海外メディアVRScoutは、VR美術展「A Colossal Wave !」を紹介した。
物理現象としての「音」に着目した美術展
同メディアによると、イギリス・ロンドンにある文化施設Hull UK City of Cultureにおいて2017年12月1日から10日まで、VRを活用したインスタレーションを体験できる美術展「A Colossal Wave !」が開催される。
VRをテーマにした美術展と言うと、VRヘッドセットを着用してアーティストが制作したクールなVRコンテンツを鑑賞する、と思いがちである。しかし、同美術展はよくあるVR美術展とは一線を画している。同美術展では、「音」に着目したVRコンテンツを体験できるのだ。以下に、同美術展で体験できるやや風変わりなVRコンテンツを紹介する。
津波を体験できるVRコンテンツ
屋外に設置されたVRインスタレーションを体験するためには、VRヘッドセットを装着した鑑賞者は巨大なベルの近くに座らなければならない(トップ画像左側参照)。
鑑賞者の座った場所の近くには、高さ9メートルある塔が建てられている(トップ画像右側参照)。この塔は、塔の最上部から重いボーリングの球を落とすために設置されたものだ。このボーリングの球は、金属板の上に落される。当然、ボーリング球が落ちた時には大きな衝撃と大きな音が発生する。発生した大きな音は、鑑賞者の近くにある巨大なベルに伝わる。
ボーリング球の落下によって振動したベルには、音の振動をジャケット状のデバイスの振動に変換するデバイスSubPucにつながっている。
もうお分かりだと思うが、このVRインスタレーションはボーリング球の落下による音をSubPucの振動に変換して、その振動をバーチャルな津波に見たてるものなのだ。VRヘッドセットからは、バーチャルな波のゆらぎを見ることができるようになっている(下の画像参照)。
同インスタレーションが制作された真のねらいは、ボーリング球の落下がバーチャルな津波体験を引き起こすというような、全く異質なリアルなイベントとバーチャルなイベントをVRによって橋渡しすることにあるのだ。
ヒトが立てる物音からバーチャルな海中生物を生成
同美術展の屋内には、球形をした巨大な集音器が置かれている(上の画像参照)。美術展の来訪者が、この集音器の近くを通ったり話したりして発生した音は、すべて集音器に記録される。
この集音器の近くには、VRヘッドセットが用意されている。VRヘッドセットを装着すると、海中を連想させる光景が広がり、その光景のなかに奇妙な貝のようなモノが漂っているのがわかる(下のGIF画像参照)。
実はこの奇妙でバーチャルな生き物らしきモノは、集音器が集めた物音を元にして生成されたバーチャル・オブジェクトなのだ。つまり、来訪者が立てた物音は巡りめぐって、これらのバーチャルな生き物を生み出している、というわけである。
以上のような奇妙なVRインスタレーションを制作したアーティスト集団Marshmallow Laser FeastのメンバーのひとりであるErsinhan Ersin氏は、VRインスタレーションを制作した意図について、以下のようにコメントしている。
今回の美術展は、わたしたちにまたとない本当の冒険をするチャンスを与えてくれました。そのチャンスとは、ヒトの脳、感情、そして視覚を新たに統合するというものです。
何かを見るということ、リアルなイベントとバーチャルなイベントを統合するということ、さらには周囲の環境と会話するということ、美術展「A Colossal Wave! 」ではこういったこと全てが、わたしたちのインスタレーションとなるのです。
音が着目したVR・ARコンテンツ
VR・AR体験と言うと視覚的側面を注目しがちであるが、同時に聴覚的体験でもある。VR・AR体験の聴覚的側面に着目したユニークなコンテンツを本メディアでは以前に紹介した。
HoloGuide
「HoloGuide」は、AR表示された音源を追いかけることで、ユーザの移動を制御するHoloLensアプリだ。
同アプリには、ユーザに移動して欲しい経路をあらかじめ地図とともに入力しておく。上に引用したデモ動画では、オフィスの通路を入力してある。
つぎに同アプリを起動すると、入力しておいた移動経路が赤い線でAR表示され、その赤い線の上に青色の音源が現れる。ユーザは、この青色の音源の方向に動くと、音源は移動経路に沿って移動する。つまり、音が聞こえる方向に動き続けると、設定された移動経路上を移動できるようになっているのだ。
もしも移動経路上に障害物があったとしても、音源がその障害物を検知して、回避する経路上を動くように設計されている。
以上のような「HoloGuide」の活用シーンとして、すぐに思いつくのは聴覚に障がいがあるヒトの移動をアシストすることだ。
そのほかに応用シーンとして、火災時の救助活動が想定される。火災救助時にあらかじめ救助場所までの移動経路を入力しておけば、移動経路が煙で見えなくなっていても、音を頼りに救助場所まで行くことができる。
結局、同アプリにおいて重要なのは、赤色のコース表示や音源の青色ではなく、音源の移動なのだ。
VR・AR体験における聴覚的側面には、まだ秘められた可能性があるように思われる。独創的なVR・ARコンテンツは、聴覚的側面に着目することで生まれるかも知れない。
ソース:VRScout
https://vrscout.com/news/bowling-ball-vr-tsunami-art-exhibit/
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