多彩なスマホ向けVR HMDが発売される昨今、特に注目されている段ボール製VRゴーグルが「MilboxTouch」だ。
その要因はインタラクティブな操作を可能にしたインターフェースと、「パックマン」というお馴染みのゲームをVR化することで全く違うゲームに変化させたコンテンツ、その両面にある。
iOS向けアプリの開発資金捻出のため、クラウドファンディング Makuakeにて出資を募った所、多くのファンユーザがプロジェクトを支援し、目標額25万をあっという間に越え、達成度146%(3月26日時点)と見事成功。
そんな話題が尽きない「MilboxTouch」の生みの親である株式会社WHITE CEOの神谷 憲司氏に開発秘話や、今後の展開などについてお話を伺ってきた。
インタラクティブな操作の重要性
—-VR市場に入ったキッカケを教えてください。
神谷氏:WHITEは、もともと株式会社スパイスボックスの中のラボ組織でした。当時は毎年、今年来る可能性が高いテクノロジーを6つのテーマに絞って社外向けに発表し、社内でもそのテーマに沿ったリサーチや開発などを行っていました。
2014年初頭に発表した研究テーマの一つとして「AR / VR」があり、面白そうだからまずは作ってみようと考え、リサーチと開発に着手したのがキッカケです。
—-タッチ操作の必要性を感じたのはいつ頃ですか?
神谷氏:最初に従来機である「Milbox」を制作したのですが、この段階からすでに外部入力インターフェースを持つ「MilboxTouch」の構想は持っていました。
それというのも、VR分野のリサーチをはじめた2014年時点で、さまざまな研究機関を回る中で明治大学の宮下研究室の研究成果である「ExtensionSticker技術」に出会うことが出来ていたためです。
「MilboxTouch」のタッチ入力インターフェースはこの技術を応用したものであり、「MilboxTouch」は「Milbox」の開発とほぼ同時進行で行っていました。
—-開発メンバーは何名ぐらいですか?
神谷氏:フェーズ毎に人員数は増減するのですが、WHITEとしてはトータルで3名が動いていて、あとは研究室の方や外部パートナーに協力していただいていました。
3つの大きな課題
個人差
—-制作面で苦労された点を教えてください。
神谷氏:大きく3つあります。一つ目は、タッチ入力インターフェースであるシート部分の反応精度をいかに高めるかということです。
「ExtensionSticker技術」とは、簡単に言うと「静電容量式タッチパネルを拡張する」技術です。
ユーザーが、以下の写真の丸いシャトル部分をゴーグルの外側から触ると、シートに印刷されている1つずつのラインを伝ってスマートフォンに触れている右下部分に電気を伝え、スマートフォンを操作できる仕組みになっています。ただし、静電容量の伝わり方には「個人差」があるんです。
触ってみても反応する人、しない人がいるので、そこをクリアするのが一つ目の課題でした。
電源もいらないし、通信モジュールもいらないのが特徴です。
ただ、静電容量式タッチパネルを拡張しているので反応的には微弱になります。最初は2人に1人は動かないレベルでしたが、今では99%動く所まで調整しました。
断線
二つ目は「断線」問題です。元々、ExtensionSticker技術は立体に折り込んで使うことを想定して作られたものではないので、VRゴーグルに挟むと導電性のインクで印刷されたラインが回路になっているため断線してしまい操作できなくなってしまいます。
現状は一旦シールにラインを印刷してから段ボールに挟んでいますが、初期は段ボールへ直接印刷していたため、断線すると使えなくなり、耐久性の問題なども大変でした。断線の問題をインクやシールの素材でクリアしていくなど、材料面でかなり苦労しましたね。
—-このラインは印刷が可能なんですね。
神谷氏:はい。導電性インクという電気を通すインクを使用して印刷しているのですが、一般的な印刷物と同じなので大量生産が可能です。
シートは、1個2~300円程度で作ることができますが、ロット数が増えればもっと単価を安くすることもできます。
デバイス
—-コスト面で圧倒的なパフォーマンスが出せるのですね。最後に3つ目の苦労した点についても教えてください。
神谷氏:「端末」面ですね。ホバリング機能があるAndroidとないiPhone。端末によって対応する入力方式が違うので、この辺の調整にも苦労しました。
—-ありがとうございます。現在、「MilboxTouch」は国内外問わず話題になっていますが、一気に広がるようになったキッカケはありましたか?
神谷氏:一番話題になったのはSXSW(サウスバイサウスウエスト)のInteractive Innovation Awardsでファイナリストに選ばれてからですね。
そこからスタートアップのイベントに呼ばれ、海外のメディアにも取り上げられるようになり、さらに海外から協業の連絡が頻繁に来るようになりました。
日本でもワールドビジネスサテライトの「トレンドたまご」のコーナーで紹介してもらったりと露出が増えました。
狙い通りのコンテンツ選択
—-なるほど。それでは、次にコンテンツとして「パックマン」を選んだ理由を教えていただけますか?
神谷氏:“わかりやすさ”ですね。オリジナルゲームだとゲームの認知からスタートしないといけないので。
誰でもわかるゲームで、視点を変えるだけで全く違うゲームになるのは何だろうと考えた時、アナログゲームが向いているなと思い、株式会社バンダイナムコエンターテインメントの「カタログIPオープン化プロジェクト」に参加し、「パックマン」を選択しました。
【カタログIPオープン化プロジェクトとは】
「カタログIPオープン化プロジェクト」とは、バンダイ・ナムコ統合10周年記念企画として、 株式会社バンダイナムコエンターテインメントが実施している、 ネットワークエンターテインメントのさらなる事業領域の拡大を目 的とした取り組みです。クリエイター登録することで、 カタログIP(同社保有のオリジナルIP) 21タイトルを使った二次創作が、 デジタルコンテンツの領域において可能となります。参加には、 クリエイター登録が必要です。 作品の公開は日本国内のみとなります。
https://open.channel.or.jp/
また、「MilboxTouch」を面白い!と思ってくれる年代は恐らく30代~40代だと想定していたので、ゲームもターゲット世代に合わせようと思いました。
—-今後の展開について教えてください。
神谷氏:2016年5月~6月辺りにiOS、Android、Unity向けのSDKを配布し、自由にコンテンツを作れる環境を提供していく予定です。
また「MilboxTouch」のタッチ入力技術も他社にOEM提供していき、タッチ可能なVRゴーグルを広め、よりコンテンツが普及しやすい土壌を作っていきたいと考えています。
今後、個人や中小の企業がVRコンテンツの制作に着手することを想定し、未来を見据えて環境を作り上げていく神谷氏。
広がりを見せるかどうかは、まだわからないが環境が整えば市場への参入障壁が低くなり、多くのコンテンツが増えることは容易に想像できる。
特にスマートフォンは日本の誰もが持っているデバイスだからこそ、VRが普及するキッカケもスマートフォンにある可能性が高い。激しく動き始めるVR市場の中の起爆剤になるのか。今後の展開も注視していこうと思う。
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