BMWの新型クロスオーバーSUV「X2」。海外では昨年10月に先行発表されていたが、日本でも今年4月からようやく受注を開始。4月16日に東京都内で開かれた発表会では、元SMAPの香取慎吾が姿を見せた。
今回BMWは、香取と“ブランド・フレンド”の契約を結び、スペシャル・コンセプト・ムービーを制作するなどのコラボレーションを計画しているとのこと。BMWがこのようにタレントを起用したプロモーションを行うのは、初の試みだという。
香取は現在、SMAP解散とジャニーズ事務所からの退社を経て、同じ元SMAPメンバーである草なぎ剛、稲垣吾郎とともにオフィシャルファンサイト「新しい地図」を設立。歌手や俳優としてだけではなくアート方面でも活躍し、SNSで積極的に情報発信するなど、ジャニーズ時代には考えられなかったほどネットへの露出が増えている。
しかしその一方で、やはりSMAP解散時のゴタゴタが尾を引いているのか、香取がテレビで取り扱われる機会は激減しているのが現状だ。先述したBMW「X2」発表会の様子こそ、テレビ東京系列の『ワールドビジネスサテライト』で紹介されたが、これはレアなケースだといっていいだろう。
また、そもそも香取については、さほど“車好き”というパブリックイメージがあるわけでもなく、もはやSMAPの解散需要も落ち着いてしまった感が否めない。香取がMCを務めていたフジテレビ系列のバラエティ番組『おじゃMAP!!』が3月に最終回を迎えた際は、関東地区の平均視聴率は5.6%。かつて高視聴率番組に数多く出演していたことを考えると、かなり寂しい数字だったといわざるを得ないだろう。
そんな香取とタッグを組んだBMWは、どのような算段で“香取慎吾起用”にビジネスチャンスを見いだしているのか。欧州車を中心に外車事情に詳しいカージャーナリスト、伊達軍曹氏にBMWの思惑を考察してもらった。
●このタイミングで新しい挑戦を始めた者同士、BMWと香取慎吾は好相性
「日本においてBMWは、高級なドイツ車でありながらもスポーティーで、お金持ちのイケてるサラリーマンでなければ買えない車だという印象が強いでしょう。
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ただ、今回発表された『X2』はBMWのなかでは車体が小さく、価格設定は税込436万円~と、安めに抑えられています。実際にBMWも、『X2』は若手の男性をターゲットにしているようですね。
ブランド・フレンドの香取さんは41歳ということで、若手を狙った『X2』のユーザー層とはミスマッチだという意見も聞かれるかもしれません。しかしBMWクラスの車でしたら、30代後半あたりで購入できれば、充分に“若手”のうちに入るでしょう。
昨今はITビジネスなどで成功し、20代でBMWのような高級車に乗る人も出てきていますが、まだまだ世の中的には少数派です。そういった背景を踏まえると、41歳の香取さんは『X2』のブランディングに最適の人選だとBMWは考えたのではないでしょうか」(伊達氏)
とはいえ、香取のブランド・フレンド就任を最初に知った際は、伊達氏も驚きを隠せなかったそうだ。
「香取さんが車好きという話は確かに聞いたことがないですし、なぜBMWが香取さんを起用したのかと不思議に感じたのが正直なところです。ただ、プレスリリースに目を通してみると、その違和感は納得へと変わりました。
BMWが発表している『X2』のコンセプトは『UNFOLLOW(アンフォロー)』『常識や周囲の評価起点ではなく、自分の道はいつも自分で切り開く』というものです。そういう意味では、ジャニーズ事務所を離れ、苦闘しながらも新たな挑戦を始めている香取さんは『X2』にふさわしいブランド・フレンドなのだと感じました。
BMWやメルセデス・ベンツといった高級ドイツ車は、車づくりの観点から見れば、どちらも保守本流のブランド。しかしメルセデス・ベンツに比べると、BMWのほうがやや改革派と呼べる部分もありますから、これまでのBMWのユーザーとは違う層を開拓していくうえで、香取さんを起用したのはナイスアイデアでしょう」(同)
●同じ元SMAPでも木村拓哉を起用していたらプロモーションは台なしに?
また、BMWのブランド・フレンドは香取のほかにも存在し、伊達氏いわく、その人選には共通項が見られるという。
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「BMWの最高級セダンである『7シリーズ』では、世界各国の店舗でミシュランガイドの星を獲得している、フレンチシェフのジョエル・ロブション氏を起用しています。私は先日、ロブション氏に取材する機会があったのですが、『フランス料理の王道をキープするためには、常に革新的でなければいけない。ただ同じことを繰り返しているだけでは、どんどん時代遅れになってしまう』と語っていました。
ロブション氏の話は、BMWのように昔からの伝統がある高級車ブランドには非常に当てはまっていますし、『X2』のブランド・フレンドに香取さんのようなタレントを抜擢したことも、BMWなりに新しいチャレンジを取り入れようという姿勢の一環なのだと思われます」(同)
今のところBMWは販売実績が好調で、これといった不祥事も起こしていない。ほかの車メーカーとの兼ね合いさえなければ、ブランド・フレンドの仕事を是が非でも受けたいというタレントは多そうだが、香取以外の候補は考えられなかったのだろうか。
「仮にBMWが、香取さん同様に元SMAPのメンバーでありながら、今でもジャニーズ事務所に残っている木村拓哉さんを起用していたら、だいぶイメージが違っていたはずです。少なくとも私は、BMWの見る目のなさに失望したでしょう。
たとえばプロ野球でいうと、かつて読売ジャイアンツは9年連続の優勝を成し遂げるなど、国民的な球団でした。誰もがテレビのナイター中継を見るという時代があったにもかかわらず、今ではプロ野球そのものの求心力が落ち、読売ジャイアンツも“複数ある球団のひとつ”になってしまいましたよね。むしろ、昔は弱かった球団のほうが格好よく見えることさえあります。
ジャニーズ事務所のタレントたちが活躍しているのは素晴らしいことだと思いますが、もしかすると事務所に所属しているということ自体が“読売ジャイアンツ的”であり、時代としては古いのかもしれません。香取さんたちは事務所を抜けざるを得なかったのかどうか、詳しい事情はわからないにせよ、新たな環境でがんばろうとしている彼らは、現代の人々にとっては好印象なのでしょう。そこに目をつけたBMWの戦略を、私としては支持したいですね」(同)
BMWと香取の組み合わせは、意外性よりも合理性を重視した、時代に即したプロモーションということなのかもしれない。
(文=A4studio)