人類の夢も希望も砕かれる――。7月8日に公開される映画『ライフ』は、そのタイトルからは想像もつかない、恐怖の連続に意表をつかれるSFスリラー。火星で採取した地球外生命体が宇宙飛行士達を襲う描写は、思わずヒエッと悲鳴があがるほど怖いです。
本作でジェイク・ギレンホール、ライアン・レイノルズらと共演し、映画の中で重要なキャラクターを演じるのが真田広之さん。インタビューでは作品について、ハリウッドで勝負するということについて、色々とお話を伺ってきました。
――『ライフ』大変面白く拝見させていただきました。日本だと今年の夏、唯一のホラー大作として期待を集めています。
真田:そうなんですか? ライバルなし? やりましたね(笑)。
――本作での恐怖の演出についてはどんな事を感じられましたか?
真田:監督のリアルでエッヂの効いた物を求めるエネルギーっていうのがすごかったんですね。表現に対してテンションが高いといいましょうか。恐怖についても、リアルで“信じられるもの”というのをとにかく追い求めていました。日本のホラーでもなく、ハリウッドにありがちな脅し的なものでもなく、監督の持つ独特な恐怖に対するセンスといいますか。本当にそんな地球外生命体が現れたらどうリアクションをとるのか? あくまでも信じられる範囲で恐怖を積み重ねていく。そのへんは独特でしたね。
―火星で採取した生命体が襲いかかるシーンは怖くて怖くて……。撮影現場にはあの生命体は存在せずに、皆さんは想像で演技しているのに本当にいるかの様なリアルな緊張感がありました。
真田:そうですね、実際には想像力を駆使して撮影をしなきゃいけません。あの生命体は段階ごとに大きさが変わっていくので、今どのコースをどのくらいの大きさで、どんなことになっているか都度監督に聞きながら演技しました。
―どんな恐怖を想像しながら演技されたのでしょうか? 例えば真田さんにとってあの生命体くらい怖いものってありますか?
真田:あのくらい怖いっていうのは……なかなかないですよね。でも「正体さえ未知」というのが一番怖いと思います。正体が分かっていても怖いものは怖いと思うのですけど、やはり地球上になかったものっていうのがね。人間としてそういうものに出会ったときどう対処するべきか、というのがこの映画のテーマの一つになっていると思うので。
キャラクターごとにその生命体を見る目が異なるというのも面白いですよね。僕の演じたショウ・ムラカミというキャラクターは、地球上に新しい家族、つまり“ライフ”が生まれ、同時に地球外生命体の“ライフ”が現れ、他の人以上に里心がつき、喜びと同時に弱みも生まれてしまう。任務への責任と「生きて帰りたい」という気持ちの狭間で戦わなければいけないという気持ちを個性として使わせていただきました。
――劇中のセリフで「地球外生命体には悪意とか敵意はなくて、ただ生存本能があるだけなんだ」といったものがありますが、生存本能の為に人を襲うってシンプルですごく怖いですよね。
真田:あの言葉は、実際にそういったもの(地球外生命体)に対峙した時、どう人類が対応するべきなのか? という問いかけであり警告であったと思いますね。本作の地球外生命体でいうと、おそらくは自然というものが封じ込めてくれたものを、寝た子を起こすように刺激してしまう。人間のエゴですよね。科学者にとって誉になる、企業にとっては金になる。人間が動物を殺して食べる様に、彼ら(地球外生命体)が生存し子孫を残したいっていうのは本能なわけで。自分たちにもライフはあるけど、他のライフに対してどう立ち会ってどう責任をとっていくのか? 監督が常に意識していたのはそこかなと思いますし、僕もその考えに大賛成です。
――『ライフ』というタイトルで、宇宙をテーマにしている作品で、事前に内容を知らないと「こんなに怖い映画だったなんて!」って驚く人が多そうで楽しみです(笑)。真田さんがオファーを受けた時点でこういったスリラー作品だという事は分かっていたのでしょうか?
真田:最初に脚本が送られてきたので、分かっていました。非常にシンプルで、でもまあ考えさせられるっていう。これを映像化するんだと思うと、直球勝負だな、清々しいなと思いました。実は最初に僕がオファーされた役柄は実際のものと全然違っていて。若くて6人の中で一番経験の浅い宇宙飛行士役だったんですね。それには僕は歳をとりすぎているので一度断って、そうしたら「一番ベテランの宇宙飛行士役に設定を変えるのでお願いしたい」とまた連絡が来て。
――一番若手から一番ベテランに、ガラリと変わったわけですね。
真田:どんなに脚本が面白くても、自分がやるべきじゃない役だったら断る。どんなに“おいしい”ものでもね、お金で割り切れればいいのでしょうけど、そういうタイプではないので。監督とやり取りをして納得できればもちろんやらせてもらいます、お願いします、と。特に、国際宇宙ステーションの物語ってリアリティをもって日本人が参加できる作品じゃないですか。妙に文化を背負わなくっていいから、余計な気を使わない、役に専念してればいい。状況としてありがたいんですよね。
――本作は基本的に「国際宇宙ステーション(ISS)」の中だけで物語が進行しますが、作り込みがすごかったですね。
真田:ロンドンに、大きなスタジオを2つ3つ使ってISSの全パートを作っちゃったんですね。生活空間からコンピューターから何から何まで。全部実寸大で作られているので、SF作品なのにグリーンスクリーンで撮って合成というのが一切無いんです。今回は360度上から下まで全部作りこんでの撮影なので、監督もすべてにおいてリアリティを求めていました。僕の演じているキャラクターはベテランエンジニア役なので機械の操縦の仕方も全部覚えてやっていました。覚えることがたくさんあって苦労はしましたが、そこまでリアルに作ってくれたセットで演技ができる役者としての喜び、醍醐味も感じました。
――監督の「とにかくリアルに」というこだわりは俳優陣にも求められましたか?
真田:はい。監督は俳優に対しても一貫してそれをしていましたね。「大作ではありますけどハリウッドのエンターテイメントにはしたくない」と言っていました。こういう題材ですから(観客に)信じてもらえなければ何の恐怖も生まれない、とにかくリアルさを追求するというのが監督の意向だったので、演技に関しても「余計なことをするな、演技をとにかくするな、セリフを言うな」というのがお題でした。でも、俳優の性でどうしてもやりたくなっちゃうんですよね。妙なサービス精神で誇張してみたりとか。そのテクニックとか、芝居が見えたとたんに監督に「NO! とにかくその役になって生活しててくれればこっちが勝手に切り取るから」と言われました。
俳優だけではなくスタッフにも同じことを言っていて、俳優を宙に浮かせるワイヤーを操るスタッフ達もスタントマン達も一生懸命タイミングを合わせて、一瞬でも重力を感じたら「NO!」、何十テイクかかっても納得がいくまでやり続ける。それもまた嬉しかったです。これだけCGが発達した時代に演技やアクションのタイミングをとにかく合わせて苦労しながら撮影する。そのおかげで、早い段階でチームワークが出来てきて、連帯感といいますか、苦楽を共にしている感じがそのままISSで過ごしている6人の空気感につながったんじゃないかなと思います。
――なるほど、撮影時に苦労を共にしたからこそ、あの6人の空気感が自然に出たということですね。
真田:昔は撮影技術が無い分俳優の演技で補うということを要求された事もあったと思いますが、今はそういったことは全部まわりがやってくれるから、そんな余計なことは背負うなといいましょうか。シンプルに演技をすることがより求められてきた様に思いますね。本作を通してキャリアの中でついた垢みたいなものを気付かされました。
――真田さんは本作でもジェイク・ギレンホールをはじめ豪華俳優陣と共演し、ハリウッドで大活躍されているわけですが、その成功の理由をご自身でどう分析されていますか?
真田:難しいんですが、やっぱり言葉っていうのは大きいですね。英語は日本にいてもいくらでも学びようがあるので、ハリウッドを目指す方には言葉は必ず身につけてほしいライセンスです。あとは、ハリウッドが日本人をキャスティングする時は“日本人らしさ”が欲しくてキャスティングするわけです。ハリウッドには“西洋ナイズ”された日本人は必要ないんですよ。海外に出る為に学ぶことは大事だけど、日本人として失っちゃいけないもののほうが大きいというか、かぶれてるうちは必要とされないってことだと思います。後は、ハリウッドは労働条件が守られていますけど、その分拘束されている時間内はきっちり使われるので、日本の現場よりも撮影がキツイ部分も多いです。権利と義務がハッキリしていると言う感じでしょうか?それを覚悟の上で、日本の環境の良さに甘えずに、自分はどうあるべきかなって自問自答しておくと、ハリウッドでも活躍出来るのではないかと思います。
――今日は大変貴重なお話をどうもありがとうございました!
(撮影:周二郎)
映画『ライフ』7月8日公開
http://www.life-official.jp/
(C)2016 CTMG, Inc. All Rights Reserved.