企業や自治体のDXは5つの課題に阻まれ、着手や進展が難しいケースがあります。これからDXを進める組織は、潜在的な課題や発生し得る課題を前もって把握しておくことで、プロジェクト通りにDXを推進しやすくなります。
既にDX推進中の組織に多い課題や政府の提示情報を参考に、組織ごとの課題を明確化し、同時に解決策についても考えていきましょう。企業・自治体を問わず、失敗しにくいDX着手のポイントも紹介します。
- DXとは「デジタル技術を活用し、業務や商品・サービスを変革し、企業や自治体の価値を高めること」を意味する
- DXの課題は5つあり、「IT人材の確保が難しいこと」や「レガシーシステムの障壁」などが挙げられる
- DX課題を解決するためには、「実現したいビジョンの社内共有」や「DX人材の教育」といった取り組みが有効
DXとは何か? いま必要な理由
デジタル技術の活用で業務や商品・サービスを変革し、企業や自治体の価値を高めるDX(デジタルトランスフォーメーション)。その効果は単なる問題解決ツールの導入を超え、組織を強くして、ユーザーや社会のニーズも満たす大きな価値に繋がります。
DXは、既存業務の効率化や省人化といった側面の他に、これまで有効活用されていなかったデータ利用の最大化、情報セキュリティの強化、新規マーケットの開拓、新規ビジネスやサービスの創出などの可能性も秘めています。
従来の業務の進め方では容易には達成できない価値創造に向かって組織を飛躍的に成長させることで、変革をスピードアップする仕掛けがDXです。
日本では現在、少子高齢化に伴う労働人口の減少、ビジネスやサービスのグローバル化、人々の生活様式や価値観の多様化などが、企業や自治体におけるDXの必要性を後押ししています。こうした社会の変容に対応すべく、組織ごとに最適なDXのあり方を模索していきましょう。
DXの課題 −なぜDXが進まないのか−
DXのニーズが高まる一方、組織におけるDX推進は複数の課題に阻まれ、思うように進行していないケースが珍しくありません。企業や自治体などの組織でDXが滞る背景には、主に5つの課題が存在します。
課題1. 経営ビジョン・戦略が不十分
DXには、その進路を定める経営ビジョンや運営戦略が不可欠です。ツール導入だけであれば目的は目の前の課題解決ですが、DXの目的は組織の価値創造です。
長期的かつ大きなテーマと向き合うためには、組織としての未来の「ありたい姿」とそれを実現する具体的なロードマップがなくては、道を見失うといっても過言ではありません。
既に組織のビジョンや戦略は整備されているものの、時代やユーザーのニーズに見合わず、ビジョンや戦略そのものがDXの課題になってしまっている可能性も考慮する必要があります。
同時に、ビジョン・戦略とDXの目指すものの一致についても精査の上、整合性の取れた計画作りが求められます。
課題2. IT人材の確保が困難
人材確保の難しさは、一組織だけでなく日本全体の課題です。2022年に総務省が発表した「情報通信白書」では、日本企業の67.6%がDXの課題として「人材不足」を挙げています(※1)。
IT人材需要は今後も高まっていくと考えられ、優秀な専門人材の確保はコストと機会の両面でますます厳しくなることが予想されます。
この課題に対して取り得る手段は、組織外から人材を採用する、組織内でIT人材教育を行う、ベンダーによる外部サービスを利用することなど。とはいえ、内部にある程度のベースとなる知見がないことには適切な人材の採用や育成も容易ではありません。
課題3. 「攻めのIT」のための投資不足
コスト削減や法規への対応などを目的とする「守りのIT」への投資は急務と判断されても、新たな価値を生み出すためのDXなど「攻めのIT」への投資は緊急性が見えにくいことが課題です。結果としてDXが進まずに課題が課題を呼び、他の組織から遅れを取ったり、提供価値が低下したりする恐れがあります。
DX向けの投資には、以下のような目的が考えられます。
- 専門人材の雇用
- 組織内での専門人材の育成
- システム、機器の利用
- 組織メンバーへのデジタル技術やリテラシーの教育
全ての組織にどれもが当てはまるとは限りませんが、現代の組織において「組織メンバーへのデジタル技術やリテラシーの教育」はもはや必須事項といえます。最低でも基礎知識の習得には投資を行い、ナレッジの底上げを図っておきたいところです。
課題4. レガシーシステムの障壁
組織の基幹システムがレガシー化し、どのようなデータがどこに保存されているかが不明となる「ブラックボックス化」は、日本企業や自治体で多く発生している課題です。レガシーシステムはDXにおいても以下のような課題をはらんでいます。
- 構造が不透明で、運用が属人化してしまう
- 担当者が変わるとシステム障害に対応できない
- データが未整備で、データ活用による価値創出ができない
- 新システムを導入しても連携できない
- 運用管理に必要外の経済的・時間的コストがかかる
既存システムの状態が原因で戦略投資のコストが捻出できず、組織のビジョンを目指すことができないとすれば、レガシーシステムは組織の成長の壁にすらなり得ます。
課題5. 社内への導入・浸透の難易度の高さ
DXは新しい潮流であるがゆえに、「何から手を付ければいいか分からない」「どんな手法が組織に合うか判断しにくい」といった導入の難しさも課題です。
また、「課題1」で挙げたように経営ビジョン・戦略が組織内に十分に浸透していないと、メンバー間でDXを進める理由や目標への理解が足りず、DXの浸透において組織内で温度差が生じてしまうこともあります。
DXツールを導入して一方的に与えるだけではなく、全メンバーがDXの浸透に積極的に取り組む土壌作りが欠かせません。
DXの課題 −業種別・地方自治体−
DXの課題には業種や業態による違いも見られ、異なるサービス内容やオペレーションを踏まえた課題解決策が求められます。例として、製造業、建設業、地方自治体の3分野におけるDXの課題を考えてみます。
製造業のDX課題
製造業界では、ICT(情報通信技術)を用いたスマートファクトリーの誕生で生産工程の省人化やグリーン化などが進行中です。しかし製造業のDXはさらなる深化と普及が必要な状況で、特に従来アナログで行われてきた技術継承などの対応策としてもDXが急がれます。
そんな中、製造業のDXにおける最大の課題はIT投資と人材の不足です。
中小企業が予算が理由でDX推進に踏み切れていない場合は、国や地方自治体が提供する助成金や補助金の活用も検討してみましょう。こうしたサポートの中にはDXの外注費や研修費に使えるものもあり、人材の確保や教育などの課題解決の一助となり得ます。
既にDXに着手している製造系企業の事例も参考にしながら、コスト効率の良いDXツールやサービスを選ぶことも肝要です。
建設業のDX課題
建設業におけるDXは大手企業を中心に進行中であるものの、中小企業では進展スピードが鈍く、省人化や生産性向上、情報のデジタル化など、未解決の問題が多く残されています。
建設業では、旧来のオペレーションや商慣習がDXの課題となっている例が散見します。工程表や図面のアナログ管理、現場での立ち会いの必要性などを、効率的な施工管理システムやカメラを使った遠隔モニターシステムに置き換えることには抵抗感が伴うかもしれません。
しかし、業界の人手不足の要因となっている長時間労働や3K(きつい、汚い、危険)を解決し、建設業界全体を救うためにDX推進は急務です。
製造業と同様に、IT投資や担当人材の不足という課題もみられ、助成金や補助金の活用も視野に入れたDX計画が求められます。
地方自治体のDX課題
災害や行政サービスの複雑化、アナログによるデータ管理の非効率性は、昨今の地方自治体の業務量の増加と人手不足という事態を招いています。情報管理のデジタル化に加え、自治体ごとに異なるシステムの共通化と標準化で行政サービスのクオリティを担保することが不可欠です。
限られたIT投資予算、デジタル人材の不足、縦割り組織の壁などが課題として立ちふさがる地方自治体のDX。
総務省が2022年に発表した「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第2.0版】」の中では、効率的かつスピーディーなDXには首長の強い理解とコミットメントを前提に、CIO(最高情報統括責任者)を中心とする組織体制の整備が推奨されています(※2)。
同時に、デジタル人材の確保・育成、計画的な取り組み、都道府県による市区町村支援の必要性も挙げられています。
地方自治体のDXは民間企業より進度に遅れが目立つ状況ですが、既にDXを推進中の他の自治体の事例から、どのような課題解決方法が有効か検討してみましょう。
※2:自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第2.0版】
DX課題の解決策4選
業界を問わず、DX課題には共通する4つの解決策が存在します。組織に今あるリソースの見直しを図りながら、課題解決に向き合ってみましょう。
解決策1. 実現したいビジョンの共有
デジタルテクノロジーが変革の動力であるとすれば、組織のビジョンは変革の目的地です。そこに至るルートを戦略という道標にしたがって進んでいくことで、DXの本意が達成できます。
まずは組織自体の目的に立ち返り、時代のニーズを踏まえて経営ビジョンを徹底的に見直しましょう。ビジョンを適切に解釈し、組織のメンバー全員に等しくシェアすることが、DXの課題解決の最初の一歩です。
「組織が最終的に何を実現したいか」を理解することはDXの意義の理解に繋がり、メンバーのDXへの積極的な取り組みのモチベーションになります。
ビジョン共有のポイントは、一方的な告知ではなくメンバーの納得感を重視することです。
ビジョン実現に向けてDXで解決したい業務課題や事業アイデアの組織内公募、DX推進計画の進捗に関する報告や意見交換など、メンバー参加型の取り組みによって「共にDXを進め、共にビジョンを実現する」という意識を高めるといいでしょう。
解決策2. DX人材の教育
組織の要である「人」がデジタル技術やITツールに抵抗感を持たず、DXに積極的に取り組む姿勢を持つことは課題解決の大きな力です。
デジタル技術やリテラシーの学びを、メンバー個人のペースや力量に任せるのではなく、組織として戦略的な教育を提供することで人材不足の課題を解決していきましょう。
組織内のメンバーを専門人材に育てるために、外部機関で勉強させるといった本格的なものから、デジタルリテラシーやITの基礎についてのセミナーに参加する、外部人材を講師として招いて組織内で勉強会を開催する、オンラインで学習可能なツールを利用するなど、教育の方法もレベルも多岐にわたります。
教育を提供して終わりにせず、知識を活用する場を設ける、情報系の資格取得をサポートするなど、モチベーション維持の工夫も戦略に含めることがおすすめです。
解決策3. DXを契機にシステム系統を整備
企業や自治体に新しいITツールを導入することだけがDXではありません。既存システムに課題があれば、この機会をレガシーシステムの見直しの好機と捉えてみましょう。
システムの整備・入れ替えによりデータが管理しやすくなることで、ユーザー情報や製品・サービス情報を統合的に把握でき、組織内での共有やデータ分析による価値創造も可能になります。
DX本来の目的は組織の新たな価値創造であることを忘れず、その課題や障壁となる前時代の置き土産に鋭いメスを入れることも必要です。
解決策4. 低い負担でDX開始
予算や時間、人材などの不足が課題となって足踏みしている間にも、社会のデジタル化は進行しています。しかし、物理的負担の大きさがDXの課題とされているケースでは、想定する最初のステップが大きく、組織規模に見合っていない可能性も考えられます。
ステップを細分化し、手持ちのリソースの範囲内で実現可能な「小さな一歩」から始めてみましょう。
例えば、低コスト、導入が簡単、専門人材不要といった条件で絞ってDXツールを選び、ツール提供会社の利用サポートを得ることも可能です。実際にツールの利用を始めることで業務が加速すれば、DXの次の一手を打ちやすくなります。
まずは一部分のDXから小さく始めて、必要に応じて規模を大きくしていくことで、現場メンバーのデジタル技術への理解やスキル習得が追いつきやすくなるメリットもあります。
DX課題の解決はスモールスタートが鍵
企業や自治体のDXは短期間で完結するものではなく、戦略的に進め、浸透させていくものです。
全ての課題を一気に解消するつもりで取り組むのではなく、短期および中長期のDX推進計画を策定しましょう。現実的なDXの進め方として、課題に優先順位を付けて1つずつスモールスタートで始めるとコストや時間の面での負担を抑えることができます。
組織のDX課題が明らかになれば、解決策を見つけるまでの道のりはさほど長くはありません。まずは上述の5つの課題と4つの課題解決策を組織の状況と照らし合わせ、他の組織の事例も参考にしながらDXの推進計画を立てていきましょう。
多くの企業や自治体で課題となっているコミュニケーションの活性化と情報共有の迅速化は、ビジネスチャットと呼ばれるDXツールを導入することで改善効果が出やすく、変革の最初の一歩に最適です。
ビジネスチャットではテキストメッセージと音声通話、ビデオ通話などが利用でき、低コストながら業務の加速を比較的すぐに実感できます。導入から定着までのプロセスも簡単なので、組織への負担感が少なく、DXの始めの一歩に適したツールといえます。
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