日本が抱える大きな問題のひとつが、「高齢化」だ。
人は誰でも年を取るので、日本に生きている以上、この問題が逃れることは誰もできない。
もちろん、「高齢化」についてはさまざまな対策が検討されている。
中にはVRを使ったものも存在。
この記事では、VRを使った「高齢化」対策の事例についてご紹介したい。
日本が抱える大きな問題、高齢化問題
日本の平均寿命は延びており、「長寿大国」と呼ばれるほどだ。
長生きできるのは喜ばしいこと…なのだが、半面、問題もはらんでいる。
たとえば年齢を重ねると、筋力が衰えたり、病にかかったりして介護を必要とすることも多いが、介護をする側もまた高齢者という「老々介護」の問題がそのひとつ。
また、家族など介護をする人間がいない場合、周りの誰にも気づかれずに亡くなってしまう「孤独死」という問題も急増している。
国全体のシステムに関わる大きな問題としては、年金制度の問題も。
現在、「高齢化」に加えて「少子化」が起きているため、年金制度は持続困難な状況へ向かっている。
日本の年金制度は、自分が払った年金が戻ってくるという方式ではなく、若者が支払っている年金を高齢者の支払いにあてるという方式。
このため、「高齢化」と「少子化」が同時進行すると支払いのための原資が足りなくなってしまうのだ。
これらの問題については、国全体では「一億総活躍社会」のキャッチフレーズの下、介護サービスの生産性向上や医療制度の改革などが検討されている。
また、民間企業ではロボットを使って人の代わりに介護をしたり、AI技術で介護サービスの生産性を向上したり…といったプロダクトが研究・開発されている。
大きな問題なので「これがあればすべて解決!」という銀の弾丸があるわけではなく、現実的にはいくつもの施策を組み合わせ少しずつ課題を解決していくしかないだろう。
そのいくつもの施策の中には、VRを使ったものも存在している。
孤食を食い止め地域も復興「バーチャン・リアリティ」
まずご紹介したいのが、兵庫県南あわじ市が制作したVR動画「バーチャン・リアリティ」だ。
タイトルを見ると誰もが「ダジャレかよ!」と突っ込みたくなるだろうが、動画の内容はふざけたものではない。
内容は、おばあちゃんや、高齢者の方々と一緒に食卓を囲み、にぎやかな食事が体感できるというもの。
年を取り友だちも少なくなり、遠出も難しい…という状況で孤独を感じやすい人に癒しを与える内容になっている。
人間は集団で暮らす生き物なので、「孤独」を強く感じると精神的に参ってしまいやすい。
こうした、孤独を癒すコンテンツというのは今後重要になっていくだろう。
また、本VRコンテンツは南あわじの特産品を盛り込んだ内容となっており、地域振興も担っている点が素晴らしい。
「高齢化」と「少子化」は、地域コミュニティの縮小という問題もはらんでいる。
このVRコンテンツによって地域振興から地域コミュニティの拡大へとつなげることができれば、VRコンテンツの供給側と受給側、両者にメリットがあるといえるのではないだろうか。
高齢者の感覚を自分事として体感!「R70i Age Suit」
「高齢化」については、すべての人に起こりうる問題なのだが、年齢が若いうちはなかなか自分事としてとらえるのが難しい。
問題の大きさは違うがたとえば、「歯が痛くならないとなかなか歯医者に行かない」というのに近い。
人間、自分で実感したことじゃないと、心からの理解というのはできないものだ。
しかし、VRであれば若い人間であっても高齢者の感覚を自分事として体験できる。
それを実現したのが「R70i Age Suit」というVRシステムだ。
ヘッドマウントディスプレイに加え、スーツを着用。
ヘッドマウントディスプレイは視力の衰えを表現し、ヘッドフォンはモノが聞こえにくくなる聴力の衰えを再現。
さらにスーツが着用者に機械的な抵抗を与えることで、高齢者の動きを再現する。
まだ高齢者と呼ばれる年齢でなくとも、一足早く高齢者の肉体を体験することで、自分が年を取るまでに何をしなければならないか実感できるだろう。
そして、「自分も含めて誰もが高齢者になるんだ」という意識が多くの人に形成されれば、高齢者への接し方も変わっていくのではないだろうか。
VRで認知症を早期発見!?「Rendever」
年を取ることで起きる大きな問題のひとつが「認知症」だ。
この「認知症」の早期発見に繋がるというのが、「Rendever」というサービス。
「Rendever」は、外出の難しい高齢者にVRで旅行気分を体験させてくれる。
さらにこのサービスでは、VRコンテンツ内のシステムでユーザーに行動の指示を行い、ユーザーの動作をモニタリング。
モニタリングの内容を診断に利用することで、「認知症」の早期発見に繋げるという仕組みも持っている。
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VRで高齢者の願いを叶える「おもいで眼鏡」
「おもいで眼鏡」は病気やその他の都合で自由に動けないという高齢者のために、VRで願いを叶えてあげるというサービス。
高齢者本人やその家族から希望をヒアリングし、希望に基づいたVR動画を作成する…という内容だ。
いわば、高齢者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)を改善するサービス。
自分が高齢者になった時、高齢者となって寝たきりになってしまうのは、老化現象上ある程度仕方ないにせよ、寝たきりになったからといって生活の質が低くても仕方がない…とまで思えるだろうか?
「おもいで眼鏡」があれば、たとえ寝たきりだったとしても、たとえVRの仮想的なものだったとしても、心残りを晴らすことができ、QOLをアップすることができるのが素晴らしい。
VR体験を改善し、QOLを向上
今回の記事で扱った事例をを改めて見直してみると、VRが担えるのはやはり、直接的に「高齢化」の対策となるようなものではなく、「高齢化」問題に悩む人の心をケアし、QOLを向上する…という領域だ。
ただ、直接的な対策ではないとはいえ、「高齢化」問題の中で、QOLの占める範囲は大きいはず。
なぜなら、高齢者当人にとってみれば、年を重ねてどんどん自由が減っていく中で、QOLが低下していくこともまた、「問題」だからだ。
それを考えると、今後はVRゲームやVR動画においても高齢者の生活を豊かなものにする…というものが出てきてもよさそうだ。
筆者が高齢者になるころには、高齢者向けVRゲームやVR動画で是非溢れていてほしい…。
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