かったですね。その気持ちよさ、お察しします」
いよいよ出所のとき
X氏「以前であれば、人知れず早朝に出所もしていたものですが、『新監獄法』の制定によって夕方の17時まで出所可能ということになっています。3年間も入所していたので携帯電話は止まっているし、とにかく駅に着くまで迷いましたね。駅員に乗り継ぎ方を聞いて、自宅に帰りつくころにはもう夜」
丸「見知らぬ街から帰ろうとすれば、そうなりますよね」
X氏「母の自宅まで最寄駅から歩いたんですが、地元市内のネオン輝く夜景が眩しくて、もう“これを最後”にしようと決意しました」
丸「20数年の刑務所生活と決別した瞬間だったわけですね」
X氏「はい、そうでしたね」
それからはヤクザ業界からキッパリと足を洗ってというX氏。今では、奥様と二人三脚で飲食店を経営し、幸せに慎ましく暮らしておられるとのことです。コロナ禍で経営は苦しけれど、夫婦ふたりなら十分やっていけるとのことです。
実際に拝見した、《獄中ノート》というのは塀の中で暮らす者の哀しみが活字になって、紙の上で悶えているように見えたのは私だけでしょうか?
(C)写真AC
※獄中ノートは取材での撮影となりますが、その他の写真は一部イメージとなります
(執筆者: 丸野裕行)