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「あなたが若い人みたいに遅くまでほっつき歩いているせいよ!」子育て疲れの妻激おこ! 死んだ親友のいう“子孫”とは? ~ツッコみたくなる源氏物語の残念な男女~



「自分には過分な品」秋の夜の意外なプレゼント


親友の未亡人・女二の宮(落葉の宮)に同情を寄せるうち、淡い恋心が芽生えだした夕霧。風流な秋の夜に誘われ、彼女も少しだけ『想夫恋』という、夫を想う曲を合わせてくれましたが、まだ恋が進展したとは言えません。


久々に楽の音が聞けたお礼にと、宮の母・一条御息所は夕霧にあるものを差し出します。それは柏木が愛用していた横笛でした。


「由緒ある名品だそうですので、吹く方もいないこの家に埋もれさせるにはもったいないと思いまして。ぜひ遠くからでもこの笛の音が聞けましたら……」


当時、笛は男性の演奏する楽器でした。夕霧は生前、柏木が「まだこの笛の本当の音色を引き出すことはできない。いつか大切にしてくれる人に伝えたい」と語っていたのを思い出します。


自分には過分な品と遠慮しつつ、夕霧はその場で少し笛を吹き、御息所を喜ばせます。こんなやり取りもあったおかげですっかり帰りづらくなり、自宅についたのは深夜でした。


「さあお月見しよう!」はしゃぐ夫を完全無視の妻


灯りも消え、寝静まった自宅の三条邸。先程の余韻が残る夕霧は、ゴキゲンで歌いながら部屋に入るなり「どうしてみんな寝てるんだ。いい月夜なのに。さあ、格子を上げて!秋の夜を楽しもう」などといい、女房たちを叩き起こします。いい迷惑!


妻の雲居雁にも「こんな素敵な夜に夢なんか見てる場合じゃないよ。ほら、君も来て、一緒に月を眺めよう」


ところが彼女は狸寝入りを決め込んで完全無視。日中は子どもたちの世話で疲れ果てているのと、女房からの耳打ちで落葉の宮とのことを聞き、「そちらから浮かれ調子で帰ってくるなんて!!」と怒っています。ごもっともです。


さて、張り切ってあちこち開けてはみたものの、そこに現れたのは風流な秋の庭ではなく、そこら中で雑魚寝している我が子と、乳母や女房たちの姿でした。とっちらかった中から、寝言やいびきが聞こえてきます。これが現実。


我が家はなんとも所帯じみているなあ。落葉の宮さまのところとは大違いだ。あちらはどうしていらっしゃるだろう。宮さまはまた、お琴を弾いておられるだろうか……)。


今日の奥ゆかしい演奏や、しっかりした態度を見るにつけても、夕霧はなぜ親友が彼女を愛さなかったのかが疑問でなりませんでした。


もしかしたらあまり美人ではないのかも?皇女様に過剰な期待を抱いていたから、幻滅してしまったんだろうか。でも、結婚相手に大切なのは見た目よりも中身だよな。


とはいえうちも、雲居雁は気が強くてわがままになったよなあ。子供の頃はあんなに可愛かったのに。でももう僕らも結婚10年、ある意味、仕方ないかなあ……)。


いろいろあった夕霧と雲居雁もついに結ばれて10年め。この10年間に子供は7~8人生まれ、狭いながらも楽しい我が家です。が、その分、余計に落葉の宮のしっとりした大人の雰囲気に憧れる。ないものねだりですね……。


縁側に出て例の笛を吹きつつ、そんなことを考えていた夕霧は、少しウトウトしはじめました。


「この笛は子孫に」そしておっぱいシーン(3度め)


気がつくと、何者かが笛を手にとって眺めています。それは、病室で最後の別れをした時の姿そのままの柏木でした。どうやら夕霧の笛の音に誘われて出てきたようです。


「この笛は自分の子孫に伝えたかったけど、君のところへ行ったんだね……」


“子孫”という言葉にドキッとした夕霧が、詳しく聞き返そうとしたところ、激しい赤ちゃんの鳴き声がして目が覚めます。


赤ちゃんはお乳まで戻してしまい、苦しそうに泣き叫んでいます。乳母は慌てふためき、雲居雁もなだめるためにおっぱいを口に含ませたりして大騒ぎ。


夕霧も心配してそばに来ますが、雲居雁はカンカン。「あなたのせいよ!若い人みたいに夜遊びして、遅くに帰ってきてお月見なんてするから、物の怪が入ってきたんだわ!赤ちゃんがそれを感じて怯えたのよ!」なるほど、赤ちゃんって霊感強いって言いますものね。


夕霧はニヤニヤしながら「それじゃ、私が物の怪を引き入れたってわけか。たくさんの子供のママになると、そんな考えもできるようになるんだね」。


長い髪を耳にかけ、ムッチリした白くきれいなおっぱいをはだけている妻。そのキーっと怒った顔も若々しくて可愛いのです。


最初は激おこだった彼女も、灯りのそばであらわな姿を見られるのがさすがに恥ずかしくなったらしく「あっちへ行って。見苦しい格好だから」と嫌がるのもまた愛おしい気がします。可愛いですね~。


源氏物語のおっぱいシーン(3回め)。筆者の記憶が正しければここが最後です。おっぱいは出ないのですが、赤ちゃんをなだめるためだけに含ませているのは、ちい姫を預かった当初の紫の上と同じ行動。グズったらとりあえずおっぱいという感じですね。


ですが、紫の上があくまでも優雅に白く綺麗なおっぱいを含ませていたのとは違い、雲居雁は髪を耳にかけたり、灯りの下でおっぱいを晒したりと、生活感が丸出しなのが何ともリアル。「気取ってなんかいられない!ああ大変大変!」という臨場感がよく出ています。


その後も、女房たちは魔除けの米を撒くために立ち騒ぎ、肝心の赤ちゃんはむずかったまま。親友の夢の悲しみもどこへやら、結局てんやわんやのまま朝になってしまいました。


心霊アイテムどうする?異母弟との複雑な初対面


柏木は霊体になってもまだ笛に執着がある様子。いかに親友とは言え、さすがに心霊アイテムを持っているのはあまりいい気分ではありません。夕霧は悩みました。


彼がこの笛をもらってほしい相手は僕じゃない。やっぱり、彼の帰依していたお寺に持っていって収めてもらったほうがいいだろうか?でも、“子孫”と言っていたし……。


子供を残さなかったはずの親友の“子孫”、「源氏の君に謝りたい」という彼の遺言、女三の宮の出産と出家。その謎を解くのは今かもしれないと、夕霧は笛を持って六条院に向かいます。


六条院には明石の女御(ちい姫)が里帰りしてきていました。紫の上の部屋の前で遊んでいたのは第三皇子の三の宮(後の匂宮)です。紫の上は皇女の女一宮と、この三の宮を手元で育てていました。


やんちゃな三の宮は夕霧を見つけると「宮をお抱き申し上げて、あちらへお連れして」。女房たちが自分につける敬語をそのまま真似て言います。


夕霧はその可愛さに笑って、抱っこしながら「おいでなさいませ。でも、ここは紫の上の御簾の前。このまま通るのは失礼にあたります」。


「大丈夫!僕がお袖で顔を隠してあげるから、誰も見ないよ」。三の宮が小さな袖で一生懸命夕霧の顔を覆うのも微笑ましく、夕霧は彼を抱っこしたまま、源氏のいる寝殿へ向かいました。


寝殿では、三の宮のすぐ上の兄・二の宮と薫が一緒に遊んでいました。そこへ夕霧に抱っこされた弟が現れたので、お兄ちゃんも「僕も抱っこして~!」。夕霧、完全に抱っこ要員。


気の強い三の宮は「だめだよ!僕が抱っこなの!!」と、夕霧の袖を引っ張って離しません。子供はみんな抱っこが大好き!それにしても同じような名前の別人が乱立するので混乱しますね……。


源氏も孫たちの諍いを見て「お行儀の悪い宮さま方ですね。三の宮がいけません、いつもお兄さまと張り合って」


「その点、二の宮はいつも弟君に譲ってあげて、すっかりお兄さまらしくなられましたね。お年の割に本当にご立派です」。夕霧は二の宮の態度を褒めます。まあ、なんのかんの言っても、みんな可愛い。


大人2人は話すために移動しようとしますが、子どもたちはなかなか離してくれません。夕霧は、御簾の影からこちらを覗いているもうひとりの子供を見つけます。そこに落ちていた花を振って見せると、彼はすぐに走り出てきました。


夕霧が薫の顔を見るのはこれが初めて。色白で光り輝くような美しさは、皇子たちにも勝るほどです。目元や口元の感じは柏木によく似ていますが、それ以上に魅力的な可愛い子です。


親友の遺児が表向きは自分の異母弟となった運命のいたずら。夕霧はしみじみとそのことを痛感しつつ「こんなに柏木に似ているのを、父上だって気づいておられるだろう」。疑惑は彼の中で確信に変わりつつありました。


自分のことは棚上げ!父の偉そうなお説教に息子は……


ようやく二人きりになり、夕霧が昨日、落葉の宮のお見舞いに行った話をすると、源氏は相槌を打ちながら聞いていましたが


「想夫恋を合奏したというのは、なるほど秋の夜にふさわしい、語り継がれそうな光景であったことだろう。でも、やはり女性側としては、男性を刺激する可能性のある行いは避けるべきだったと思うがね。


お前も柏木の遺言を守るというなら、その志を貫いて間違いが起こらないように。成り行きで関わり合った所で、お互いに傷つく結果があるだけだ」。


源氏は夕霧の恋路についてはいつも厳しめのコメント。でもそれもそのはず、夕霧と落葉の宮は親友の未亡人というだけでなく、義理の姉と弟という関係でもあります(雲居雁が柏木の妹のため)。ましてや相手は皇女です。


しかし、もう子供ではない夕霧は「へえ~、人にお説教をする時はいつもご立派なことを仰るなあ!ご自分が同じ立場だったらどうなさることやら」と、どこ吹く風。


なんの間違いも起こりませんよ。柏木の若すぎる死に世の無常を感じて、お力になれればと思って始めたことですから、急にやめたらそれこそ世間からおかしく思われるでしょう。


想夫恋もご自身から弾かれたわけではなく、ついでにちょっとと言う感じでした。あちらも大人の女性ですし、私は恋愛には不慣れですから、打ち解けようもございません」。ああ言えばこう言う、夕霧の弁の立つところはなかなか面白いです。


今がチャンス!親友の遺した謎は明らかになるか?


さて、話は本題へ。夕霧は昨日預かった笛を見せ、柏木の夢のことを伝えます。


源氏は「なるほど、柏木はこれを薫に伝えたくて夢枕に立ったのだろう。夕霧も気づいているらしい」と思いつつも、表情を変えず笛の由緒を語り、我が家に置くべき理由があると説明します。さすがポーカーフェイスのプロ。


これで夕霧は切り出しにくくなりましたが、今しかチャンスはないと思い「そういえば柏木が亡くなる直前に、父上に申し訳ないことをした、謝りたいと繰り返していました。一体何のことか私にはわからないのですが、ずっと気になっておりまして……」。


この言葉で源氏も、夕霧がすべてを察して笛を持ってきたことを理解します。でもそれをここで認めるわけにもいきません。


そんな、死ぬ間際に謝られるようなことをした覚えはないのだが……一体何のことだろうね。夢の話はしないほうがいいという迷信もあるし、まあ今日のところはこれくらいにしよう」。いやいや、彼が死に至るほどの睨みつけとアルハラをしてましたよ!!


結局、源氏はのらりくらりと言い逃れ、その話は立ち消えに終わります。思い切って言ってみたものの、夕霧は「何だか妙なことを言ってしまった。父上も変に思っただろうな……」


きまり悪い夕霧とは裏腹に、核心を突かれた源氏。しかしその真相は、その後も語られることはありませんでした。この勝負、老練な父の技アリ一本、といったところでしょうか。


簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。

3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html

源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/


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(執筆者: 相澤マイコ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか


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