VR/AR技術は徐々に普及しつつあるが、実際に利用経験があるという消費者は少ない。消費者向けでは一部のアーリーアダプターのみがこうした技術を利用しており、企業では資金に余裕のある大企業を中心に活用が試みられているという状況だ。
技術が実用レベルに達してから本格的に採用されるまでには時間差があるため、市場の形成が遅れるのは一般的である。AR技術においてもその傾向が現れているが、スマートフォンでARアプリを利用できるAppleのARKitやGoogleのARCoreが登場すれば流れが変わるかもしれない。
Ericsson VenturesのトップはAR市場の成熟にはあと5年かそれ以上の時間がかかるかもしれないと考えているが、どこかでARの採用が加速することも考えられる。
AR技術の今
ARKit
最近のAR界隈で注目を集めているプラットフォーム、ARKit。特別なデバイスを新しく購入しなくても、既存のiPhoneのOSをアップデートすることで利用できるようになるAppleのARプラットフォームだ。
その最大の強みは利用可能なデバイスの多さである。世界にはARKitに対応可能なiPhoneが3億8千万台あるとも言われており、アップデートが配信されれば文字通り世界一普及したARプラットフォームになると思われる。
ARCore
Appleから遅れて、Googleも新しいARプラットフォームARCoreを発表した。
ARKitのライバルと目されるARCoreはAndroidスマートフォンで利用できるが、対応するのは一部メーカーの高性能スマートフォンに限られる。特別なセンサーが必要で対応機種がほとんど存在しないGoogle Tangoよりは多くの機種で利用できるものの、それでも「1億台を目指す」段階だ。ARKitの3億8千万台には遠く及ばない。
関心の拡大
スマートグラスやポケモンGOのようなARアプリ、新しいプラットフォームなどによってARへの関心は高まっている。Googleトレンドを見ても、2013年頃から関心の高い状態が断続的に続いているようだ。
しかし、Ericsson VenturesのトップであるAlbert KimはAR技術の前には多くのハードルがあると考えている。彼はそのハードルを越えるためにかかる時間が不明瞭な点があるとしながらも、5年か10年、あるいは20年と長い目で見る必要があることを指摘している。
既にAR技術の利用は始まっているが、メジャーなものになるにはまだ時間がかかるという見方のようだ。
ARへの投資を躊躇する理由
現在のARハードウェアは、いくつもの問題点を抱えている。映像の解像度はあまり高くない上に応答速度もまだ物足りない。ディスプレイのサイズやヘッドセットの重さなども含めて、AR体験は快適なものになっていない。
AR業界の企業はいずれこれらの欠点を克服したARデバイスを開発するだろうとKimも同意しているが、問題はその時期が見えないことだ。いつリターンが得られるか分からない業界に投資するのはリスクが大きい。
ARデバイスはいつも魅力的なものとして宣伝されるが、実際にどういった製品になるかは分からない。2016年に大きな投資を集めながら製品のプロトタイプすら発表されていないMagic Leapはその代表的な例だ。
ConsumerLabの調査結果
EricssonのConsumerLabがまとめたレポートは、現時点で人々がVRやARをどう見ているかを知る助けとなるだろう。
調査の対象
オンラインで調査の対象となったのは、フランス、ドイツ、イタリア、日本、韓国、スペイン、イギリス、アメリカに住む15歳から69歳の消費者9,200人だ。対象は、VRについて知っている人に限られている。
対象となったユーザは、大きく3つに分けられる。
週に数回VRヘッドセットを使うようなアーリーアダプター(モバイルVRのみのユーザは含まない)、VRヘッドセットの使用を検討している非VRユーザ、VRヘッドセットの利用を検討もしていないラガードだ。
VRやARは日常を変える
アーリーアダプターに限れば、5人中3人までがVR/ARによって日常生活が変わると考えている。映画を見たり、SNSを使ったりといった日常の活動がVRを使ったものに変わると考えているのだ。
非VRユーザではこの割合は小さくなるが、それでもVRヘッドセットの利用を検討している非VRユーザの半数はVRが将来的に大きな影響を持つ可能性があると考えている。
アーリーアダプターの半数は、テレビ、街頭の巨大スクリーン、パソコン、スマートフォンなどの物理的なデバイスがVRによって置き換えられると思っている。採用を検討している非VRユーザでも3分の1は同様だ。
特に映画館に関しては、アーリーアダプターの55%、非VRユーザの50%がVRに変化すると考えている。
VRの影響は様々な業界に及ぶ
アーリーアダプターの10人中7人は、VRが放送、教育、仕事、交流、旅行、小売などの世界で主流になると考えている。
こうした変化は既に現れており、アーリーアダプターの37%は映像を見るときに2DではなくVRを使うようになったと答えている。同様に、30%は2Dゲームの代わりにVRゲームをするようになり、22%はソーシャルVRアプリを利用するようになっている。
映像視聴デバイスとしてのVRヘッドセット
調査結果によると、人々がVRヘッドセットの用途として最も使っている(また期待している)のは映像を視聴することのようだ。
アーリーアダプターの54%、非VRユーザでも32%はVRヘッドセットが映像コンテンツのための新しいスクリーンになると考えている。VRの最もポピュラーな用途が映像の視聴になると考えている割合も、それぞれ53%と33%である。
ただ、この目的のためにVRヘッドセットを使うことに関しては問題もある。一つは、デバイスの解像度が低いことだ。解像度の低さが制限になっていると答えた割合は33%と11%で、実際にVRデバイスを利用しているアーリーアダプターほど解像度に不満を抱いているようだ(より解像度へのこだわりが強い層がVRデバイスを購入していることも考えられるが)
もう一つは、家族や友人と一緒に映画が見られないことだ。この点については38%、28%が問題だと答えている。
教育での利用
教育は、VR/ARの利用が特に期待されている分野の一つだ。
VRをこの分野に利用できると考えている割合はアーリーアダプターで61%、非VRユーザの49%に上る。VRデバイスの使用を考えていないラガードでさえ、25%がVRを教育や社会的な目的のために利用できると考えているという。
アーリーアダプターの25%は、この先一年で教室に居ながらにして実践的な教育を受けることができるようになると考えている。
消費者向けのVRヘッドセットを購入しようとはしないラガードも、VR/ARそのものに否定的なわけではないようだ。教育と学習や仕事、あるいは音楽といった分野でVR/ARを利用することができると考えている。
VRの課題
期待も大きいVR/AR技術だが、問題も抱えている。
VRヘッドセットが大きくて複雑なセットアップを必要とすることや、ケーブルによって行動が制限されてしまうこともその一つだ。あるいは、VR酔いの問題もある。
デバイスのワイヤレス化や酔わないコンテンツ開発技術の普及、触覚フィードバックデバイスの開発などがこうした問題を解決してくれるだろう。
より高速な通信ができる5Gネットワークやディスプレイの高解像度化も、VR/AR体験の質を高めることに繋がる。
Kimが指摘しているように、VRやARは関連する技術の発展によっていずれ普及するはずだ。だが、その見通しが立たないことが問題となっている。
早期に高解像度化やデバイスの小型化が実現すれば、20年も待つことなく多くの消費者がヘッドセットを活用する時代が来るだろう。
参照元サイト名:Ericsson
URL:https://www.ericsson.com/en/networked-society/trends-and-insights/consumerlab/consumer-insights/reports/merged-reality#keyfindings
参照元サイト名:Next Reality
URL:https://next.reality.news/news/ericsson-ventures-head-believes-ar-market-might-take-five-years-more-mature-0179918/
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