
新機能が追加されたFacebook Spaces
FacebookはVRデバイス・VR技術の普及を目指しており、CEOのMark ZuckerbergはOculus Connect 4で「10億人がVRを利用することを目指す」という大胆な計画を打ち出している。しかし、FacebookがOculusを買収して自社の製品としたVRヘッドセットOculus Riftの普及率はまだ高くない。
VRヘッドセット同士を比較したときに極端に劣っている部分があるわけでもなく、ライバルのHTC Viveとも良い勝負を続けている。Oculus Riftが売れていないのではなく、VRヘッドセット自体がまだ大衆化しているとは言いにくいデバイスなのだ。
FacebookによるVRの民主化が成功するか否かの鍵は、同社がOC4で発表したOculus Goが握っているかもしれない。これまでのVRヘッドセットに比べて低価格でVR体験が可能なこのデバイスは、特にGear VRやDaydreamといったモバイルVRデバイスを利用していない消費者に刺さるものになる可能性がある。
VR技術とコミュニケーション
FacebookはVRヘッドセットのようなハードウェアを作るメーカーではなく、同社のメインビジネスはSNSの運営だ。そのFacebookが現在はOculus Riftを販売しており、Rift用コンテンツにも力を入れている。
VRを使ったコミュニケーション
Zuckerbergは、VRアプリケーションがパソコン・スマートフォンでのインターネットに続くコミュニケーションのプラットフォームとして機能するようになると考えているらしい。実際にソーシャル性を持つアプリケーションは各メーカーのストアやSteamでも人気となっているので、あながち間違いとは言えないだろう。
現在はVRデバイスの所有者が少ないためにソーシャルVRアプリの利用者も限られているが、一度利用者が増え始めてしまえば加速度的に増加を続けることが考えられる。そこで、複数の企業がソーシャルVRプラットフォームの構築に乗り出した。
ソーシャルVRプラットフォームの競争
Facebookが自社の名前を冠して開発しているのが、『Facebook Spaces』だ。
SpacesはOculus Rift専用のアプリとなっている。HTC Viveはもちろん、同じOculusの技術が使われたモバイルVRヘッドセットGear VRにも対応していない。ViveではハックツールのReviveを使って動作させることもできるようだが、非公式な方法なのでサポートは得られない。
ハイエンドVRデバイスであるOculus Rift専用ということで利用できるユーザは限られてしまうが、後発の強みを活かした豊富な機能と完成度の高さで人気のソーシャルVRプラットフォームだ。新機能の追加も頻繁で、Facebookがこのアプリにかなり力を入れていることが分かる。
母体が登録者の多いSNSのFacebookであり、資金力もあるので安心感のあるプラットフォームと言えるだろう。
広まらないVR技術への懸念
他社も同様のソーシャルVRプラットフォームでユーザを獲得することを目指しているが、マネタイズが難しいのも事実のようだ。VRデバイスの普及は2016年に予想されたほどのペースになっておらず、VRコンテンツやサービスで大きな利益を上げるのは簡単なことではない。短期間に100万ドル以上を売り上げたVRコンテンツも複数存在するが、現時点ではそちらの方がむしろ例外と考えるべきだろう。
ソーシャルVRプラットフォーム利益を上げることの難しさを示す一番の例が『AltSpaceVR』だ。AltSpaceVRはFacebookがFacebook Phoneで失敗した2013年に設立され、160カ国以上から数万人のユーザが利用する人気の無料VRプラットフォームを提供していた。
しかし、今年の8月には資金調達への失敗によって閉鎖されてしまった。
Facebook Spacesという強力なライバルの登場も同社が資金を得られなくなった理由になっていそうだが、それ以上に大きいのがVR業界に対する失望感の広がりだろう。元の期待が大きかっただけに、Facebookも含めた関連企業は厳しい現状と向き合わざるを得なくなっている。
新プレイヤーの参入
ただ、AltSpaceVRはこれで終わったわけではない。10月に入るとマイクロソフトがこのサービスを買収したことが発表されており、同社の提供する「MR」におけるコミュニケーションのプラットフォームとして活用されていくのではないかと考えられる。
AltSpaceVRはマイクロソフトによる買収後もOculus RiftやGear VRを含めた複数のデバイスで利用できるとされているので、Spacesの大きなライバルとなりそうだ。
Oculus Goの登場

来年発売予定の独立型VRヘッドセットOculus Go
Oculus Connect 4で発表されたOculusの新しいVRヘッドセットがOculus Goだ。Oculus RiftやGear VRに取って代わるものではなく、その二つのどちらとも違う新しいカテゴリを切り拓く独立型デバイスである。
199ドルでVR体験
その最大の魅力は、199ドル(2.2万円)という手頃な価格だ。
ヘッドセット本体に加えてパソコンやスマートフォンが必要なデバイスとは異なり、Oculus Goはこれ一台でVR体験が可能なデバイスとなっている。スピーカー内蔵でリモコンも付属するので、他に購入しなければならないのは好みのVRコンテンツのみだ。
コンテンツについては、Gear VRのコンテンツが利用できるので発売時から種類・数ともに豊富である。
スタンドアロンなマルチVRデバイス
Oculus Goのように外部機器に頼らず独立動作するVRヘッドセットは、既に存在する。VroticaやVeative VR Learnといったデバイスは、3万円以下で購入できる独立型のVRヘッドセットだ。
しかし、これらのデバイスとOculus Goには大きな違いがある。それはデバイスが対応するアプリの豊富さだ。
VroticaもVeative VR Learnも利用できるアプリは制限されている。それぞれ、アダルトVRコンテンツの視聴と学習用コンテンツの利用に機能を限定することで低価格やシンプルな操作体系を実現しているのだ。
Oculus Goでは上記の通りGear VR用のアプリを利用できるので、VRゲーム・VR映画からアダルトVRや学習用コンテツまで幅広いジャンルの対応コンテンツが登場するだろう。
発売時期の遅れ
ただ、Media Insiderでも指摘されているようにOculus Goの発売は2018年に入ってからだ。これは単に手頃な価格でVR体験ができるのが数ヶ月遅れるということを意味しない。VRデバイスが最も売れるホリデーシーズンに、このデバイスは間に合わないのだ。
また、GoogleによればHTCはVive Focusと呼ばれる独立型VRデバイスを今年の末に発売するという。価格や詳細な発売日は発表されていないが、Oculus Goと競合する製品となる可能性もある。Vive Focusがホリデーシーズンに購入可能な製品として登場すれば、発売の遅れはFacebookにとって大きな痛手になるかもしれない。
ただ、OculusのCTOを務めるJohn CarmackによればOculus Goの開発キットは早ければ来月にもデベロッパーの元に届くという。クリスマスまでにはデベロッパーによるOculus Goのレビューが上がってくるはずなので、評価が高ければ年が明けてから自分へのクリスマスプレゼントにOculus Goを購入するというユーザも増えるだろうか。
サムスンとの関係は?
サムスンのモバイルVRヘッドセットGear VRの開発においてはOculusの技術が使用されている。デバイスにOculusの名前こそ付いていないものの、Gear VRのコンテンツはOculus Storeから購入できる。だが、サムスンはGear VRとMRヘッドセットOdysseyのギャップを埋めるようなデバイスの開発を進めているようだ。
存在が明らかになったばかりのこのデバイスについては不明点が非常に多い。業界の潮流から独立型デバイスの可能性が高いが、単に「次のモバイルプロダクト」と呼ばれているのでGear VRの進化系となるスマートフォンを使うデバイスという線も捨てきれない。
性能や価格次第ではOculus Goと競合することが考えられる。これまではハイエンドVRとモバイルVRで棲み分けてきたOculusとサムスンだが、両者の関係が変化しているのだろうか。
VR未参入の巨人
Oculus Goのような独立型のVRヘッドセットが登場してくるまで、VRを体験するのに適したエントリーデバイスはAndroidスマートフォンを使用するGear VRやDaydream Viewだった。このことは、iPhoneユーザをVRから遠ざける理由となっている。
iPhoneを販売するAppleはVRよりもARのポテンシャルを評価しており、iPhoneで利用できるARKitを開発した。しかし、iPhone用のモバイルVRヘッドセットを販売しているわけではない。
VRのためにGalaxyスマートフォンやDaydream ReadyなAndroidスマートフォンとモバイルVRヘッドセットを購入した、あるいは既にハイエンドVRヘッドセットを購入したというアーリーアダプターでなければ、iPhoneユーザはVRデバイスを持っていないはずだ。
彼らは、FacebookにとってOculus Goを購入する可能性の高い潜在的な顧客だ。AppleがiPhone用のVRデバイスを販売していない今がFacebookにとってはチャンスである。
Oculus Goが発売されれば、Facebook(Oculus)の技術を使ったVRヘッドセットはOculus Rift、Oculus Go、Gear VRの3つとなる。ゲーマー向けには5万円に値下げされたOculus Rift、Galaxyスマートフォンを使わないユーザには独立動作するOculus Go、Galaxyスマートフォンの所有者にはバンドルでお得に手に入るGear VRという布陣だ。
Oculus Goという新たなデバイスを加えて、Facebookは10億人がVRを利用する世界を目指す。
参照元サイト:Media Post
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