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5つの短編作品が収録されている『あなたと私の周波数』(百合姫コミックス)のくわばらたもつさん(@kuw8ra)がTwitterで公開したマンガ『バイト先の厄介な常連客』。カフェで働く野々村さんが、常連客の女性漫画家に対して感情を乱される様子が瑞々しく描かれており、「すごく心に刺さった」「気持ちを持っていかれた」といった声が寄せられています。
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おわり! pic.twitter.com/tm1W0z9ZCJ—くわばら (@kuw8ra) October 28, 2020
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コーヒーショップでバイトを最近はじめた野々村さん。同僚のイケメンの中田くんことが少し気になっていたりして、「楽しくてしょうがない」と思っています。そんな中、テーブルに伏せってうなっている女性客が落としそうになったペンを広い上げて渡します。
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タブレットで絵を描いていることに気づいた野々村さんに「一杯で長居してごめんなさい。おかわりするんで…」という女性客。「漫画…勝手に見てすいません…漫画家さんですか?」「えぇ、まあ…。…売れてないですけど」「すごーい。どんなの描いてるんですか?」「主に恋愛物ですね。少女漫画…」「へぇ~」と当たり障りのない会話。「私、恋愛した事ないんですけどね」と言われ、「それでも描けるものなんですね~」と返すと、漫画家は「なんとなくわかるじゃないですか。例えば…、君が彼の事が好きとか」とズバリ。眉を歪める野々村さん、「この時から目障りな奴だった」といいます。
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「話しかけなきゃよかった」と後悔しつつ、「それに中田さんの事好きじゃないし、少し気になるくらいで…」と思いますが、当の中田くんが「…よし!」と気合を入れて漫画家のもとに行くのを目撃し「は?」となります。別のスタッフの「ついに、行ったか中田くん」との言葉に「へ?」となり、「ずっと気になってたらしいよ~」「そう…なんですね」と言いつつ、「恋愛した事ない」という漫画家なら「望み薄じゃ…」と思いますが、「連絡先交換できました」という中田くんの報告に「なにこれ」となります。そこで、漫画家からの視線を感じて、「こっち見るなよ…」と嫌悪感を募らせます。
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何事もなかったように来店した漫画家に「よく平気な顔して来れるよな」と思い、「やっぱ苦手だわこの人」となる野々村さんに、「俺ってキモいんですかね」と突然言い出す中田くん。「連絡が一度も返ってこないんです。何度も送ったんですけど」と既読もつかずに落ち込んでいます。野々村さんは「忙しいんじゃないですか?今も…ケーキ食べてるし…」とうわべの励ましをしつつ、「本当によく平気な顔して来れたな!何がしたいんだ…」と思います。
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「何がって漫画描きに来てるだけか。あーあ、…消えてほしい」と思う野々村さん。自分が漫画が描なくなり、「面白くない」というコメントがつけられ、編集に「前回の作品の評判を気にしすぎていませんか?奇抜な物を無理に描こうとしているように感じるのですが…」と言われて、「あの、面白いと思ってたんですけれど、すみません。…わからなくなりました」となり、しばらく漫画を描くのをやめて、バイトをはじめることにしたのでした。
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ペンを走らせる漫画家を見て、「あっちは気にも止めていない」となる野々村さん。「あの、漫画見たいのでペンネーム教えてください」と声をかけると、「これに載ってる読み切りです」と雑誌を渡されます。「読んでどう思っても、漫画もあいつも気にするのは今日で最後」と読み始めますが、「ん?なんか…この主人公」となり……。
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ただならぬ雰囲気で漫画家のもとに向かう野々村さん。同僚の制止も聞かずに「これ私のことですか?」と訊くと、あっさり「少し参考にさせてもらいました」と答えられ、「勝手にネタにしないで下さい」と抗議。「何もかも腹立たしいけど、特に主人公の最後…。失恋して夢追いかけて成功?そんな上手いこといく訳ないじゃん」とダメ出しをして、「つかあんたに描かれるくらいなら私が」とつぶやき、「何言っても意味ないですよね。あなたはただ私の様子見て面白がってただけですもんね」と言います。が、漫画家は困ったような表情で「…面白がってないよ。だって普通に面白くなかったし」と答えて……。
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思わずドリンクを漫画家にぶっかけてしまう野々村さん。「誠に申し訳ありません!何か拭ける物を」と慌てるスタッフの声を遠くに、「これでも、眉一つ動かさない」と思い、「わかったよ。面白くすりゃいいんだろ」とにじり寄った野々村さんは、漫画家に唇を重ねます。しかし、そこでも表情を変えずに「おわり?」と言われ、茫然となります。
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バイトをクビになり、大学卒業後に結局漫画の仕事をしている野々村さん。打ち合わせで「すごい偶然ですね。偶然というか…」と名刺を取り出し、「異動した北野の引き継ぎで篠田さんの担当になります。野々村です。よろしくお願いいたします」とあいさつ。「??」となっている篠田さんに「メールでもご挨拶したので気づいてるかと思ったんですけど」と言い、「…名前、覚えてませんでした」との答え。ソファからずり落ちそうになりながら「大掛かりな仕返しですか」と聞く篠田さんに「違います。○○社に就職するきっかけにはなりましたけど…」という野々村さん。「驚いた…」とつぶやいた篠田さんは、ニヤニヤしている野々村さんに「なんですか…その顔」と困惑した表情で聞き、「いい顔、してるなって」答られ、さらに「面白い作品にしましょうね!」と追撃されて「えぇ…」となるのでした。
「女性同士の感情の殴り合いが好きです」というくわばらさんによると、「単純にコーヒーかけられてもポーカーフェイスな女性とそれに逆ギレでキスする女性の場面が描きたかった」といいつつ、「面白いとは……と延々と考えていた」こともこの作品を着想したきっかけだったとのこと。
徐々に中田くんの存在が野々村さんの中から消えて、篠田さんのことで頭が一杯になっていく様から、キスまでのスピード感、そして最後の転回までの流れに揺り動かされた読者が多かった模様ですが、くわばらさんは「誰かが何か感じて、さらに感想を言葉にしてくれるってすごい事だなっていつも思います。ありがとうございます」とメッセージを寄せてくれました。
マンガに限らず、世の中にあふれる物事を「面白い」か「面白くない」かで表現しがち。そういった中でクリエイターを目指す人は戦っていかなければならないということも描かれているように筆者には感じられました。何気ない日常にもドラマがある可能性についても、読む者に気づかせてくれる作品なのではないでしょうか。
※画像はTwitterより
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