現在、DX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)推進の取り組みは全国の自治体に広がっています。
自治体のDXに対する取り組みに対して、総合的に評価したあるランキングが2023年4月に公表されました。
それが「全国自治体DX推進度ランキング2023」です。
今回は「全国自治体DX推進度ランキング2023」ベスト10の中から、興味深い取り組みを行っている自治体の事例を4つ紹介します。
全国の自治体では、具体的にどのような取り組みがされているのか。当記事で取り上げる事例は、民間企業にとってもDX推進をするうえで、大きなヒントになるはずです。
全国自治体DX推進度ランキング
「全国自治体DX推進度ランキング」とは、総務省が公表する「地方公共団体における行政情報化の推進状況調査」をもとに、総合シンクタンク「時事総合研究所」が独自の基準にもとづいて採点した結果をまとめたものです。
審査の基準は5つあります。
- 自治体DXの推進体制
- 行政サービスの向上・高度化
- 情報セキュリティ対策
- デジタルデバイド(デジタルの恩恵を受けられる人と受けられない人の格差)対策
- マイナンバーカードの交付枚数率
この5つの基準により2023年の全国自治体DX推進度ランキングのトップ10に選ばれた自治体は以下の通りです。
興味深い自治体DXの事例4選
この章では全国自治体DX推進度ランキングトップ10の中から、興味深い取り組みを行っている自治体を、DXportal®が独自に4つ選出して紹介します。
大分県大分市(全国自治体DX推進度ランキング:第2位)
大分市は、大分市は、「大分市情報推進計画」を策定し、2024年までを目標に、様々な面での情報化を進めています。
大分市が行っているDXの代表的な取り組みは、以下の通りです。
- 行政手続きの全てをオンラインで申請可能にする
- マイナンバーカードで電子署名を行い、クレジットカード登録することで行政の証明書交付などが申請から手数料の支払いまで専用アプリで行うことができる
- 各種申請手続きが、パソコン・スマートフォンから24時間どこからでも簡単に申請可能にする
この取り組みは、わざわざ役所の窓口に行く手間を省けるため、子育てや仕事でなかなか時間が取れない方や、体力に不安のある高齢者に便利なサービスです。
また、同市では、「大分市公式アプリ」を作成して、市民に提供しています。
このアプリを通して通知される内容には、主に次のようなものです。
- 大分市のイベント情報
- ゴミの出し方・収集日カレンダー
- 大分市の防災・緊急情報の通知
- 大分市の無料公衆無線LAN接続支援情報
さらにこのアプリには、2021年より豆腐をモチーフにしたキャラクター「しつぎおとうふ」くん(情報の標準化と共同利用を目指した行政向け汎用AIサービス)が自動回答機能で質問に答えてくれる、AIチャットボット機能が搭載されました。
大分市では、市民から寄せられる問い合わせや各種証明書の発行手続きなどについて、24時間365日答えてくれるサービスとして市民の多くに利用され好評を得ています。
このチャットボットが対応できるジャンルは、子育てや暮らしの情報、各種保険関連など40分野、1,700もの質問に及んでいます。
実際に筆者が、「子供が安心して遊べる場所は?」と質問を投げかけたところ、大分市の公園一覧やこどもルームについて教えてくれました。こどもルームの情報には、「施設の特徴」「遊具・絵本の有無」「部屋の環境」などの役立つ情報も記載されており、便利に使えそうです。
また、英語や中国語、韓国語などの多言語に対応しているのもポイントです。大分市に暮らす海外の方や、観光客にも寄り添った配慮がされている優秀なアプリと言えるでしょう。
当然ながら、このアプリを導入することで、役所の窓口で多言語対応する手間を大幅に減らし、行政の効率化にも大いに貢献しているのは間違いありません。
こうした大分市の取り組みは、「全国自治体DX推進度ランキング2023」第2位の名に恥じないものだといえるでしょう。
東京都町田市(第3位)
町田市は、2022年4月より「まちだ未来作りビジョン2040」として、新たな基本構想・基本計画をスタートさせています。その計画の中で提唱される、「デジタル化による行政サービス改革」では、「町田市デジタル化総合戦略」が公表されています。
「町田市デジタル化総合戦略」の核となる基本方針は次の3つです。
- デジタル技術を活用した市民サービスの向上
- 生産性の向上
- 新たな価値の創出
この3つの基本方針は、まさに「DXの目的」と同じであると言って良いでしょう。つまり、行政が市民のためにDXを進めることを宣言したということになります。
その最終的な目的は、行政サービスを「人手のかかるサービス」から「デジタルベースのサービスへと変革する」と定められています。
この目的のために町田市は、東京都市大学と共同してDXプロジェクトを開始しました。
この取り組みの面白いところは、一般に「お堅い」イメージが強い役所仕事を変革しようと、町田市の職員が自ら率先してDXに取り組んでいるところです。職員のイニシアティブで作成された市のプロモーション動画は話題を呼びました。
- AI(人工知能)
- メタバース(仮想空間)
- アバター(仮想空間のキャラクター)
これら今話題のWeb3.0技術を組み合わせて、ミュージックビデオ風の町田市のプロモーション動画を製作し、YouTubeで公開したのです。
動画は、町田市のDX推進への取り組みをわかりやすく紹介しています。このコンテンツは、上からの指示ではなく職員が自ら率先して制作されました。
こうした動きが現場の職員からも生まれてくるということは、DX推進においてはもっとも重要な要素の1つである「組織全体でDXの目的を共有する」というポイントを、町田市がクリアしている証左と言えるでしょう。
また、公開型オンライン会議「町田市デジタル化推進委員会」の際は、デジタル技術を用いて有識者を含めた全員がアバターで参加しました。
難しいテーマのオンライン会議で可愛らしいアバターが話している姿は、親しみやすく好感が持てることもあって、市民に同士のDXへの取り組み方を分かりやすく伝える役に立っています。
その他にも町田市は、以下のようなDX施策に取り組んでいます。
- スマホからアクセスできるメタバースまちドアで各種の情報を届けたり、市民参加型の意見交換会の開催
- 職員採用のPR動画をVチューバーキャラクターを利用して作成
- 転入処理などの手続きをすべてオンラインでできるようにして、市民課の窓口を「書かない窓口」に変更
- モバイル端末を利用した防災システムの構築や、市民向け防災ポータルサイトの作成
- タブレット端末を支給した介護認定のデジタル化
このように、町田市の施策からは、あらゆる場面でデジタル技術を活用し、業務の効率化や役所仕事のイメージアップを図るDX推進への前向きな姿勢が伝わってきます。
大阪府豊中市(第5位)
豊中市は、2020年8月に「とよなかデジタル・ガバメント宣言」を掲げ、「暮らし・サービス」「学び・教育」「仕事・働き方」の3分野を軸にDXを推進しています。
同宣言の中では、同市が取り扱う940の行政手続きのうち、法令等によりオンライン化ができないものを除いた約910の行政手続きを2023年3月末までに完全オンライン化することを目標に掲げていました。そして宣言通り、2023年3月31日にはこの目標を全てクリアしたのです。
また、豊中市が行っている介護現場におけるデジタル技術の活用も注目すべき取り組みでしょう。
その取り組みとは、株式会社ウェルモと連携して電力・センサー技術を用いたケアサービスのモニタリングシステムの実証実験、介護事業者向けのデジタル研修による人材育成などのことです。
例えば、電力・センサー技術を用いたモニタリングシステムは、次のようなシステムによって運用されています。
ひとり暮らしの高齢者宅に高精度の電力センサーを設置
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家電の利用状況に基づき、AI技術で生活リズムをデータ化
↓
利用者ごとの生活リズムの変化をAIを利用してレポートにまとめる
↓
利用者の生活リズムをトラッキングし、専門家が作成したルールとAIが作成した生活リズムを組み合わせ、ケアマネージャーにアドバイス
また、これらのデータは家族や介護職員は24時間閲覧することが可能となっており、システムが異常を検知したときにはリアルタイムで通知が入りますので、高齢者の周囲の人々が万が一の危険を回避するための早急な対策を取ることにも一役買っています。
この取り組みは、市の高齢者数に対して、介護分野の人手不足が顕著な状況をデジタルの力で解消しようとする試みとして大きな評価ができるでしょう。
また、教育分野では「1人1台タブレット」を掲げ、ICT(情報通信技術)を利用した学習環境へシフトしています。
- 生徒それぞれの学習のつまづきに応じて設定変更できる学習ソフトを利用した、繰り返し学習の提供
- タブレットを持ち帰って行う、家庭での自主学習や個別学習の実施
- インターネットで検索した情報や学びを、タブレットに記録して共有するグループ学習の実践
これは、生徒の個性に寄り添いながら、自主的な学習能力や他者とのコミュニケーション能力を培う取り組みの1つです。
既に、学習塾などがこうした仕組みを開発・運用しているケースはありますが、自治体をあげて取り組んだ点が、豊中市のランキングを決定づける大きな加点ポイントになったのは間違いないでしょう。
さらに、働き方の取り組みでは、職員の在宅ワークの導入、文書のペーパレス化・脱ハンコ化をなどを進めています。
同市の取り組みは、DXにより行政の無駄を省くだけでなく、介護現場や教育現場にも大きな変革をもたらす取り組みと言えるでしょう。
新潟県新潟市(第9位)
新潟市は、新たな経済的価値創出を目的に、食と農を活かしたDXの取り組みを行っています。
これは、「作るから食べるまで」のフードサプライチェーン(米や野菜などの生産・販売・廃棄までの一連の流れ)に関わるプロジェクトで、次の4つを軸としてDXを推進しています。
- 作る:DXにより農業の生産性向上と脱炭素化などを図る「農業DXモデル事業」の取り組み
- 売る:バーチャル上で再現した新潟市の都心空間で行うイベントやマルシェ(市場)などにより、販売促進を狙う取り組み
- 学び:幼稚園から高校生までを対象とした、食と農の学びのプロジェクト「令和版!アグリ・スタディ・プログラム」の取り組み
- 食べきる:規格外品・売れ残り商品を廃棄させない、食品ロス削減の取り組み
このうち、例えば「作る」では、タブレット・パソコン・スマートフォンで使えるクラウド型の農業支援ツールを用いたスマート農業(通信技術を活用した農作業の効率化)を行っています。
具体的には、航空写真をもとに作った農地地図上の「作物の生育状況」「収穫・出荷情報の記録」「企業との連携による農業経営データの管理・共有」などです。
また、AIによるスマートフォン用「病害虫雑草診断ツール」も導入しています。
作物に発生した雑草や害虫をカメラで撮影し検索すると、どのような被害をもたらす生物かを診断し、有効な対策(適した薬・手入れ)をアドバイスしてくれる仕組みが取り入れられています。
こうしたスマート農業の技術は便利な反面、導入には高額な費用が発生する場合も多く、個人農家で導入するには資金面での不安があるでしょう。
新潟市では、そのような農家に対して、複数の農業従事者が共同でデータを共有しながら経営することで生産性を上げ、作業の効率化やコスト削減をに繋げつつ、初期導入費用を削減する「農業データシェアリング実証プロジェクト」を展開し、生産性の向上を目指した低コスト型のスマート農業モデルを構築しています。
さらに、同市はデジタルをうまく活用して、農業の生産性低下や農業の高齢化への対応、食料不足の解消など、SDGsをも視野に入れています。
これらの取り組みは、「新たな価値を創出し人々の暮らしをより良くする」といった、DXの考えに合致したものではないでしょうか。
まとめ~自治体のDX推進は市民目線が最重要課題
「全国自治体DX推進度ランキング2023」のトップ10の中から、興味深い取り組みをしている自治体の事例を4つ紹介しました。
紹介した自治体のDX推進をおおまかにまとめると、下記の通りです。
- 行政手続きの効率化
- 市民の暮らしに役立つ情報の提供
- 医療・介護や教育の助けになる技術
- 食と農業に関する取り組み
自治体の中には、職員自らがデジタル技術を利用して、DXの取り組みを紹介する動画を作成したり、在宅ワークやペーパーレス化などを図ったりする事例もありました。
取り上げた自治体のDX推進に共通するのは、その街に住む市民の暮らしに寄り添った視点です。
「デジタル技術を活用した新たな価値創出により、人々の暮らしをよくする」。
DXが本来持つ意味を正確に理解し、一部の部署だけでなく、全ての職員が一丸となって取り組んでいる自治体は、やはりDX推進度ランキングでも高い評価を得ているのではないでしょうか。
今回取り上げた自治体の例を参考に、民間企業においてもご自身の所属する組織のDXを大きく進めるきっかけにしてください。
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