AIを仕事に取り入れたいと考えていても、実際の現場では「どの製品が自社に合うのか」「実証実験から先へ、どう進めればよいのか」と迷うことがあります。生成AIやAIエージェントといった言葉が身近になる一方、製造、営業、会議運営、人材育成など、用途によって必要な仕組みや導入の進め方はさまざまです。画面越しの情報だけでなく、製品を実際に試し、開発企業へ直接相談できる場の重要性も高まっています。
そうした中、AIポータルメディア「AIsmiley」を運営する株式会社アイスマイリーは、2026年9月30日と10月1日の2日間、「AI博覧会 Fukuoka 2026」を博多国際展示場&カンファレンスセンターで開催しました。福岡では初開催となり、60社による約100製品以上のAIソリューションと、30講演以上のカンファレンスが集まりました。地域企業の実践例と最新技術を同じ会場で確かめられる機会となりました。
60社・約100製品が集まった福岡初開催の会場

会場には、AIエージェントや生成AIをはじめ、画像認識、需要予測、AI-OCR、AI人材育成、AIセキュリティなど、企業の幅広い課題に対応する製品やサービスが並びました。開場直後から多くの来場者が訪れ、展示ブースでは製品デモを体験したり、自社の業務課題を担当者へ相談したりする姿が見られました。

想定来場者数は3,000人です。オンライン上の製品情報だけでは分かりにくい操作感や使い方を確かめ、導入方法について直接質問できることも、展示会ならではの特徴です。来場者にとっては、複数のサービスを見比べながら、自社に必要な機能や導入後の運用を具体的に考える場となりました。
カンファレンス会場にも朝から参加者が集まりました。展示と講演の両方を通じてAI活用の現在地に触れられる、福岡初開催らしい活気のある幕開けとなりました。
「PoCで止まる」を越える製造現場の実践知

イベントは、アイスマイリー代表取締役の板羽晃司さんによるオープニングスピーチで始まりました。

最初のカンファレンスでは、デンソー九州 生産技術部 AI・DX推進課 課長の高咲龍樹さんが、「なぜ製造業AIはPoCで止まるのか?~現場実装の勘所~」をテーマに登壇しました。
PoCは、本格導入の前に技術や効果を検証する取り組みです。しかし、検証で一定の成果が得られても、実際の製造工程や量産運用まで結びつかないケースは少なくありません。講演では、外観検査AIや刃具異常検知AIの事例をもとに、導入時に直面する課題と、製造現場で継続して活用するためのポイントが紹介されました。
AIの精度だけを追い求めるのではなく、現場の工程にどのように組み込み、継続的な運用につなげるかという視点が欠かせません。技術を試す段階から、日々の業務で使い続ける段階へ進むための実践的なテーマとなりました。
AIエージェントで変わる業務と営業の進め方

続くセッションでは、ノベルワークス代表取締役の満村聡さんと、サイボウズ 営業本部 副本部長 パートナー統括の石井優さんが、kintoneとAIを組み合わせたエージェント型業務システムを解説しました。
人が画面を操作して一つずつ業務を進める従来型の仕組みから、AIエージェントが裏側で自律的に業務を進める仕組みへの変化が紹介されました。ベテラン社員が経験を通じて身につけてきた暗黙知を整理し、組織の資産として活用する考え方にも触れています。個人の経験を失わせず、次の世代やほかの担当者へ引き継ぐ方法としても関心を集めそうです。

さらに、インフォニックの桑山佳也さんとセールスフォース・ジャパンの田中夏美さんは、営業活動にAIエージェントを活用する事例を紹介しました。案件情報をつなぎ、機会損失や営業の属人化を防ぎながら、個人の経験だけに頼らない営業体制を目指す内容です。

午後には、九州電力による生成AIの約1万人規模への展開をはじめ、AI面接、県内企業へのAI活用支援、中小企業の導入・定着支援、データ統合からAI活用へ進む手順なども取り上げられました。大企業だけでなく、地域の中小企業がAIを取り入れる際の支援まで、規模や業種の異なる事例が共有されました。
翻訳から会議支援まで広がる現場の選択肢

展示エリアでは、人手不足や職場の多国籍化といった身近な課題に応える製品も紹介されました。ムクイルのブースに並んだのは、多言語のリアルタイム翻訳やマニュアル表示に対応するAIスマートグラスです。製造、物流、建設などの現場を想定し、外国人スタッフとのコミュニケーションや技術継承を支える活用方法を体験できました。
言葉の違いを補うだけでなく、作業中に必要な情報を目の前へ表示できることも特徴です。働く人同士の意思疎通や、経験者から新しいスタッフへの技術の受け渡しを支える道具として、AIを活用する姿が見えてきます。

トライフォースは、会議支援AIエージェント「AIファシリ」を福岡で初公開しました。会議の進行を案内しながら論点を整理し、結論、決定事項、次に取る行動まで文章にまとめる仕組みです。ブースでは実際の会議を想定したライブデモも行われ、「話すだけ」で終わらない会議運営を体験できる展示となりました。

このほか、生成AIを安全に運用するためのAIセキュリティ、需要予測、異常予兆検知、AI人材育成なども並びました。来場者にとっては、業務効率化から現場DXまで、異なる選択肢を一度に見比べられる機会となりました。
技術を「知る」から現場で「使い続ける」へ
今回の催しで印象に残るのは、目新しい技術を並べるだけでなく、製造現場でPoCの先へ進む方法や、営業の属人化を抑える仕組み、多言語で働く人を支える道具など、具体的な課題とAIが結び付けられていたことです。導入を考える企業にとって、機能の多さだけで製品を選ぶのではなく、自社の業務のどこに課題があり、誰がどのように使い続けるのかを考えることが大切だと分かります。
また、地域企業や支援機関の事例に触れられる場は、「自社にはまだ早い」と感じていた人が次の一歩を具体化するきっかけにもなりそうです。AIは導入そのものが目的ではありません。現場の声を確かめ、小さな検証を重ね、組織の知識として定着させること。その積み重ねが、技術を日々の仕事に生かす確かな道筋になるといえそうです。
