近年、日本の企業は急速なデジタル変革(DX)や労働環境の変化に直面しています。その中で特に注目されているのが、人材育成の重要性です。株式会社タナベコンサルティンググループが実施した「2024年度 人材採用・育成・制度に関する企業アンケート調査」では、約6割の企業が「次世代のリーダーづくり・後継体制づくり」を人材育成上の課題と答えています。さらに、多くの幹部が直面している課題として「部下育成」が最多となっています。本記事では、これらの現状を分析し、企業が抱える具体的な課題とその解決策について考察します。
調査結果によると、57.6%の企業が人材育成上の課題として「次世代のリーダーづくり・後継体制づくり」を挙げています。これには、早急に後継者を育成しなければならないという企業の危機感が反映されています。リーダーは企業の方向性を決定し、その実行に移す重要な役割を担っています。このため、次世代のリーダーを早期に育成することは、企業の持続可能な成長に直結します。また、リーダーに求められるスキルセットも多様化しています。デジタル化が進む中、ビジネス環境の変化に対応できる柔軟性や、リーダーシップを発揮するためのコミュニケーション能力などが求められるようになっています。したがって、企業は育成プログラムを見直し、多様なスキルを持つ次世代のリーダー候補を長期的に育てる仕組みの構築が求められています。
調査では、特に不足している人材として「DX・システム系の人材」(38.4%)と「経営企画・戦略に携わる人材」(38.0%)が挙げられています。デジタル変革が進行する中で、データを活用した戦略的な意思決定能力を持つ人材が必要不可欠です。デジタル技術を理解し、ビジネスに応用できる能力を持つ人材は、今後の企業競争力を左右します。さらに、すでにデジタル技術を駆使している企業は、その成果を上げている一方で、そうでない企業は取り残される危険性をはらんでいます。このような状況を打開するためには、DX人材の迅速な育成が重要です。企業は、自社のニーズに応じた育成プログラムを整備し、必要なスキルを持つ人材を獲得するための投資を行うべきです。
調査において、幹部が抱える課題の中で最も多かったのは「部下育成」(43.4%)でした。現場の指導者が自身の業務をこなす余裕がなく、部下の育成に十分な時間を割けていない状況が浮き彫りになっています。部門の生産性や業務効率を向上させるためにも、部下育成が不可欠ですが、その実行が難しいというジレンマを多くの幹部が抱えているのです。次に多かったのが「生産性・業務効率の向上」(35.6%)です。企業は働き方の見直しを進める中で、業務が効率化できる手法を模索していますが、一部の業務が属人的になっているため、全体的な効率を損なう要因となっています。部下育成と業務改善の両立が求められる中、効果的な教育計画や評価制度との連動が急務です。
人的資本経営を実現するためには、企業は「人的投資の遂行」(43.5%)や「人的資本指標の明確化」(43.2%)に課題を感じています。いかにして企業の資本を人材に投資していくのか、そしてその成果を測定する指標を設定し、運用していくのかが問われています。この人的資本経営の実施にあたり、従業員一人ひとりの成長が企業全体の成長に直結するという視点を持つことが重要です。教育制度の評価や運用方法を再考し、次世代リーダーの確保と共に、全従業員の成長を促進する環境を整えることが、競争力強化の一つのカギとなります。
人材育成は企業の持続可能な成長に欠かせない要素です。特に次世代リーダーやDX人材の育成は、将来の競争力を確保するために急務です。幹部は部下育成に関する課題を解決するために、具体的な教育計画や業務効率を考慮した運用の見直しを図る必要があります。今後、人的資本経営を推進するための方針を整え、全従業員が成長できる環境を整えることで、企業の未来を切り開いていくことが期待されます。
執筆:熊谷仁樹