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「春夏秋冬を自宅で一番美しい季節を楽しむ贅沢」まるでこの世の極楽? 東京ドームよりもちょい広い大豪邸へようこそ ~ツッコみたくなる源氏物語の残念な男女~



ここから新たなステージへ。源氏の新邸・六条院


源氏は「広くて静かで、趣のある新しい邸を」と考え、約1年がかりで新たな邸を造営しました。もともと六条御息所邸だった部分を含む4町4面をまるまる自分の新邸の敷地にしたのです。


平安京の碁盤の目のような条坊制はそのまま単位として用いられており、最小の1マスが1町です。だいたい貴族の邸は1町(約120m四方)以上だったことを考えると、単純に4倍です。最近では”平安時代前期の貴族邸宅跡を発見”というニュースもありました(https://mainichi.jp/articles/20170804/k00/00m/040/086000c)。ここはどうやら大臣クラスの上級貴族の邸宅跡らしいとのことですが、これがだいたい1町分であるところを見ると、六条院がいかに豪邸だったかがわかります。


更に六条院の中には条坊の小路が含まれるので、細かく言えば4町+αの広さ。おおよその面積は、換算すると約252平方メートル×2=約63500平方メートル。……と言われてもピンと来ないですよね。ううむ。



(画像はhttp://tanihenkan.info/のキャプチャ)


単位を変換してくれるサイト(http://tanihenkan.info/)で調べた所、”63500平方メートル=東京ドーム1.358143個分”だということがわかりました。なんでも東京ドームを単位にするのをやめろと言う声も聞きますが(実は筆者も行ったことがないのでわかりません)、行ったことがある方はだいたいそんなものか、と思っていただければよろしいかと思います。


春夏秋冬、自宅で一番美しい季節を楽しむ贅沢。


六条院の敷地は春夏秋冬の4エリアにわけられ、それぞれの季節が一番美しくなるように設計されています。


東南は春の町。源氏と紫の上、ちい姫が住みます。紫の上が四季の中でも春を特に好んだからです。高い山を築き、そこに桜や梅、藤、山吹、岩つつじなど春の木々が植えられて、中に少しだけ秋の草木も混ぜられています。


南西は秋の町。もともと六条御息所邸だった場所で、娘の秋好中宮の里内裏です。元からあった山に紅葉が美しい木々をたくさん植え、滝音が際立つように泉や岩などを配置し、秋の山野の風景を演出。その眺めは紅葉の名所、嵯峨野も形無しと表現されています。


北東は夏の町。花散里の住まいです。暑い夏も快適に過ごせるように、背の高い木々や竹などを多く植え、涼しげな泉があります。少し田舎風に、卯の花(ウツギ)の垣根なども造ってあります。


源氏と花散里の思い出の木である花橘や、バラ、ナデシコなどの夏の花の中に、春秋の草木が少し。端午の節句が楽しめるよう、水辺には菖蒲も植えてあります。また、東側半分には広い馬場と厩舎があり、駿馬を何頭も飼っています。


西北は冬の町で、明石を主とします。北側に倉をいくつも建て、山奥の名前もわからないような木をたくさん移植し、さながら山里のような閑静さです。霜や雪が降りなす冬の眺めが楽しめるよう、菊や松なども植えられています。


4つのエリアはどこもお互いに渡り廊下などで行き来でき、主である源氏の移動や、女房たちの連絡等もし易くなっているのも特徴です。それぞれのエリアごとに趣が違い、良さがあるのですが、やはり一番素晴らしく見えるのが春の町であると作者は書いています。


イベントにも幅広く対応。働く人にも配慮した快適さ


六条院は源氏の私邸であるとともに、公の顔ももっていました。何しろ広いですから、池に船を浮かべたり、弓や馬の競技をしたり、舞楽でもなんでもOK。行幸や御賀などの大きなイベントの本番はもちろん、準備やリハーサルも問題なくできるお邸です。


多くの人が集まる六条院には、仕える人も大勢います。まず、紫の上と一緒に引っ越してくる女房だけでも4~50人はいた模様。花散里や他の女性方の女房もいますから、かなりの大所帯です。


源氏は、六条院に細かく部屋を仕切った女房用の曹司町も完備しました。女房の仕事は基本的に住み込み。時々は自分の家や実家に帰ったりして、いつも常駐するわけではありませんが、ここが快適であればありがたいですよね。作者も「特にこの設備が素晴らしい」と褒めています。住む人だけでなく、そこで働く人にも快適な環境を追求した様子が伺えます。


家族と一緒に、四季の喜びを分かち合う。


六条院への引っ越しは秋のお彼岸の頃でした。みんなで一緒にと源氏は思っていたのですが、それでは何かと大掛かりだということで、まずは自分と紫の上、夕霧に花散里をエスコートさせて同日に移ります。花散里も今回揺るぎない地位を見せた1人で、紫の上にも劣らぬ扱いです。


そこから5、6日して、中宮が里下がり。中宮にとっては本当の実家をアレンジした形なので、特に感慨深かったのではないでしょうか。もとからあった築山の形もそのままに、秋の庭は紅葉が始まり非常に美しい眺めです。


挨拶代わりに、中宮は特に見事な紅葉を織り交ぜてきれいな箱の蓋に入れ、紫の上に手紙を出しました。余談ですが、作中には何かちょっとした入れ物としてよく”蓋”が登場します。果物などを置いてお盆代わりにしたり、こうしたトレー代わりにしたりと、なかなか便利なものだったようです。


もう女童と呼ぶには大きな美少女が渡り廊下をやってきます。お手紙には「心から春を待っているあなたへ。せめて私の秋の庭の紅葉をご覧になって」。紫の上はとっさにひらめいて、すぐに蓋に苔を敷き、そこに岩と松を置きました。盆栽みたいな感じでしょうか。「風に散る紅葉は軽いもの、この岩根の松の緑に、春の重みを御覧下さい」とお返し。よくよく見ると岩も松も作り物です。


紫の上の見事な切り返しに、中宮側も感心しきりです。仲の良い2人のやり取りをみた源氏は「まあまあ、紅葉の悪口を言うと龍田姫(秋の女神)に失礼だ。やはり桜の花盛りにやり返すのがいいだろう」。妻と養女の風雅なやり取りを見守る源氏の発言には、すべてを手に入れた権力者らしい余裕が感じられます。


10月に入ってから、明石がようやく引っ越してきました。二条東院のシェアハウスでは嫌だと粘りつづけた彼女でしたが、これからは冬の御殿の主です。静かな環境なので大堰から移ってきても安心ですし、プライドも大いに満足したはず。ここからはぜひ、明石の上(御方)と呼ばせていただきたいと思います。


六条院に選ばれた女君達は物語の主要キャラばかり。その他の人たちは二条東院に置いてきぼりなので、かなりはっきり差がついたと言えるでしょう。住まいになぞらえて、紫の上は春の御方、花散里は夏の御方、明石は冬の御方とも呼ばれるようになります。


のちにこの世の極楽とまで称される大豪邸、六条院。この絢爛豪華な邸を舞台に、栄華の光と影に彩られた複雑なストーリーが綴られていきます。


簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。

3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html

源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/


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(執筆者: 相澤マイコ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか


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