AppleのCEO、Tim Cookは以前からVRよりもARの方が商業的価値が大きいとするコメントを発表してきた。これは、VRとARで映像を見せるスタイルが異なっているからだ。
VRはエンターテインメントや本格的なシミュレーションに適している反面、日常生活に組み込みにくい。ARならば一般の消費者の生活に入り込みやすく、ビジネスのチャンスは多いと言えそうだ。
実際に、Appleが現在提供しているのはAR技術の方である。同社のiOSを搭載したデバイス(iPhone、iPad)で利用可能なARプラットフォーム「ARKit」は世界中で利用されている。
ARが評価された理由
VRの弱点
VRとAR、どちらの技術も実際には存在しないオブジェクトをユーザに見せることができるという特徴は共通している。しかし、その見せ方は異なる。
VRの場合はユーザを現実の世界から切り離してしまう。現実を忘れてVRコンテンツに没入できるのは強みでもある。その点はCookも認めているが、体験が孤立したものになってしまいがちなことは否定できない。そのためARに比べると興味を持つ消費者が少なく、商業的価値も小さいと判断されてしまった。
それに対し、ARであれば目の前にあるものを見たままで視界に情報を表示することが可能だ。Cookの挙げた例で言えば、AR情報を表示したまま人と会話することもできる。もちろんVR映像を見ながら人と会話することも不可能ではないが、スマートフォンを見ながら話すよりもさらに印象が良くないだろう。
VRは優れた技術だ。ただ、その特徴から利用シーンが限られてしまうことが欠点と言える。
MRという解決策?
VRヘッドセットによって視界を遮り、ユーザを現実から切り離してしまうことはVRの特徴だ。だが、カメラを利用すれば擬似的に目の前の世界を見せることもできる。Windows Mixed Reality対応ヘッドセットで行われているのがそれだ。
マイクロソフトのHoloLensはディスプレイの向こうにあるものが透けて見えるデバイスだが、「MRヘッドセット」と呼ばれている各デバイスはほぼVRヘッドセットである。本体に搭載されたカメラを通して前が見えているような映像を作り出しているだけだ。
HoloLensのようなシースルーディスプレイを搭載したヘッドセットに比べれば、この方式のヘッドセットは低コストで開発・生産可能だ。消費者に視覚化技術を普及させる上で、デバイス価格は重要なウェイトを占める。
Vrvanaのヘッドセット
AppleがVRではなくARに注力していることを考えると、VRヘッドセットを開発するスタートアップ企業を買収したというニュースは意外に感じるかもしれない。だが、買収が伝えられたVrvanaが開発しているのはWindow MRヘッドセットのようなデバイスだ。
Totemヘッドセット
同社がサイト上で公開している唯一の製品、TotemヘッドセットはVRとARの両方の体験が可能だとされている。未発売のヘッドセットだが、Windows MRヘッドセットと同様にカメラが捉えた映像にバーチャルオブジェクトを合成して見せることができるようだ。
トラッキングについても、VRヘッドセットよりもMRヘッドセットに近いインサイドアウト方式を採用している。外部にベースステーションを設置するのではなく、ヘッドセット本体に搭載されたカメラによってユーザの位置をトラッキングするという。
また、本体には映像の撮影やヘッドセットの位置を確定するために利用する通常のカメラの他に赤外線カメラも搭載されている。これは、ユーザの手をトラッキングするためのものだ。
Apple製ヘッドセットへの利用
Appleは2020年(2019年という説もある)にAR技術を使ったスマートグラスの発売を目指していると噂されている。Appleの事情に詳しい人物からの情報がソースとされる噂の信憑性は不明だが、これまでに発見された特許書類や買収した企業から考えてもAppleが独自のARハードウェアを開発していることは間違いないだろう。
VrvanaのTotemヘッドセットは、Windows MRヘッドセットのように外部の映像とバーチャルオブジェクトを合成して表示することができる。Appleの開発するデバイスは、HoloLensやMeta 2のように透明なディスプレイを使う代わりにカメラとVRヘッドセットを組み合わせたものになるのかもしれない。
AppleやVrvanaから買収に関する公式の発表はなされていないが、Tech Crunchの問い合わせに対してAppleが買収の話を否定することもなかったという。一方、Vrvanaからは返答を得られなかったようだ。
Appleが視覚化技術に関わる何らかのハードウェアを開発しているという噂は新しいものではないが、いよいよ現実味を帯びてきた。2019年にデバイスが発表予定とされているが、それを待たずとも来年にはまた新たな情報が出て来るだろう。
参照元サイト:Tech Crunch
参照元サイト:Road To VR
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