消費者の購買行動を大きく変える契機となった「EC」。登場から現在に至るまで、どんな進化を遂げてきたのか。前回はAmazonやeBay、PayPalといった海外勢のサービス強化の歴史を振り返りました。第2回となる今回は、日本のECをリードしてきた主要企業のビジネスモデルやサービスの特徴をまとめます。【連載第2回:ECの進化とシステムの変遷】
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林雅也
株式会社ecbeing 代表取締役社長
日本オムニチャネル協会 専務理事
1997年、学生時代に株式会社ソフトクリエイトのパソコンショップで販売を行うとともに、インターネット通販の立ち上げに携わる。1999年にはECサイト構築パッケージ「ecbeing」の前身である「ec-shop」を開発し、事業を推進。2005年に大証ヘラクレス上場、2011年に東証一部上場へ寄与。2012年には株式会社ecbeingの代表取締役社長に就任。2018年、全農ECソリューションズ(株)取締役 JAタウンの運営およびふるさと納税支援事業を行う。2020年からは日本オムニチャネル協会の専務理事を務め、ECサイト構築パッケージecbeingの導入サイトは1600サイトを超える。
モール形式を全面に打ち出す楽天市場
楽天は1997年に創業者の三木谷浩史氏が立ち上げました。楽天市場では、個人や中小企業が簡単にECを開設し、商品を販売することができる仕組みを提供しました。楽天がユニークなのはモール形式を採用し、多数の店舗が1つのECサイト上で商品を販売するという点です。これにより、消費者は多様な商品を一箇所で比較し、購入することが可能となりました。また、楽天はポイントシステムを導入し、ユーザーが商品を購入するたびにポイントを獲得できるようにし、ポイントを使った様々なキャンペーンを展開することで、固定客を掴んでいきます。当時はいくつかのモールプラットフォームがサービスを開始しましたが、集客の問題や出店企業が集まらないなど、ビジネスとして成立するまでに至りませんでした。また、ECを始める仕組みの構築も困難で、販売店への手厚い支援とモールによる一定の集客が見込めることから、中小企業にとっては楽天出店がECを始める第一の選択肢となっていました。
ユーザー間取引の先駆けとなったヤフーオークション
ヤフーオークションは1999年にサービスを開始しました。ヤフーオークションにより、個人間でオークションが可能となりました。Yahoo! JAPANというブランド力を背景に、ユーザーは安心して取引を行うことができました。また、出品者と落札者が互いに評価するシステムを導入することで、取引の透明性と信頼性を確保しました。
価格を容易に比較できる価格コム
かつて、検索システムが発達していなかった時代では、お買い得商品を見つけるのは容易ではありませんでした。そんな中で登場したのが価格比較サイト「価格コム」です。このサイトでは、複数の企業が商品とその販売価格を登録すると、その情報がランキング形式で表示され、多くのネットユーザーを惹きつけました。当初はパソコンやパソコン周辺機器のカテゴリから始まりましたが、後に家電など他のカテゴリに展開。家電カテゴリがECで拡大するきっかけとなりました。私も当時、自社で運営しているECの商品を、価格コムに登録して販売していました。価格競争が激化したものの、売上を大きく伸ばすことができました。
Eコマースの黎明期の意義
アメリカ黎明期のEコマースは、1990年代後半から2000年代初頭にかけてのインターネットバブルと密接に関連しています。この時期、多くのスタートアップ企業が次々と設立され、ベンチャーキャピタルからの資金調達が活発に行われました。しかし、収益性の確保が難しい企業も多く、バブル崩壊後には多くの企業が倒産や事業縮小を余儀なくされました。この中で生き残ったAmazonやeBayなどの企業は、堅実なビジネスモデルと顧客基盤を持ち、バブル崩壊後も成長を続けました。これに対し日本では、アメリカのビジネスモデルを追いかけたり、インターネットと相性のいい業界において、ネットを活用する試みが成果を収め始めたりしていきます。インターネットの通信速度が28.8kで、通信コストも高かった当時、ユーザーはNTTの夜23時からの「テレホーダイ」時間にアクセスするなど、さまざまな工夫が必要でした。パソコンにインターネットを設定するのも難しく、さらにインターネットでクレジットカードを使うことへの抵抗感が強かったため、代引きや銀行振込がよく利用されていました。このような環境下ではインターネットの利用者はヘビーユーザーに限られ、EC販売はごく一部のカテゴリに限定されていました。
一方、ショッピングモール、決済サービス、広告サービス、アフィリエイトなど、後に上場していくサービスがこの時期に産声を上げました。当時はビジネスチャンスが多々あり、数多くの業種業態で新たなサービスが生み出されました。そして、激しい競争を勝ち抜いたものが生き延び、大きく成長しました。そのサービス競争の様は、ドックイヤーと言われました。犬の1年は人間の7年に相当することから、IT技術の進化も犬の年齢のように7倍速く進むことから、名付けられました。