2019年5月、デジタルハリウッド大学(DHU)にて日本人CGアーティストの多田学さんによるCGメイキングセミナーが開催されました。
また、セミナーでは多くは語られなかった、映画『キャプテン・マーベル』制作に関しても追加でインタビューを行いましたのでご覧ください。
海外で活躍する日本人CGアーティスト
多田さんの得意とする分野はコンピューターグラフィックにおける特殊効果(ビジュアルエフェクト・VFX)やライティング。
VFXシニアディレクターとして多田さんがこれまで関わってきた作品は『キングコング』『アバター』『猿の惑星 3部作』『ホビット』など多岐に渡ります。
多田 学(ただ がく)プロフィール
テクニカルディレクター。広島出身、大学卒業後1997年よりLAのデジタルドメインに就職、FXやライティングアーティストとしてアイロボットやスタートレックなどの大作に従事し、2004年よりニュージーランドのWETAへ転職、ライティングをメインにキングコング、アバター、猿の惑星3部作、ホビット、モータルエンジンなどの作品に参加。2018年よりカナダILMにてキャプテンマーベルなどを制作。現在フリーとして制作活動、学生の作品制作のサポートをしているhttp://www.gakutada.com/ [リンク]
セミナーテーマは『クリエイティブな仕事で世界とつながる事』。DHUの学生向けに行われたこのセミナーには多くの“クリエイター候補”が詰めかけ、会場はまたたく間に席が埋まりました。
ご自身もデジタルハリウッドの2期生だったという多田さん、海外での仕事遍歴を交えながら、映像制作の現場について講義を行います。
多田さんの関わった作品群が収められたショーリールには、観たことがあるような作品ばかり。
どれも有名な作品ばかりなのですが、筆者が特に驚いたのはディズニー作品のオープニングに使われる“シンデレラ城の花火”!
このシーンは4~5人のチームで作られたものなのだそうですが、多田さん自身も「こんなに使われるとは思わなかった」そう。
他にも、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の『サノス』が動くシーンなど、ビックリするような作品場面が数多く登場しました。
そうした実際の作品を交えつつ、数か月スパンのプロジェクトを並行して走らせた体験談などに対し、聞き入る学生たちの表情も真剣そのもの。
またCGアーティストを生業として考えた場合、世界の都市別にはロンドンやLA、サンフランシスコなどにスタジオ数やクリエイター人口が高いようです。しかしゲームスタジオとして着目した場合、サンフランシスコやLA、パリに次いで日本にスタジオが多いことなど、世界的な需要の観点についても多田さんは言及。
技術的には、ディープランニングによる最新のフォトリアルでリアルタイムな表現についても「衝撃的」と紹介しました。そうした進化したテクニックと自分がどう関わるか、というプロセスを学ぶことも大事であるとしつつも、個人のアートスキルの重要性、そして最終的に「熱量の高い作品づくり」が必要であることを述べました。
自分の好きなジャンルがあったらそこに力を注ぎ、「好きなものを見つける」「自己表現ができる作品を作る」べきだと結びました。
『キャプテン・マーベル』の制作現場について聞いてみる
セミナー終了後、改めて映画『キャプテン・マーベル』についても多田さんに聞いてみました。
―本日はおつかれさまでした。『キャプテン・マーベル』は劇場で2回観たんですが、ただただ光が印象的でした
多田学さん(以下 多田):そうですね、僕もそうでした(笑)。
―『キャプテン・マーベル』でもライティングのご担当ですか
多田:ライティングって言うショットの色付けをする部署なんです。
実写合成のショットとフルCGのショットもありますけど、『キャプテン・マーベル』のケースはエフェクトが大きい仕事だったので、エフェクトデパートメントですね。“パワーの光”って言うんですかね、エフェクトとして作ったものをもらってですね、それを光のソース(もと)にしてライティングしたケースが多かったです。
そのエフェクトと実際のモデルにあたる、―パイプラインっていいますけれども―それを芯にもってきてリアルに見せるという、そういう仕事です。
―MCUの作品ってどれも素晴らしい作品ばかりなんですけど『キャプテン・マーベル』の場合、先ほど多田さんがおっしゃってた「自分から発するパワーの光」とかの表現も、ものすごく印象的です。
あの発光で「わ! 来た! 彼女が来た!」ってアガるところでした
多田:絵的にかなり明るく、ディスコみたいな感じになってたんで、作っているときは「これでいいのか……?」って(笑)。画的にまぶしい、っていう。
―あの光が彼女の象徴ともなっていました
多田:まあ、正解だった、ってことですね(一同笑)。
―これまで作られた多田さんの作品を今日のセミナーでも拝見しましたけど、とにかく写実的でな印象でした。対して『キャプテン・マーベル』くらい派手な光は無かったように思います
多田:そうですよね。あれだけ見ると何が行われているかわからない。そう言った意味でちょっと不安でしたけど。ストーリー的にはOK、って感じだったようですね(笑)。
―他にもご担当された箇所はありますか
多田:スペースシップがクラッシュするシーンですか。アレもちょっとやったりしましたね。
―『キャプテン・マーベル』って作品的にも様々な場面があったかと思うんですが、“実在しない場面の光”を作るのって、どういう風に気を付けられてるんですか
多田:宇宙のシークエンスとかあるじゃないですか。実際は太陽だけだったりとかですよね。そこに彼女が居るところを見せなきゃいけないのでちょっと“フェイク(うそ)の光”とかを作ったりしました。実際にステージでシューティングして彼女と合わせたりしないといけないので、フェイクなライティングをしながら見せるっていう事はよくしましたね。
―リアルとのバランス。そこはもう職人技ですよね
多田:すごく難しいのは、プレート(実写)でジュード・ロウがコクピットに入ってるステージショットがあるんですけど、ステージのライティングが宇宙のライティングと全く違うんです。だけど背景は宇宙にしなければいけないとかあると、これはかなり厄介になったりしますね。でも、やっぱり撮影現場ではどこまでリアルなのかを考えて作ってないので、そのバランスですね。
マーベル好きな子供からの質問
今回はマーベル好きな12歳からも“未知の仕事・CGアーティスト”について現役クリエイターである多田さんに疑問をぶつけてもらいました。
―『キャプテン・マーベル』の戦ってるワンシーンについてなんですけど、戦ってるところをつくるのに何日かかったんですか?
多田:ひとつ青い光がスピンしているラボみたいなところでファイトしているシーンがありましたよね。あれをやりましたけど、仕事が始まってから4~5か月くらいですかね、ファイナルまで。
―(絶句)そのシーンだけで、ですか?
多田:そうです。シーケンスで(笑)。
同時に他のもやりながら、ではありますけど。ショットによってはフルCGみたいなショットもあるし、プレート(実写)があってというショットもあるので。どちらかというとプレートがある方が合わせるのが大変ですけど。半年くらいかな。
― 大変……。CGクリエイターになるのに、絵とかが上手くないといけないでしょうか?
多田:うーん。CGアーティストって意外と絵が描けないことが多いですね。(絵が描けないから)だからCGやるって人も多いんです。
絵的な美的センスみたいなのは問われるかもしれないけど、実際の絵心はちょっとあれば、あるに越したことは無いです。しかし絵を描けなければいけない、ってことはないですね。VFXスーパーバイザーのクレイグが「ちょっとこういう感じでやって」ってノート取った絵が、実はひどかったりとか多々ありますね(笑)。
―伝わればいいんでしょうか
多田:そうですそうです。
―あと、多田さんはこのお仕事につくまで外国にひとりで行ってらっしゃったんですよね。言葉が通じないのとか想像すると、結構怖いんですけど
多田:英語、ってことですか?
―はい。もし伝わらないときとか怖い、っていう感じはなかったですか
多田:例えばフランス人とかで多いんですけど、英語喋れないのにすごく堂々としている人がいるんです。
ミーティングに来て、フランス語なまりが強いぐちゃぐちゃな英語で、ばーーっとしゃべるけどみんな「えー???」みたいな(笑)。
でも(その人は)気にしない。だから意外と喋れなくても伝わるまでやる、っていうのはできるかなー、とは思います。
僕もけっこうシャイでしたが、色んな人が居るんで喋れなくても全然大丈夫です(笑)。
―CGクリエイターになるためにしておいた方がいいこと、ってありますか?
多田:色んな分野があるので、そこで自分に特化したもの―絵が好きな人はコンセプトを、アニメーション好きな人はアニメーションってなるので、色々トライするっていうのが良いんじゃないかなと思いますね。写真でもアニメーションでも良いと思います。
がんばってみてください!
―ありがとうございました!
穏やかな口調で、一語一語ていねいに対応する姿が印象的だった多田さんでした。多田さんがビジュアルエフェクトにも加わっている映画『キャプテン・マーベル』、2019年7月3日からDVD・ブルーレイ、MovieNEXにて登場します。
強き光をまとったヒロインの活躍、あなたの目で確かめてみてください!
■『キャプテン・マーベル』ストーリー
過去の“記憶”を失い、その代償として強大な力を得た戦士ヴァース。彼女の過去に隠された“秘密”が、恐るべき戦いの引き金となってしまう。自在に姿を変える正体不明の敵に狙われ、孤独や不安に打ちのめされても、彼女は不屈の精神で何度も立ち上がる。
果たして彼女は記憶を取り戻し、この戦いを終わらせることができるのか?そして、最後につかむ“衝撃の真実”とは…?https://marvel.disney.co.jp/movie/captain-marvel.html
―― 表現する人、つくる人応援メディア 『ガジェット通信(GetNews)』