小売業のビジネスに不可欠となりつつあるオムニチャネル戦略。新型コロナウイルス感染症のまん延以降、店舗のデジタル化と並行してオムニチャネル化に舵を切る小売事業者が増えつつあります。では、オムニチャネル戦略を成功させるためには何が必要か。答えの1つが「データ」です。小売業の「武器」ともいえるデータを駆使しなければオムニチャネル戦略は成功しません。ここではオムニチャネル戦略成功の鍵を握る「データ」の役割について考えます。【連載第9回:オムニチャネル~ビジネスを共創する時代の基本思考】
何をどこで買ったか、ではなく、誰がなぜ買ったかが大事
小売事業者がデータを使って見るべきは、単なる購買履歴ではありません。誰がなぜ、その商品を購入したのかといった動機や理由を考察することが大切です。これは一般的なビジネスでも同じです。課題解決や施策の効果検証のためにデータを活用するのと根本的には同じ考え方です。
小売の場合、「行動データ」や「販売データ」などを容易に収集することが可能です。しかし、何より大切なのは「購買データ」です。購買データによって顧客のセグメントを考察できるようにし、その次に行動データを分析するというプロセスを構築すべきです。
これまでのPOSデータ分析では、「店舗コード」や「商品コード」を中心に捉えてきたため、顧客そのもの、すなわち「顧客ID」を意識することはありませんでした。しかし、顧客の購買行動を個人単位で把握することができるID-POSが普及したことで、顧客データを収集することが現実的になりました。
しかし顧客データを収集するためには、顧客にIDデータを来店者に提示してもらわなければなりません。具体的には、会員カードやアプリのバーコードの提示を求めることになります。しかし、レジでキャッシャーが声をかけると、顧客から不満の声が上がることもしばしばです。
もし、この壁を乗り越えても、社内が依然として「店舗・商品」に焦点を当てたデータ活用に固執しているケースも散見されます。こうした場合、顧客視点の分析を十分に実施しないまま、データを持つだけの状況が続いてしまいます。
では、顧客視点の分析を実施するためには何が必要か。以下の質問を通じて社内の思考を促します。
「既存店舗の売上が落ちている時にはどうするのですか?」
「その店舗で売上が減少している商品部門について、部門・カテゴリ・グループ別に分析します。」
「では、その商品群が明らかになった際に、次に何をしますか?」
「品ぞろえや棚内の配置を見直します。」
ここで重要なのは、「その見直しの根拠は何ですか? 買わなくなったお客様が見えていないのに、見直しは難しくありませんか?」という問いかけです。この問を通じて、消費者の行動データを元に品揃えの改善や仮説を立てる重要性を再認識させることができます。
既存の顧客データに基づいて、誰がどの商品を購入しているか、あるいは購入を止めたかが明らかになります。これにより、新たに惹きつけるべき顧客像や、来店頻度の少ない顧客へのアプローチ方法を検討できるようになります。さらに、こうしたデータに基づく分析をもとに、行動データを取り入れて顧客をグループ化し、多様な仮説を立てることで、さらなる深い分析を行うことが可能になるのです。

逸見光次郎
CaTラボ 代表取締役
日本オムニチャネル協会 理事
1994年に三省堂書店に入社し、神田本店や成田空港店などで勤務。1999年にソフトバンクに移り、イーショッピングブックスの立ち上げ(現:セブンネットショッピング)。2006年にはアマゾンジャパンに入社し、ブックスのマーチャンダイザーを務める。2007年にイオンに入社し、ネットスーパー事業の立ち上げ後、デジタルビジネス事業戦略担当となる。2011年、キタムラに入社し、執行役員EC事業部長を経て、2017年にオムニチャネルコンサルタントとして独立。現在はプリズマティクスアドバイザーやデジタルシフトウェーブのスペシャリストパートナーなどを務める。