ダッソー・システムズ株式会社は2022年7月5日(火)、フランスの民間放射線治療センター”H. HARTMANN Institute”と同国統合医療の専門機関”Rafaël Institute”との共同で、VRによって患者が放射線治療を疑似体験できるような一種の3Dシミュレーターを構築する「VORTHExプロジェクト」を立ち上げたことを発表しました。
このプロジェクトで闘病中のがん患者は、治療室の室内や設備・治療の流れなどをVR体験を通じて理解し、より安心して実際の放射線治療に臨むことができます。
「VORTHExプロジェクト」立ち上げへ
今回立ち上げが発表された「VORTHExプロジェクト」は、ダッソー・システムズとフランスの民間放射線治療センター”H. HARTMANN Institute”、同国の統合医療の専門機関”Rafaël Institute”の3者が共同で進めるプロジェクトで、仏・ヴェリジー=ヴィラクブレーにて現地時間の今年6月2日に初めて発表されています。
このプロジェクトは、放射線治療を受ける患者が安心して治療に臨めるように、VRを使った治療の疑似体験を可能にすることを目的にしており、放射線治療室の室内や設備・治療の流れを没入型バーチャルツインで再現し、患者が放射線治療を疑似体験することによって、患者自身が治療前に心の準備をできるようにしていきます。
このコンテンツは一種の3Dシミュレーターのようなものであり、闘病中のがん患者はこれらをVR体験することで流れを理解し、より安心して実際の放射線治療に臨めることが期待されます。
なお、このプロジェクトでダッソー・システムズは、同社の3DEXPERIENCE Labが技術面と機器面でプロジェクトをサポートしています。
実際の放射線治療室を再現
このプロジェクトでは、放射線治療と放射線外科を専門とするH. HARTMANN Instituteに新設された治療室を、バーチャルツインとして再現しており、治療の流れを3Dシミュレーションすることにより、治療室やサイバーナイフ・ロボットのアーム、そこで治療を受ける患者の姿勢や治療の手順など、技術的・医療的観点からほぼ正確に体験することができます。
プロジェクトはH. HARTMANN Instituteの医療チームの医師が監督し、また体験する患者には同チームが最初から最後まで患者に付き添う上、さらにこのバーチャル治療体験は治療計画に容易に組み込むこともできます。
放射線治療の不安を軽減へ
今回発表されたプロジェクトは、治療現場や医療機器に慣れ親しんでもらうことで患者の不安感を軽減し、放射線治療に関する理解を深めてもらうことを目的としており、実際に同プロジェクトを体験した患者からのコメントも、今回の発表と同時に紹介されています。
<患者 クリスチャン. Eさんの体験談>
このバーチャル治療体験は、実際の現場を緻密に再現している上に、非常に興味深く、私たちの治療計画に役立っています。
医師の方々は放射線治療について説明してくださいますが、聞き洩らしてしまうことも多いのです。
しかし、このバーチャル体験で説明が視覚化されることで、すべてを理解できます。
『百聞は一見に如かず』とは、まさにこのことです。
これから何が起こるか分からないでいるより、知っているに越したことはありません.
<患者 アラン. Aさんの体験談>
放射線治療が心配だったのですが、この体験のおかげで客観的にとらえることができ、心の準備をして、安心感を得ることができました。
このバーチャル治療は、さらに詳しい情報を提供するだけでなく、想定外の疑問にも対応し、普段の診察を補完する役割を果たします。
臨床試験で提供予定
今回のプロジェクトでは、放射線治療という先進治療と患者のニーズに合わせた個別ケアを組み合わせるという統合的なアプローチをとるため、H. HARTMANN InstituteとRafaël Instituteが提携しており、またダッソー・システムズの3DEXPERIENCE Labが技術的な専門知識と没入体験に必要なVR機器を提供しています。
3DEXPERIENCE Labでは、ダッソー・システムズの3DEXCITEアプリケーションと実際の治療で使用される技術データを活用し、コンテンツのシナリオと機能の制作を手がけており、デジタルの連続性によって、ロボットと治療部位の両方を高い精度のバーチャルツインとして再現することに成功しています。
この患者の治療過程におけるシミュレーションの効果と性能を評価する臨床試験は、MEDIDATAの臨床試験プラットフォームで実施される予定になっています。
プロジェクト立ち上げにあたって
今回のプロジェクト立ち上げにあたって、ダッソー・システムズの3DEXPERIENCE Labの責任者のフレデリック・バッシェさんと、H. HARTMANN InstituteのマネージングディレクターであるEmile Dinetさんがコメントを発表しています。
<フレデリック・バッシェさん>
現在、デジタルの連続性のおかげで、医療機器のデジタルツインを患者の治療過程に組み込んで、革新的な用途で活用することができるようになってます。
バーチャル空間上に忠実に再現された治療室での3D没入体験の効果は、いずれ患者群を用いた臨床試験で評価されることになります。
<Emile Dinetさん>
このような非常に革新的なプロジェクトを成し遂げられたことは、私たちの行動と考えが患者に向けられていることをあらためて証明しています。
これは、患者の健康と、正確かつ安全な治療に特化した新しいテクノロジーの統合によって得られた成果です。
まとめ
ダッソー・システムズとフランスの医療機関が今回、共同プロジェクト「VORTHExプロジェクト」を発表しました。
このプロジェクトは、放射線治療室をバーチャル空間上に再現し、治療に臨む患者に事前に治療体験させることで心理的負荷を減らすことを目的にしています。
最近は医療分野でVRが多く導入されていますが、患者側の心理的負担というある意味解決が難しい課題も、これが実用化されればクリアできそうですね。
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