社内対立を解消してどのように「共創」を築くか。前回までは、業務の流れの中で起こり得る社内対立を例に、共創のあるべき姿を考えました。今回は、オムニチャネル推進の核となるデータ活用について解説します。データを効果的に活用するにはどんな体制が望まれるのか。そもそも活用するためには何から始めるべきか。筆者である私がなぜ、データを重要と考えるようになったのかを振り返ります。 【連載第7回:オムニチャネル~ビジネスを共創する時代の基本思考】
データは友だち!データは楽しい!
「データ」と聞くだけで「自分には関係ない」「専門の担当者に任せればよい」と感じる人は少なくありません。とりわけITやシステム、数字を苦手する人の中には、こう考える人も多いでしょう。
実は、かつての私もその1人でした。数字がずらりと並んでいるだけで緊張してドキドキしてしまう、なんだか疲れてしまう…。以前の私はそんな感じで、できるだけデータに触れないようにしていたのです。数字といえば、売上、原価、粗利、経費くらい。その他の数字は、極力見ないようにしていました。
そんな私の意識が大きく変わったのは、インターネット書店の立ち上げに関わったことがきっかけです。それまで店頭で目にしていたお客様の行動が、データとして「可視化」されるようになったのです。
実店舗:店内を回遊して、複数の本を手に取るお客様の行動を目で見る
ネット書店:本1点ごとの商品詳細ページをクリックして閲覧するログデータ
この違いは、実店舗しか経験のなかった私にとって衝撃的でした。しかも、ログインしているお客様であれば、「どの本を何回手に取ったか」まで分かるのです。書店の店員として店内を見ているときは、「どの本が人気なのか」「売れる前にどれだけ手に取られていたのか」「立ち読みされたかどうか」がとても気になるのですが、どれだけ店内を見回しても、ここまで正確な情報を把握できませんでした。
ログインしていなくても、「セッション数」と呼ばれる、ある本のクリック・閲覧数が月次・年次で可視化されるようになりました。これは、約10年にわたって店頭に立っていた私にとって、「データって面白いかも?」と思うきっかけになりました。
そこでまずは、「売れた本の冊数」と「手に取られた回数」を出版社別にまとめ、月例会で共有することから始めました。すると、在庫切れでありながら「手に取られた回数が多い本」の情報に、出版社の方々が非常に強い関心を示してくれたのです。増刷・重版の判断において、数字という“定量的な根拠”があることは大きな意味を持ったのです。
さらに「売れた冊数」を都道府県別に集計して添えると、「ああ、今月はこの地方紙にサンヤツ広告を出したからだ!」「なぜこの地域でこれだけ売れているのか、調べてみよう」といった具合に、決して多くはないデータでも、しっかり活用していただけるようになったのです。
やがて、エクセルでVLOOKUP関数を使って集計するにはデータ量が多すぎるようになり、マイクロソフトのデータベースソフトACCESSを使い始めました。それでも1出版社分のデータを出すのに数時間かかるため、社内のエンジニアに勧められて、SQLというデータベース言語を学ぶことに。以降は、思いついた仮説を自らの手で実データから検証する、という作業を日常的に行うようになりました。この頃にはもう、データは私にとって、いろいろなことを教えてくれる“友だち”のような存在になっていたのです。

逸見光次郎
CaTラボ 代表取締役
日本オムニチャネル協会 理事
1994年に三省堂書店に入社し、神田本店や成田空港店などで勤務。1999年にソフトバンクに移り、イーショッピングブックスの立ち上げ(現:セブンネットショッピング)。2006年にはアマゾンジャパンに入社し、ブックスのマーチャンダイザーを務める。2007年にイオンに入社し、ネットスーパー事業の立ち上げ後、デジタルビジネス事業戦略担当となる。2011年、キタムラに入社し、執行役員EC事業部長を経て、2017年にオムニチャネルコンサルタントとして独立。現在はプリズマティクスアドバイザーやデジタルシフトウェーブのスペシャリストパートナーなどを務める。