
単純そうな虫も意外に複雑な行動を取る
VR技術を使えば、様々な状況を再現して動物の取る行動を確かめることができる。動物の生態を探る研究では便利なツールになりそうだ。
しかし、VRヘッドセットは人間のユーザが自分の意思でVR体験をすることを想定してデザインされている。優れた装置ではあるが、人間以外が使うのは難しい。
ある程度身体が大きくて大人しい動物ならば、カスタマイズしたVRヘッドセットを付けてもらうこともできるかもしれない。だが、実験に使われることが多いネズミのような小型動物、水中の生き物、あるいは虫のように小さすぎる生き物が使うVRヘッドセットを作るのは難しいだろう。
そこで、空間内を自由に移動することのできるVR装置が開発されている。
FreemoVR

ハエの実験に使われるFreemoVRシステム
FreemoVRは、VRヘッドセットを使うことなく実験の対象となる生き物にVR空間を見せるための設備だ。上の画像は、FreemoVRシステムを使ってハエの行動を観察しているところである。
生物の社会的な行動
自然状態では、生き物は自分の身体を動かして自由に世界とやり取りをしている。ここで言うやり取りの相手には、同じ種類の仲間だけでなく人間のような他の生き物も含まれている。
だが、研究室で自然状態を再現するのは難しい。生物を入れることのできるスペースには限りがあり、コミュニケーションを確認するために多数の固体を入手・管理するのが困難な生物もいるからだ。
VRを使ったシミュレーションは、こうした状況を改善してくれるように思われる。
しかし、生物を動けないようにしてVR映像を見せる従来の方法では自然な状態と異なる反応を見せるという研究結果もある。2013年にサイエンス誌で発表された研究によると、拘束された動物の脳では自由に動ける状態に比べて海馬の活動が抑制されているという。
ドイツにあるフライブルク大学の研究者Andrew Strawは、自然な状態での動物の行動を研究するために自由に動き回れる(Free Moving)VR装置を開発した。それがFreemoVRだ。
FreemoVRを使った実験

下にあるスクリーンの市松模様が小さいと高さがあるように錯覚する
三次元空間を移動する生物のトラッキング
この装置を使えば、VRヘッドセットを装着するには小さすぎる生物にも身体の自由を奪うことなくVR体験をさせることが可能だ。
生物が装置内の空間を移動すると取り付けられたカメラがその動きをトラッキングし、スクリーンに投影される映像が動く仕組みとなっている。トラッキングカメラは同時に生物の位置を記録する役割も持っているので、後から研究者が動きを確認することが可能だ。
Strawのチームは、ハエ、ゼブラフィッシュ、実験用マウスの三種類の生物にこの装置をテストしたという。
実験の結果
空を飛ぶ虫、水中を泳ぐ魚、そして地面を歩く動物の三種類だが、いずれもVR映像を現実と同様に認識しているようだ。
ハエを使った実験では、過去に行われたハエを固定してVR映像を見せる実験とは異なる結果が見られたという。どうやら、ハエの身体を固定して映像を見せた場合と、FreemoVRを使って映像を見せた場合では飛行中の頭の動かし方が違うらしい。
身体が自由なFreemoVRの方がより自然に近い状態だ。この動作を研究するときに従来の方法を用いれば、誤った研究結果を出してしまうかもしれない。
ゼブラフィッシュを使う実験では、ゼブラフィッシュが敵に襲われたときにどのように群れで行動するのかが調べられた。本当に敵となる魚を使えば実験対象が食べられてしまう可能性があるし、身体を固定してしまえば複数の固体からなる群れがどのように行動するかを調べることができない。
もっとも興味深いのはマウスを使った実験だろう。
マウスは通常高いところを嫌うが、それはFreemoVRを使ってVR映像を見せた場合でも同じだという。人間も崖やビルの屋上を歩くVR体験で足がすくんでしまうが、それはマウスも同じらしい。
VR映像を使って彼らが高いところにいるときのような不安を感じさせることができるなら、抗不安薬の効果や不安状態に晒されることによるストレスの影響を自然に近い状態で観察することができそうだ。
人間の場合も、VRヘッドセットを付けるだけのVRよりも実際に広い空間を歩くことのできるロケーションVRの方が没入感が高くなる。身体の小さな動物にとってFreemoVRでトラッキングできる空間は十分な広さなので、彼らにとってはロケーションVRのようなものだろう。
このシステムを使って観察することで、動物の群れでの行動や危険な状況に遭遇したときの行動に対する理解が深まるかもしれない。
参照元サイト名:Straw Lab
URL:https://strawlab.org/freemovr
参照元サイト名:The Scientist
URL:http://www.the-scientist.com/?articles.view/articleNo/50129/title/Virtual-Reality-for-Freely-Moving-Animals/
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