BlackMagicDesignから発売中の「ATEM Mini」。「ATEM Mini」は、低価格帯ながら本格的なマルチカメラでのライブ配信が可能になるビデオスイッチャーです。
ビデオスイッチャーとは、映像制作の現場において映像を切り替える機材のことで、生放送の現場などでは欠かせない機材のひとつです。カメラから別のカメラへの切り替えや、画像や動画へと切り替えていくことが可能で、映像の中に別枠で顔を映し出すピクチャー・イン・ピクチャー(PinP)、いわゆるワイプの機能もスイッチャーで行うことが多くあります。
これまで、このようなビデオスイッチャー機器は数十万円~数百万円という高価な機材でしたが、近年は価格が低下して安価で手に入るようになってきました。安くなったとはいえ10万円台から、というような金額で一般の方が「ちょっと買ってみようかな」と思うにはまだ手が届きづらい金額でしたが、今回レビューする「ATEM Mini」は、35980円(税抜)。据え置きゲーム機並の価格帯ですが、そんな「ATEM Mini」で何が出来て、何が出来ないかという点をレビューしていこうと思います。
あらゆる動画入力フォーマットに対応した使いやすさ
「ATEM Mini」の映像入力端子にはHDMI入力が4本備わっています。HDMI端子は、パソコン、ゲーム、ビデオカメラ、スマートフォンといった様々な最新機器の映像出力に対応した規格で、それらから出力されたHDMIの映像を「ATEM Mini」に入力することができます。1080p60Hzまでの多種多様な解像度に対応しているため、コピーガードなどの例外を除くあらゆるフォーマットの映像を取り扱うことができます。
パソコンへの接続のしやすさ
USBタイプCケーブル(3.1Gen1)1本でパソコンへ接続が可能です。パソコンにはOBSやWirecastといった配信ツールに映像入力ソースとして、SkypeやDiscordといった通話ツールにもウェブカメラ扱いで利用することができます。Windows、Mac問わず利用可能な点も利便性が高く、コンパクトかつ軽量なため携帯性も良く非常時に持ち出せるのもありがたいポイントです。
ユーザーが利用したい最低限の機能を搭載
「ATEM Mini」にはカット/フェードでの映像スイッチングやPinPだけでなく、グリーンバックに対応したアップストリームキー、静止画をストックしておけるメディアプレイヤー機能、オーディオミキサーといった、映像制作における最低限の機能が搭載されています。HDMI出力も搭載されており、サブモニターを使った映像の確認や、プロジェクターへの出力なども可能です。
細かい設定はソフトウェアで調整可能
パソコンから利用可能なATEM Software Controlでは、クロマキーのカラー設定やメディアプレイヤーから画像の選択、1つ1つのアクションを記録できるマクロ機能などの設定が可能になります。PinPのサイズやボーダーの色、オーディオのコントロール、プレビュー/プログラムと直接操作の切り替えなども可能で、環境に応じて設定を調整することもできます。もちろん、そこまで必要のない方はハードウェアのみで、細かい設定までこだわりたい方はソフトウェアも駆使してクオリティを追求することが可能です。
「ATEM Mini」はここが苦手
ここまで利点を挙げてきましたが、「ATEM Mini」に出来ないこと、苦手なことももちろんあります。まず、映像入出力において扱えるのがHDMIのみという点。VGA、DVIといった形式が扱えない他、RCA端子、SDI端子も扱うことが出来ません。プロジェクターがVGAしか対応していないとか、昔のゲームを直接取り込むことが出来なかったり、プロ現場で好まれるBNCケーブルが扱えないといった部分は苦手な要素となります。
また、音声に関しても3.5mmステレオミニプラグの入力は可能ですが、XLR端子やフォーン端子の入力ができません。映像同様、RCA端子もありません。オーディオミキサーから音を送る際には注意が必要です。出力用のイヤホンジャックなどもないので「ATEM Mini」内に入力されている音の確認や、スピーカーで全体に流すこともできません。
HDMI出力からマルチビューが出力できない点も苦手なところといえるでしょう。4本のHDMIケーブルを刺していても、同時に4つの映像を確認する手段がありません。例えば、トーク番組などで、いいリアクションをしている出演者がいても、全部のカメラ映像をチェックできているわけではないので瞬時にスイッチングすることができない、といった具合です。
以上が、1週間程度触ってみて記者が感じた「ATEM Mini」が苦手とする点です。長く使っていくとまた気になる点が増えていかもしれませんが、価格と自分のやりたい事が合致しているなら損することはないガジェットであると思います。
最後に、実際に現場に投入してみたので、現場でどのように使ったのかを参考までにお伝えいたします。記者は、現場で配信を担当していました。配信の業務は、映像と音声を受け取り「YouTube」や「ニコニコ生放送」などの配信プラットフォームに配信する業務です。今回は、2本の番組枠に映像を配信する、いわゆるサイマル配信だったので配信用のパソコンは2台用意、うち1台のパソコンに「ATEM Mini」を接続しました。
映像、音声はエンベデッドされたものをSDIで渡されたため「ATEM Mini」で直接取り込むことは諦め別の機材のSDI入力で受け取り、HDMIに変換し「ATEM Mini」へと入力することにしました。入力したHDMIから映像が届いていることを確認し、「ATEM Mini」の機能である“AFV”ボタンをプッシュ。“AFV”は、オーディオフォロービデオの略で、“AFV”をオンにしておくと映像のスイッチングと同時に音声もスイッチングすることができる機能です。これにより、受け取った映像・音声をそのまま配信ツールに取り込むことができました。
今回はスイッチャーというより、主にビデオキャプチャーとしての利用でしたが、メディアプレイヤーに開始と終了の画像を仕込んでおくことも出来たので、いざというときにも対応できると感じました。2カメまでであれば、配信ツール上に本番の映像、HDMI出力からプレビューのカメラ映像、という使い方もできるため、マルチビューにこだわらずともカメラ映像のチェックができました。
触ってみての感想ですが、安価なビデオスイッチャーでありながら、高機能なキャプチャーボードでもある製品という感覚でした。業務用機器としては力不足な部分もあるが必要十分でありつつ、ストリーマーやクリエイターにとっては表現の可能性が広がる、幅広いニーズに応えうる製品といえるでしょう。
ATEM Mini
https://www.blackmagicdesign.com/jp/products/atemmini
―― 表現する人、つくる人応援メディア 『ガジェット通信(GetNews)』