1月16~20日は「雉始めて雊く(きじはじめてなく )」。雉のオスはメスに求愛するとき、「ケーンケーン」と鳴いて、美しい羽根を「ホロロ」と打ち鳴らすのだそう。
そんな雉たちにとっては恋の季節ともいえますが、星空もまた、一年でもっとも美しく見える時季を迎えています。寒い夜は体を小さくかがめてしまいがちですが、ときには背筋を伸ばして、夜空を見上げてみましょう。
そこはまさに、天然のプラネタリウム。冬の夜空には、宝石のような星たちがきらきらと輝いていますよ。
七十二候とは?
時間に追われて生きることに疲れたら、ひと休みしませんか? 流れゆく季節の「気配」や「きざし」を感じて、自然とつながりましょう。自然はすべての人に贈られた「宝物」。季節を感じる暮らしは、あなたの心を癒し、元気にしてくれるでしょう。
季節は「春夏秋冬」の4つだけではありません。日本には旧暦で72もの豊かな季節があります。およそ15日ごとに「立夏(りっか)」「小満(しょうまん)」と、季節の名前がつけられた「二十四節気」。それをさらに5日ごとに区切ったのが「七十二候」です。
「蛙始めて鳴く(かえるはじめてなく)」「蚯蚓出ずる(みみずいずる)」……七十二候の呼び名は、まるでひと言で書かれた日記のよう。そこに込められた思いに耳を澄ませてみると、聴こえてくるさまざまな声がありますよ。
太陽にも負けない強い光を放つ「冬の星」
星の光が、一年の中でもっともはっきり見えるのは冬といわれています。「冬の星」という言葉も、実は立派な季語なんですよ。寒さで体をふるわせながらも、冬の夜空に輝く冴え冴えとした星を眺め「きれいだな」と思った経験は、誰しもがあるはず。
冬の夜空に輝く星といえば、オリオン座の赤いベテルギウス、大犬座の青いシリウス、小犬座の淡黄色をしたプロキオンが有名です。この3つを結ぶ線を「冬の大三角形」といいます。子どもの頃、理科の時間で習いましたよね?
中でもシリウスは、太陽を除けば全天でいちばん明るい星といわれているんですよ。シリウスはその輝きの明るさから、古くから信仰の対象とされてきました。とくに古代エジプトでは、ナイル川の氾濫を知らせてくれる重要な星として、”ナイルの星”とも呼ばれていたのだとか。
わたしが素敵だなと思ったのは、シリウスの「天狼」という中国の呼び名。暗闇の中から、神秘的な青白い光を放つ星にぴったりな呼び名だと思いませんか?
ちょっぴり悲しい気分のときでも、力強く輝く星を眺めていると、明日もがんばろうという気持ちになります。落ち込んでいるときこそ、顔を上げて、星空を眺めましょう。
平安の女流作家も眺めた「昴(すばる)」
平安時代、『枕草子(まくらのそうし)』という、自然や人間などを見つめ、感じたことを文章にまとめた素晴らしい随筆集を書いた女性がいました。その名は、清少納言。
きっと一度は、耳にしたことがあるでしょう。今から約1,000年も昔、清少納言はこのような言葉を記しています。
「星はすばる。彦星。夕づつ……」(『枕草子』)
~ 星といえばすばる。そして彦星。宵の明星もいいわ ~
「すばる」とは、おうし座にある散開星団「プレアデス星団」のこと。肉眼では6つの星がひとかたまりになって見え、「統(す)ばる」=「ひとつにとりまとめる」という意味から、「すばる」と呼ばれるようになったそうです。
また6つの星が連なった姿から、別名「六連星(むつらぼし)」とも呼ばれます。平安の女流作家とこうして同じ星を眺めていることを思うと、どこか感慨深い、不思議な気分になりますね。
「すばる」の誕生は諸説ありますが、今からおよそ5,000~6,000万年前のこと。人類誕生よりもはるか昔から、夜空に輝いていたのですね。
太古の昔から輝く星を眺め、誰かのことを思ったり、未来を思い描いたり、壮大な地球のドラマを想像したり……忙しい日常から離れて、心を解放してみましょう。きっとおだやかな気分になれるはず。
いかがでしたか? 宇宙の誕生から約138億年、星々の輝きは今も変わらない、神秘の結晶ともいえます。
美しい冬の夜空を眺める時間は、いつの時代も、お金のかからない贅沢なひとときですね。
【参考】『くらしを楽しむ七十二候』広田千悦子/泰文堂、『日本の歳時記』/小学館