長年銀行やクレジットカード会社の基幹システムを支えてきたTISインテックグループの「TIS株式会社」から、DXサービスコンサルティング部の鈴木剛氏をお迎えしてキャッシュレス決済システムやB2B決済の拡充についてお話を伺う本連載。前編では、決済システムの現状や課題についてお伺いしました。
後編では、今後の決済システムで重要な役割を担うB2B決済についての課題や、小規模店舗が決済システムをDXする際の課題についてお伺いします。
さらには、今後のTISが目指す方向性についてもお伺いしますので、どうぞ参考にしてください。
B2B決済を進める上での課題
B2B、B2C限らず、システムの開発・提供を行っていくうえで、現状考えられる課題などはございますか?
鈴木氏
「我々というより、決済システム全体として考えなければならないことですが、『利便性と情報の保護』をどのくらいの案配で調整するかというのが難しいところです。
一方で、銀行やカード会社でも、データの利活用というのは今盛んに言われています。つまり、取得したデータを守るだけでなく、上手く活用したいという需要も確かにあります。
そうなった時に、データを活用しつつ、安全性を守る情報の保護や情報の利活用におけるモラルのようなところのバランスをどうするべきか。この点については、より知恵を絞らないといけないだろうなと思います。」
その部分は、やはりTISは過去の経験の蓄積もたくさんおありでしょうから、力を発揮できる分野ではないでしょうか?
鈴木氏
「そうですね。『今会社を作りました』というような会社が、この分野でなにか出来るかというと、なかなか難しいと思います。
もちろん、技術的には出来ると思いますが、セキュリティとデータの利活用を上手く両立するためには、経験が必要です。どれくらいの規模で、どの程度のことをやってきたのかという蓄積においては、当社にはこれまでの実績という点で一日の長はあるかとは思っています。」
決済システムを利用する事業者にとっても、大切な顧客データの取扱いに対する重要なテーマです。そのシステムを作るとなると、企業の信頼度が大きく関わるところですね。実績や経験が少ないベンチャーがなかなか大きな仕事ができない理由も、そこにあるのでしょうが。
鈴木氏
「もしかしたら、そこは役割分担する方法もあるのかなと思います。
直接一般のお客様に触れる決済システムのサービス提供などのフロント部分は、色々とベンチャーが出やすいところもありますが、システム開発の部分になると資金の問題もありますし、なかなか難しい部分があるでしょう。そこは、我々のようにある程度実績のある企業が担当すべき部分もあると思っています。
ただし、TISでもこれまでのように裏方だけやっていくのではなく、『自分たちでもどんどんサービスを作っていこう』という流れが生まれています。」
小規模店舗が決済DXを進める課題
今エンドユーザーのお話が出ましたが、現時点でキャッシュレス決済を導入していない事業者や店舗が、自社のDXを進めていこうとした場合、『こういうところに気をつけたほうがいいよ』というようなアドバイスはありますか?
鈴木氏
「DX全体に言える話ですが、やはり『何を目的にするのか?』『ゴールは何か?』ということが明確になっていないと、決済用の端末を1つ入れて終わりみたいなことになってしまうかと思います。
例えば飲食店では、レジをキャッシュレス決済に対応したレジに変えれば、それなりには利便性は高まります。しかし、飲食店でDXが真価を発揮するためには、決済端末を1つ入れるだけではなく、ハンディターミナルと連動してキッチンにも情報がリアルタイムに伝達されるかなど、オペレーションをどうするかというところが重要だと思われます。
決済部分だけをデジタル化しただけでは、その飲食店の課題はおそらく解決しないと思います。店の規模によってオーダーシステムは連動させるべきなのか。それとも、伝票だけは手書きでアナログ対応にするのか、あるいはレジ1つでそれらの情報を全て統括できるフルデジタルの状態にするのかなど、お店全体を俯瞰してみて『じゃあ、ここにはこういうものが必要だな』という考え方が必要だと思います。」
決済システムだけを組み込んだところであまり意味はなく、せいぜい1日のレジ締めが楽になる程度です。それであれば手数料を払ってでもやる意味はないよというイメージでしょうか。
鈴木氏
「そうですね。導入する方も、目的とゴールをきちんと決めておかないと『導入して終わり』になってしまい、実際に入れてみたら従業員から『前より使いづらいんですけど』と言われることになりかねませんよね。」
ベンダーやサービス提供者からの『これやってみたら便利ですよ』という言葉に乗せられて、本質的なところに目が行っていないと『なんかゴールが違う』みたいな話になってしまいます。サプライチェーンやバリューチェーンのような、全体の流れの一部として決済システムを考えていく必要があるわけですね。
鈴木氏
「サプライチェーンというと、本当に製造業のごく一部の人にしか関係していないような言葉と捉えられがちですが、実はそうではなく、全産業、全社会的なレベルで考えていかないと駄目だと思います。
全体を見て『じゃあ、うちはここが足りないからここを目指そう』と考えていくこと。課題と目標が明確になっていることが重要だと考えます。
そして、それをお店や企業のトップの方が宣言して、リーダーシップを取ってやっていくということが重要だと思います。」
TISの新たな挑戦
その中で重要なファンクションとして、B2B決済という考えが生まれ、世の中がようやくその必要性に気づき始めているというのが今ということでしょうか。
鈴木氏
「そうですね。だから我々も決済のDXだけではなくて、小売業界をDXするサービスとして、ユニファイドコマース(統合された商取引を実現するための概念)という概念を推進しています。
ユニファイドコマースはCX(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験)の向上を目指した概念であり、そこで目指しているのは、『オフラインでもオンラインでも、顧客1人ひとりを知りつくしたおもてなし』です。
オフラインとオンラインの差別化ではなく、ユーザーに購買チャネルを意識せずに買い物をしていただく概念ですね。
ユーザーからするとECも店舗の1つしとしてしか見ていないので、店舗側がそこを区別して考えてしまっては、ニーズに応えていけないと考えています。」
ユニクロはネットでオーダーした商品をリアル店舗で受け取れるサービスを行っていますし、Amazonはコンビニに宅配ロッカーを設置しています。このように、オフラインとオンラインの区別はどんどんなくなってきていますね。
鈴木氏
「決済のDXと一口にいっても、そういった今までの話すべてを包括した内容でなければならないと思います。決済だけ単独のDXというのは成立しないと思っています。」
ただ単に「決済DX」という話ではなく、決済にDXがくっついたことでビジネスモデル全体、あるいは社会のモデル全体を変えていく取り組みを今なされているということでしょうか。
鈴木氏
「そうしていかないと、なかなか『貴社の課題を解決します』とは言えないんじゃないかと思います。飲食店には飲食店業界の課題があり、小売店には小売業界の課題があります。また、企業ごとに個別の課題もあるでしょうから、それぞれ個々に対応していく必要があると思っています。
今後はよりフロントに出て行って、お客さまの声を聞いてサービスを拡大していきたいという思いもありますので、色んなお客さまとの対話を通じて、たくさんの情報を集めていって、今後に活かしていきたいですね。」
お話できる範囲で、具体的にご紹介いただけるソリューションはありますか?
鈴木氏
「例えば、三井住友カード様と、『自分たちのブランドで決済サービスを始められます』というサービスの裏方をやらせていただいています。いわゆる自治体Payとか、◯◯Payみたいなものを、自社アプリでやりたい場合のお手伝いですね。これは2023年8月にプレスリリースを出しました。
自分たちで決済を完結させたいけど、自分たちだけではシステムを作れないというニーズに応えています。多くの企業が自分たちのお得意様を経済圏で囲って、より強固なファンを獲得したいというような動きは出てきていると思うのですが、その象徴として決済システムを作りたいという動きがあると感じています。」
昔でいえば企業グループの中で、商社が重要な役割を担っていたところが、世の中が電子化されシステム化された事により、決済システムの提供会社がビジネスの中枢に絡んでくる。これが電子化の世界ですかね。
かつては財閥の流れがあって、それが今はオンラインに代わっています。未だに3大大手は強いですけど、楽天しかり新しい経済圏が生まれてきています。その中でTISの立ち位置というのは、今後益々重要になってくるんだろうなと、期待も込めて思います。
鈴木氏
「そういうふうに見ていただけるように頑張りたいですね。
あとTISは「PAYCIERGE(ペイシェルジュ) 」を展開しています。これはさまざまな決済の仕組みを提供するサービスを総称したトータルブランド名です。クレジット、国際プリペイドカード発行からコード決済、給与デジタルマネーなど幅広いサービスを提供しています。
最近ではこのPAYCIERGEのブランドサイトで私が各企業の先駆者をゲストに迎え、インタビューしたものを記事化していく活動も始めています。タイトルも『シリーズ化!未来への橋渡し―ビジネスを変える!進化し続けるDXと決済の最前線』です。本日のテーマにも繋がるところがあるのかなと思いました。」
まとめ~デジタル化=DXではない
決済システムを中心に、さまざまな企業の裏方として活躍してきたTIS株式会社。今では、よりビジネスのフロントに出て、培った技術とノウハウで社会基盤を支えていこうという取り組みを始めています。
今回お話を伺った鈴木氏は、その中でも社内外のパイプ役としてさまざまな業務を担い、多くの知見を蓄えていらっしゃる方でした。
そんな鈴木氏に、最後に『これからDXに取り組む企業に何かメッセージを』とお願いしたところ、返ってきたのは『デジタル化=DXではありません。まずは目的を持って、人材をうまく活かしていくことが大事です』という答えでした。
そのために必要なのは、やはりトップのリーダーシップです。テクノロジーはあくまでもツールでしかなく、それを活かすのは『人』なのです。
我々が普段目にしている決済システムの裏に見え隠れするTISの技術も、それ単体で成立するものではなく、社会やビジネスの流れを捉えて、人に役立つシステムを開発しているからこそ、これだけの実績を積み重ねることができているのでしょう。
『ここにもいたのかTISインテックグループ』のコピー通り、あらゆる場面で重要な役割を果たすTISの動きは、DXportal®編集部としても今後も注目してまいります。
TIS株式会社
ビジネスを支える基幹システムから、高い競争力を生むアプリケーション、さらにはシステムの基盤となるプラットフォームまで幅広く提供。お客さまの経営課題を把握し、潜在的なニーズを先取りしたITサービスを展開しています。
- 創業:1971年4月28日
- 創立:2008年4月1日
- 本社:東京都新宿区西新宿8丁目17番1号
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