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小売とITの架け橋となり壁を超える日本IBM藤野敏広氏の変革の姿


日本オムニチャネル協会フェローである藤野敏広氏は、小売業界からコンサルティング業界への転身を経て、デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進の課題を語ります。藤野氏は、小売現場の経験がコンサルティングにおける強みとなり、情報システム部門と事業部門の橋渡しを担ってきた経歴があり、多くの企業が直面するDX推進の問題点を指摘。特に情報の偏りがDX推進に悪影響を与えるとし、社内外の交流を通じた多面的な情報収集を重視しています。さらに、DX成功の鍵はリーダーの人間力であり、周囲と協力し信頼関係を築くことが重要であると提言。リーダーの役割は、プロジェクトを夢として語り、困難を乗り越えるための基礎を築くことにあると強調しています。

日本オムニチャネル協会の活動をサポートする役割を担う「フェロー」。各方面の専門家が集まり様々な活動に取り組みます。今回はそんなフェローの1人で、日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)コンサルティング事業本部小売サービス事業部の藤野敏広氏に、DX推進について話を聞きました。小売業界とIT業界を経験した藤野氏だからこそ感じる課題とは。DX推進のためにリーダーはどうあるべきか。経験談とともに藤野氏の思いに迫ります。

現場を熟知するコンサルタント

鈴木:藤野さんのこれまでの経歴を教えてください。

藤野:大学卒業後、いなげやに入社しました。15年間はスーパーマーケットの現場に立ち、店長の経験を経て、その後、バイヤーや営業企画、情報システムと様々な部門を担当しました。

鈴木:営業企画部から情報システム部へ移るきっかけは何でしたか。

藤野:それまでの情報システム部は、現場や営業担当者とコミュニケーションを円滑に取れていませんでした。そこで、こうした体制を見直すべきと上層部が判断し、営業担当だった私に、プロジェクトのリーダーとして情報システム部に参加するよう声がかかりました。その後、約5年をかけて情報システム部と他部署との連携強化に努めてきました。

鈴木:現在の日本IBMにはどのような経緯で入社しましたか。

藤野:日本IBMは、グローバル・テクノロジー・カンパニーとして企業向けのコンサルティングやシステム導入・運用などを手掛けています。私の約28年間のいなげやでの経験から、小売業界や現場の業務を理解するコンサルタントが必要だということで声をかけていただき入社しました。

現在はデジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に関する相談やサービスとしてのソフトウェア(SaaS)の活用方法を顧客と共に考えるなど、小売業を中心としたコンサルティングを担当しています。

写真:日本IBM コンサルティング事業本部小売サービス事業部 藤野敏広氏

壁を超えることがDX推進を成功に導く

鈴木:小売の事業会社からコンサルティング会社へ転身し、感じることはありますか。

藤野:真逆の立場になったことで、多くの気づきがあります。小売の立場では「なぜベンダーはこう言うのだろう」と思っていたことも、ベンダーの立場になるとその意図を理解できるようになりました。今思うと、小売もベンダーも、目指すべきものは同じでも、自社の視点を優先する傾向があるのではと思います。

鈴木:小売業界での豊富な経験から、現場を理解しているからこその気づきですね。現在、一番課題に感じていることは何でしょうか?

藤野:事業会社がDXを推進する過程で、限られた情報をもとに行動してしまうことが大きな課題だと感じています。特に小売企業の情報システム部は、ベンダーからの情報に頼る傾向があり、企業や顧客に最適化したDXを推進できていないと感じます。あまりに多くの部門や業務最適のシステムが乱立している現状が最たる例です。日本は人口が減少しているため、ゼロからシステムを構築するための時間とリソースが不足しています。こうした状況を踏まえ、事業会社がシステムを効率的に構築できるようにすることが必要です。

鈴木:企業の中には、今なおスクラッチ開発に踏み切るケースが少なくありません。しかし、ゼロからシステムを開発するのは、各社が井戸を掘っているようなもの。その点、SaaSを活用すれば、蛇口をひねって必要な水だけ使えるようになります。どれだけコストや手間をかけずに水を調達するかを考えるなら、井戸掘りは無意味です。時間やリソースが限られる中、システムの開発手段を適正に見極めるべきです。

藤野:その通りです。しかし、事業会社は、何が適正なのか客観的に判断することが難しいと思います。ベンダーの情報を信じるあまり、他の選択肢を導き出せずにいます。ベストな選択肢を判断するには、異なる立場の人と多く交流し、様々な情報を取りに行くことが必要です。いろいろな意見や考えの中に、自社にとって最適解となるヒントが必ず隠れています。何気ない会話の中から自社に役立つ情報を取捨選択できるかどうかが、これからのシステム開発に求められるのです。

鈴木:小売業の場合、お客様が店舗に足を運ぶのが基本で、担当者の多くは外に出向きにくいのかもしれません。しかし、異なる立場の人と交流することで、互いを理解し視野を広げることができると思います。実際に現場を知りながら、数あるSaaSを選別できる人は本当に必要とされていますね。

藤野:おっしゃる通りです。だからこそ、情報システム部とベンダーの交流が重要だと思います。

加えて、情報システム部同士で情報交換することも重要です。各社の情報システム部が抱える悩みは共通しています。企業の垣根を超えて横のつながりを持つことで課題解決の手段も導き出せると思います。ぜひそのような場を日本オムニチャネル協会で提供していきたいですね。

鈴木:まさに、日本オムニチャネル協会は業界・企業・組織の様々な壁を超えた共創を目指す協会。様々な壁を超えて異なる立場の人と交流することで、日本全体がより良くなるのではないかと考えています。

藤野:そうですね。とにかく今は「業界や企業間の壁を超えたい」という思いが強いですね。鈴木:まさに体現している藤野さんだからこそ「壁を超える」重要性が伝わりますね。ぜひともに、日本オムニチャネル協会で実現していきましょう。

リーダーの人間力でDX推進の成功を左右する

鈴木:藤野さんは事業会社とベンダーの両方の立場でDX推進を経験していますが、DXの成功を左右するポイントは何かありますか?

藤野:DXを成功させる鍵は、リーダーの人間力だと思います。近年、生成AIなどの様々なテクノロジーが登場するとともに、プロジェクトが複雑化し、難易度も増しています。こうした状況を突破するのに欠かせないのが人間力です。人間力がなければ最新のテクノロジーを使いこなせないでしょう。リーダーとして周囲を巻き込む人間力がなければ、複雑な変革プロジェクトをゴールに導くことはできません。

鈴木:1人でできることは限られているので、周囲を巻き込んでプロジェクトを推進しなければいけない。リーダーの役割は先頭に立って夢を語り続けることでもあります。様々な局面を想定し、プロジェクトを前進させるための基礎がより求められるようになっていると感じます。

藤野:リーダーが知識や技術的なことをどれだけ語っても周囲はついてきません。「責任は私が取るから、失敗を恐れず挑戦してみて」など、部下を信頼したリーダーの言動が、周囲の信頼を得る鍵になります。

鈴木:DX推進プロジェクトを成功させるためには、増え続けるタスクの整理も必要です。何を優先し、何を切り捨てるべきかの見極めもリーダーには欠かせません。

藤野:タスクが増えるほど、「どう効率化しよう」と考える発想力が生まれます。AIにはこうした発想力を培えません。つまり、様々な問題が山積するプロジェクトを停滞させずに進めるには、発想力を持った人の意志が何より求められます。さらに、リーダーとして何かを切り捨てられる人は、大きな壁に直面してもパニックになったり逃げたりしないでしょう。どんな局面でも動じずに行動できる姿勢は、リーダーとしての人間力に繋がる部分ですね。

鈴木:困難な状況を乗り越えるためには、やはりリーダーの人間力が重要ですね。

藤野:リーダーとして信念を持って語ることで、周囲が少しずつ変わっていきます。そして、プロジェクトが成功した際の達成感は何物にも代えがたいものだと思います。

鈴木:それが仕事の醍醐味ですよね。プロジェクトを共に推進した仲間とは、たとえ仕事が変わってもつながりは切れないと思います。ぜひ、仕事の楽しさを次世代に引き継いでいきたいです。これからもよろしくお願いいたします。


日本IBM
https://www.ibm.com/jp-ja

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