東京都内の大学研究者から研究成果・研究課題を踏まえた事業提案を募集し、研究者・大学と連携・協働することで事業を創出する「大学提案」という制度があることをご存知だろうか。
この大学提案は2025年4月4日〜5月30日まで対象者からの募集を実施中だ。
同時期に募集が開始されている、都政の喫緊の課題を解決するだけでなく、直接的な都政参画を目的とした「都民による事業提案制度(都民提案)」と合わせ、都民が行うインターネット投票の結果が事業化を左右するこの取り組みについて、東京都 財務局 主計部 政策評価担当課長の田中健太郎氏に話を伺った。
大学研究者が事業を提案する「大学提案」とは
「東京都内には100以上の大学が集まっており、東京はまさに日本を代表する“知”の集積地なんです。大学提案は、その集積されている知を、東京の喫緊の課題解決や、未来の東京の創出に資するような政策の立案に活かしていこうではないかということで、平成30年度に始まった仕組みです。」
田中課長は大学提案についてこう紹介した。
都内の大学に在籍している研究者から、研究の成果や課題を踏まえた提案を募集。
これをもとに、東京都と研究者・大学が連携して事業を企画・実施することによって共同で事業を創出し、その事業によってよりよい都政の実現を目指す取り組みが「大学提案」だ。
2025年(令和7年)度の対象分野は、
●子供・若者の笑顔と希望に満ちあふれる都市の実現
●誰もが個性を活かし、自分らしく活躍できる共生社会の実現
●世界の変革と成長を牽引する、金融・経済の活性化
●世界を刺激し心を潤す洗練された魅力にあふれる都市の実現
●世界のモデルとなる都市の脱炭素化
●世界一の安心・安全に向けた都市の強靭化
上記となっている。
とはいえ、東京都と共同で事業として展開するのならば、都内の企業から事業提案を募集する方が自然とも考えられる。
なぜ大学に所属する研究者から事業の提案を行っているのかを田中課長に伺うと、
「企業の声を吸い上げて都政に反映するという取り組みは、色々な業界団体の声を通じ、反映させるという仕組みをこれまで行ってきました。また、大学提案と一緒に実施している“都民による事業提案制度『都民提案』”では、企業からのエントリーも可能となっております。
なぜ大学の研究者の方々からも募集を行っているのかというと、大学の研究にも基礎研究や応用研究、さらにそれを社会に実装していくなど、様々なステージがあるかと思います。
研究者の方々が悩まれている“社会に実装するためにどうしたらいいのか?”というところを上手く東京都とすり合わせ、東京の課題解決に活かしていただく、ということが大学提案の目的となっております。」
と語った。
「直接自分が東京都の事業づくりに参画できるというのが一番良いところ」
大学提案は、採択された研究者・大学が行う研究調査や連携調整に要する経費の支援に単年度あたり最大3,000万円を上限に、東京都が研究者・大学と連携して行う連携事業には単年度あたり2億円を上限とし、最大3年間支援を行う。
募集期間を経て、応募された各提案は東京都の関係部署内で精査し、その後に有識者による審査を実施していく。
「本事業では、審査や投票を経て行政課題を解決できる事業であると判断されて選ばれると、最大3年間支援を行っているのですが、その中で東京都がいくらまで出せますよという金額を掲示していますので、当然その範囲内に収まっていないといけませんし、ちゃんとコストに見合った効果が出せるものかどうか、都政の方向性と一致しているかどうかを含め審査しております。」
そうして審査された事業提案は、7月末頃から約1ヶ月間掲示され、都民によるインターネット投票が実施される。
つまり、都民が自らの意思でどの事業を実施してほしいのかを意思表示することができるのだ。
「都民の方が事業を主体的に選ぶという機会は、実はあまり多くありません。この提案制度では、都民の方が直接事業について“これが良い”と選択して投票することで、その結果が予算に反映されることになります。直接自分が東京都の事業づくりに参画でき、それを実感できるというところが、この取り組みの一番良いところだと思います。」
過去の事例では、都民と協働した新たな道路管理を実現するため、スマートフォンアプリを活用し、都民が道路の損傷・不具合に気づいたその場で道路管理者へ情報伝達できるシステムが実現。
平成30年度に東京大学から提案・採択された本事例は、事業としては既に終了しているものの、引き続き建設局の事業として継続運営されており、現在は都立公園や都管理河川などの損傷も投稿することができるようになっている。
また、同じく平成30年度に、早稲田大学が提案し採択された「燃料電池ごみ収集車運用事業」では、騒音低減による作業環境や生活環境の向上、CO2排出の削減、また水素社会実現に向けた水素エネルギーの需要拡大を図るべく、燃料電池を使ったごみ収集車の新たな開発・試験運用を実施。
現在では、試験利用を希望する都内の5区市に無償貸与を行うなど、水素エネルギーの普及拡大に貢献する事業となっている。
これらも全て都民による投票が行われているが、まだまだ認知度は高いとは言えない。
田中課長は大学提案(+都民提案)のPR活動をさらに行っていき、より多くの提案の募集や都民による投票を募るべく、認知拡大に向けて活動していきたいと語る。
「昨年度から、大学提案で採択された大学の先生に我々がインタビューを行い、noteの記事などで発信しております。他にも東京都のHPやSNSなどで発信を強化していきますので、さらに多くの大学の研究者の方々からも提案していただき、その知見を都政に取り込んでいきたいですね。
都民の方にとっても、自身の声を直接行政に届け、都政に参画できる貴重な機会となっておりますので、ぜひインターネット投票へ参加していただきたいと思いますし、大学の研究者の方にも提案してみようかなと考えていただけたらと思います。」
大学の研究者にとっては、自身の知見を活用して東京都から支援してもらう絶好の機会となり、都民にとってはより良い暮らしを実現するだけでなく、その事業を自分の手で選ぶことができる画期的な取り組み。
令和7年度の大学提案・都民提案の募集期間は5月30日まで、都民によるインターネット投票は7月末頃より開始予定となっている。
URL:https://www.zaimu.metro.tokyo.lg.jp/zaisei/zaisei/teian/daigaku/8daigaku