ジョーダン・ピール監督によるサプライズ・スリラー作品『アス』が公開中。公開に先駆けて、8/29にOSOREZONE(オソレゾーン)主催の上映会&トークショーが行われた。
登壇したのは、『呪怨』の清水崇監督と、『ダイナー』の映画化が記憶に新しい作家・平山夢明。『ゲット・アウト』『アス』と2作続けてスリラー映画を発表したジョーダン・ピールと近い分野で活躍するお二人が本作を掘り下げる、濃密なトークショーとなった。
以下のレポートは本作の具体的な内容に触れています。必ず、映画本編をご覧になってからお読みください。
導入はジョーダン・ピールのデビュー作『ゲット・アウト』の話題から。本作がアカデミー賞の脚本賞を受賞し、興行的にも成功したエピソードを話しながら「『ゲット・アウト』はエンタメとして納得がいくまとめ方をしてたけど、今回は違うよね」と清水が『アス』の話に展開。「今回はやりたいことをやっていた」と平山も相槌を打った。
清水は「きょとんとする人もいるかもしれないけど、今回の方が好きなんですよ」と『アス』を絶賛。平山は本作の分かりづらさを指摘しながらも「ストレートなホラーって主人公が生き残るのか否かだけど、ジョーダン・ピールの作品はホラーの中でも陰謀のようなものがあってスリラー寄りだよね。気が付くと自分が信じていたものがひっくりかえる」と作品の魅力を語る。
“望まない状況”を与えられてしまった人の話
続けて平山はドン・シーゲル監督の『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』を引き合いに出しながら、似ている部分を指摘する。『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』は赤狩りの恐怖を作品に込めたようだが、これと同じように『アス』は社会性の強い作品であると言う。
「本作に登場するのは、フランケンシュタインの怪物と同じで、“望まない状況”を与えられてしまった人。例えば女性であったり、黒人さんであったり、有色人種であったり。(この映画で言うと)押し付けられた貧しく非人間的な状況で生きなければいけなかった人の話」と作品の隠された一面について話した。
「僕が怖いなと思ったのは、例えばいきなり隣の人を救うために全財産払えって言われてもそれはできないこと」と平山は話す。劇中に登場する息子が、母の正体に気付きながらもお面をかぶりなおすシーンに触れ、「たとえば損得とか、社会的な観念に染められていない子供でもそれができないことを本作は表現していて、現実の格差といった世界的な問題、救うべき人を救えない状況を示している」と語った。
エレミア書 11章11節
劇中に、男が段ボール紙に書いた「Jeremiah 11:11(エレミア書 11章11節)」という言葉を掲げているシーンが登場する。清水は「劇中にも何度か引用が登場しますけど、旧約聖書のエレミア書という預言書について、その意味を調べた上で見直すと“より怖い”と思います。音楽もちょっとそれに因んでるんですよ」と説明。
平山は“あなたたちが神の言葉を聞かないならもう助けない”という神の宣言だと大まかな意訳を添えながら、「それが監督のメッセージなんじゃないかと思う。“もうこの状況でいっぱいいっぱいなんだよ”というね」と分析した。清水は「旧約聖書の一節とか、黒人と白人の状況とか、日本人がピンと来にくい部分を描いている」と指摘し、「そこで、“なんだろう、あの不気味さは”と思ったら、どんどん調べてまた何度か観直してみるとじわじわ怖さが分かると思います」と観客にアドバイスを贈る。
“ハンズ・アクロス・アメリカ”
大勢のテザードたちがずらりと手をつないで並ぶラストシーンについて、清水は「最後が“ハンズ・アクロス・アメリカ”って開き直った感じあるじゃない? 怖いよね」と太鼓判。
“ハンズ・アクロス・アメリカ”について、“ウィ・アー・ザ・ワールド”に続くチャリティイベントだったと観客に説明する平山。「手をつないで大西洋から太平洋までつなごうよ、というイベントだった。お金を何ドルか送ると、“○時○分にここに行って”と言われるので、行ってみると手を握る人が待っているという(笑)。ちょっと不思議なイベント」と説明。
貧困のために、冬のニューヨークの寒さを避けて地下に住んでいる“モール(=もぐら)ピープル”と呼ばれるホームレスたちを救うためのイベントだったという。平山は更に、「ボディ・スナッチャーものの話だと、大勢の人間が走り回って追っかけて、普通の人たちを襲うというシーンがあるんだけど、本作の“ハンズ・アクロス・アメリカ”はそのシーンの代わりになってるんじゃないかと思う」と分析した。
また、テザードのなかに入ってしまった主人公・アデレードについて、「テザードの人たちは大脳がないわけだけど、その代わりにアデレードが持っていたんだよね。彼女が黒船のように地上の文化を持ってきてしまった。“実はこういうことなんだよ”とテザードたちに教えてしまった」と平山。これに対し、清水が「アデレードが知恵を与えてしまったわけですよね」と言うと、平山はそういった意味では『2001年宇宙の旅』における“モノリス”でもあった、と例える。
清水は本作を総評し、「各所に笑いがあって良いし、何はともあれ、このネタ一発でここまでやるか!」と同じ映画監督としてジョーダン・ピールの力技に感心する。一方、平山は「『ゲット・アウト』があんなに受けたにも関わらず『アス』では観客に媚びることを拒否して、生々しい恐怖を植え付けて去る」と解説。ふたりは、本作を明快なホラーではないが、ホラー映画としても正しいことをやっていて、根源的な恐怖をよくつかんでいるとジョーダン・ピールの手腕を褒め称えた。
『アス』
TOHOシネマズ日比谷他にて公開中、全国順次ロードショー
(C)2018 UNIVERSAL STUDIOS
(C)Universal Pictures
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