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『漁港の肉子ちゃん』キャラクターデザイン・総作画監督の小西賢一さんに聞く「可愛いとリアルのさじ加減」「コロナ禍での制作について」



現在大ヒット上映中の劇場アニメ映画『漁港の肉子ちゃん』漁港の船で生活するちょっとワケあり母娘・肉子ちゃんとキクコの愉快な暮らしぶりを、自然残るノスタルジックな漁港の景色や季節の移り変わりとともに美しく描き出した、感動のハートフル・コメディーとなっています。


本作を手がけたのは『海獣の子供』(2019)が高い評価を受けた渡辺歩監督とSTUDIO4℃。キャラクターデザインと総作画監督を担当したのは、同じく『海獣の子供』など様々な作品で活躍する小西賢一さんです。


スタジオジブリ一期生として入社し、アニメーターとして『耳をすませば』『もののけ姫』に参加、『かぐや姫の物語』では総作画監督を務めた、アニメ界になくてはならない存在の小西さん。映画についてお話を伺いました。



――本作大変楽しく拝見させていただきました。キャラクターデザインも個性的な作品になっていると思うのですが、小西さんはどの様にデザインを作っていきましたか?


小西:原案自体は渡辺監督が起こしていて、準備段階でイメージ画がいくつもあったので、それを具体的にしていったり。肉子ちゃんなんかはキャラクターが濃すぎて、どう描いてもこうなる部分はあるのですが(笑)。


――肉子ちゃんは本当にインパクトのある見た目ですよね!


小西:丸っこい女性のキャラクターって意外と難しくて、肉で関節が見えなくなっていたり、それを生々しくしすぎてしまうと、可愛くないというか。「可愛い」と言われる様にさじ加減を意識して。僕はリアリティーのある描写も得意だったりするんですが、行き過ぎると可愛くなくなってしまうので、バランスは大切に考えています。




――その他、小西さんがこだわったキャラクターはいますか?


小西:キクコは一番気を遣いました。一目みて“美しさ”を感じるキャラクターでなければいけない。他のキャラクターと一緒に画面に出た時、対比として何かが際立っている様にしたいと。キャラクターの特徴自体は地味で、着るものも地味なので、何で美しさを出すかというと、頭の小ささ、手足の長さ、体のラインだったり。自分が可愛いということを自覚しているキャラクターなので、美しいと感じとれないと説得力が出ないと思いました。





――完成した作品をご覧になっていかがでしたか。


小西:もう少し時間があったらここを直したかったな…というところがたくさんあって(笑)。制作スケジュールに余裕があった作品ではないので、細部まで修正などは叶わなかったので。でもそれは、相当な時間をかけて作った『海獣の子供』でもそうなので。常に「ここ直したかったな」って思ってしまうものなんです。


――いくらやっても満足しないというか…、こだわりを感じます。素晴らしいアニメーションに、西加奈子さん独自の世界観が合わさっていますよね。


小西:西加奈子さんの本はこれまで読んだことなかったので、最初はどういう話なんだろう?と思いながら原作を読んでいて。いつもそうですが、だんだん「こういうことか」と分かってくる所が面白いですよね。周りのスタッフも、涙を流して観ていて。印象的でした。


――特に好きなシーン、印象的なシーンを教えてください。


小西:泣いてしまうのは「サッサン」の病室のシーンですね。あと気に入っているカットとしては、二宮とキクコのやりとり。見るたびに好きなシーンが変わっていきそうな作品だと思うのですが、今の所そんなシーンが気に入っています。


――私もそれらのシーンが大好きです。あと、冒頭の肉を切るシーンは一気に引き込まれました。


小西:あの肉のカットは大変でした。肉の質感を保ったまま切っていき、肉の模様で日本地図だったり、色々な情報を表していて。担当した嶋田真恵さんというアニメーターがすごく上手だったので上手くいったのですが、枚数も多いですし、動かしたいだけ動かしているので。贅沢なシーンだなと思います。



――本作はコロナ禍の中で制作された作品ですが、それによって大変だったことはありますか?


小西:大半がリモート作業になって、現状も半々くらいです。僕としては、みんなが近い所にいて作業をするのが好きなのですが、こういう状況ですからね。今はデジタル化もしているアニメーターも多いとはいえ、もともと紙の作業でもアニメーションの作業をリモートでする弊害というのはあまりないんですよね。


――小西さんは今はデジタルと手描き、どちらを使っていますか?


小西:僕は両方使っているのですが、紙で手描きの方がチェックしやすくて好きです。紙の方が細かいニュアンスというか、かゆい所に手が届く。デジタルではその細かい所がちょっと不安な部分があるんですね。拡大できるとはいえ。デジタルの良さっていうのは「キャラクターに色が塗られた状態」で動きや絵の修正が出来るんです。ということは、スケジュールのギリギリまで絵を直せるということなので。粘れる時間が増える。僕みたいな直したい場所がいくらでもあるタイプは、デジタルのおかげで更に粘れるようになりました。


――私もこれまでたくさんの小西さんの作品を観てきて、今日お話を伺えるだけで感激なのですが、本作などで、若いスタッフの方が小西さんとお仕事出来るというのはとても幸せなことですね。



小西:そうなんですかね。僕のことを好き好きって言って来てくれる人はあんまりいないですけどね(笑)。


――皆さん緊張しているのだと思います(笑)!


小西:だいぶ僕もベテランになってきてしまって、若いスタッフが自分と仕事をする時に萎縮しているのかな?と感じることもあります。僕も若い時はそうでしたから。ああ、自分もそっち側になったんだなあと(笑)。僕の携わってきた作品って割とツウ好みというか、人を選ぶかなとは思うのですが。


――素朴な疑問で恐縮なのですが、ご自身が携わった作品を見直したりすることはありますか?


小西:この仕事をはじめて最初の10年、「ジブリ」の社員だったので、ジブリ作品がテレビ放送される時は時々観ています。ジブリって色褪せないですし、今もお手本にしたい作品が多いので見返すことはあります。自分が担当した所は見たくないんですけどね…、でも見ちゃうかな。たいていは「よくやってたな俺」って思います(笑)。新人の頃にレベルの高いジブリの作品になんかついていけて、よく描けたなと自分のことながら感心することもあります。


――国内外問わず、最近ご覧になって感動した作品はありますか?


小西:最近で言うと『スパイダーマン:スパイダーバース 』(2019)。3Dアニメーションなのに2Dだったり色々な要素が入っていて、ストーリーも斬新ですし。それと近い時期、『スパイダーマン:スパイダーバース 』の後に『海獣の子供』も公開されて、「日本のアニメもすごい」という評価をいただけたので、自分が関わっていながらですけど「なかなかよく頑張ったなあ」と印象深いです。STUDIO4℃と制作の田中栄子さんの粘りというか、普通『海獣の子供』みたいに時間をかけて作れないですからね。そういう作品に関われてありがたいです。


――私も『スパイダーマン:スパイダーバース 』も、『海獣の子供』も大好きです! 本当にアニメ作品にはそれぞれのカラーがあって面白いですよね。


小西:僕が子供の頃がアニメブーム直撃で。アニメが大人気でしたし、ベビーブームで子供の数も多かった。もろに“あてられた”って感じなんですね。『ガンダム』ブームがあり、『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』ともかぶっていて、そういうレジェンド的な作品がたくさんあった時期なんですよね。その後好きな世界に飛び込んで、自分に出来ることがあるんだと教えてくれた業界というか。日々の作業に追われ続ける生活ですが、こうして作品が一本完成すると改めて楽しい世界だなと感じたりします。


――今日は素敵なお話を本当にありがとうございました。



『漁港の肉子ちゃん ARTBOOK』

キャラクター設定、小⻄賢一による作画監督修正、木村真二による美術設定、背景美術などいった、名匠たちが「漁港の肉子ちゃん」の世界をアニメーションとして作り上げる過程が、200ページに詰め込まれた貴重な一冊。


『漁港の肉子ちゃん』大ヒット上映中!


愛情深い性格ゆえに、これまでの人生、ダメ男ばかりを引き寄せては、何度もだまされてきた母・肉子ちゃん。

とんでもなく豪快で、子どもみたいに純粋な母に比べて、しっかりもので大人びた性格の小学5年の娘・キクコ。

ふたりは肉子ちゃんの恋が終わるたびに各地を放浪し、北の漁港の町へと流れ着く。

漁港で途方にくれる母娘の胃を満たしたのは、一軒の焼き肉屋「うをがし」の焼肉だった。

妻に先立たれ、店をたたもうとしていた店主・サッサンは、目の前に現れた肉子ちゃんを”肉の神様”だと思い、「決しておなかを壊さないこと」を条件に肉子ちゃんを雇いいれる。こうして、サッサンが所有する漁港の船を住処に、肉子ちゃんとキクコの新しい生活が始まった……!


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https://getnews.jp/archives/3036787


(C) 2021「漁港の肉子ちゃん」製作委員会


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