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【アシックスV字回復の真相(後編)】顧客に向き合う原点回帰が急成長を後押し 


アシックスは、代表取締役社長COOの富永満之氏が主導したデジタルトランスフォーメーション(DX)が成功し、企業の業績と競争力を劇的に改善しました。「OneASICS」というメンバーシッププログラムを通じて、顧客との直接的な接点を増やし、製品と関連サービスを提供することで、ユーザーエクスペリエンスを向上させました。また、グローバルな基幹システムの統合により、在庫管理や生産計画の最適化を実現し、利益率を向上させました。これにより、アシックスは3期連続で最高益を更新する見込みです。富永氏のリーダーシップの下、DXとサプライチェーンの改革が業績を押し上げており、今後もその展開が注目されています。

世界のスポーツ市場で確固たる地位を占めるアシックス。2021年にはV字回復を遂げ、3期連続で最高益を更新する見込みです。このV字回復からの急成長は、代表取締役社長COOである富永満之氏のDX推進による変革が実を結んだことが大きな要因です。第2弾では、DX推進の施策内容や生み出した新たな価値、アシックスのDXを牽引した富永氏の姿について、日本オムニチャネル協会専務理事の林雅也氏と理事の逸見光次郎氏が切り込みます。

顧客接点の創出と日々の体験の提供

:「OneASICS」というメンバーシッププログラムを実施しようと思われたのはなぜですか?

富永:これまではメーカーゆえにお客様との接点があまりなかったという背景があります。以前はスポーツ店などへの卸売りがビジネスの中心であったため、製品を卸すところまでの反応を得ることが主で、実際に製品を使うお客様の声を聞く機会があまりありませんでした。これが製品の競争力低下を招き、業績を悪化させたのだと考えています。そこでDTC中心のビジネスに変革し、「OneASICS」を通してお客様との接点を重視する戦略を講じることにしたのです。

逸見:実際に「OneASICS」でどのようなサービスを提供していますか?

富永:製品だけでなく、製品を使用する日々の体験、サービスも提供しています。当社はフィットネストラッキングアプリ「ASICS Runkeeper」を開発するFitnessKeeper社、や「Race Roster」などのレース登録サイトを買収し、お客様とのタッチポイントを増やしてきました。これらサービスも「OneASICS」と連携しています。アプリやグローバルでNo.1のシェアをしめるレース登録サイト群と「OneASICS」を繋ぐことで、どんな靴を履いて、日々どれくらい走っているか理解し、お客様に製品を使った体験も含めて提案できるようにしたのです。

例えば、マラソンなどのレースに登録したお客様向けに、ランナー同士が集まるランニングイベントを実施したり、最適なシューズやトレーニング方法を提案したりしています。大会当日にはマッサージのサービスや事前予約によってTシャツに名前を入れられるサービスを、大会後には当日の様子を映像化したビデオを送付するサービスなども用意。私たちはこれを「ランニングエコシステム」と呼んでいます。製品を買って終わりではなく、ランニングに関わる一連の流れをアシックスがサポートすることでランナーがさまざまな体験を得られることを全面に打ち出しています。以前は、マラソン大会を起点としたお客様との接点が約3日間でしたが、こうしたエコシステムの構築により、約6か月間まで広がりました。

逸見:マラソン大会に参加するまでの過程が楽しくなれば、顧客体験は単なる製品購入とは明らかに変わりますね。メーカーがユーザーとのファンコミュニティで深くつながる事例は極めて少ないと思います。アプリを通じて日常のランニングシーンとつながる事が出来るのは驚きです。

写真:逸見 光次郎

グローバルの基幹統合からサプライチェーンの最適化

:バックシステムでは、グローバルの基幹システムを統合。在庫管理や生産計画を最適化するサプライチェーン構築に取り組まれています。グローバルで展開する中、データを統合するのは相当難しかったのではないでしょうか。

富永:その通りです。基幹システムの統合プロジェクトはかなり大変でしたね。とりわけ国ごとに個人データ保護に関する法律や商慣習などが異なるため、何度も現地に足を運び、現地担当者と衝突しながら進めました。統合までに約3年かかりました。

富永:ここまで苦労してでもやり遂げたかったのは、「どこで売れたのか」「いくらで売れた」「どこに在庫があるのか」などのデータを見える化したかったからです。これらのデータは売上を左右する重要な指標です。グローバルでデータを一元化すれば、海外企業にも負けない競争力を得られると考えました。そこで当社では、需要予測や生産計画、在庫管理などの業務を支援するサプライチェーンシステムをすべて見直しました。フロントシステムを見直すだけではなく、基幹システムをグローバルで統一するというプロジェクト推進も奏功し、利益率は14.7%と業界トップまで成長したと思います。

逸見:強靭なバックオフィスが高利益体質を支えているのですね。業績を見ると、利益率も明らかに向上しています。

富永:実際にグローバルデータを統合したことでビジネスが可視化されました。アシックス本社が直接統一されたデータを取得できるようになったことで、生産面では精度の高いプランニングやサプライヤー調整、生産ライン確保が可能になりました。各地域の販売を担当する海外事業会社との連携も、同じデータを見ることによって強固なものになりました。

:基幹システムの統合により、データ活用を前提とした業務改革を進められるようになったのが大きいですね。他社も参考にすべき事例だと考えます。そして何より、富永さんが言葉だけでなく、自ら困難を乗り越えてシステム統合を推進している姿に感銘を受けました。

まさに次世代に求められる情報システムが果たす姿ではないでしょうか。富永さんのようにITの知見を経営に活かす企業が増えれば、グローバルで勝ち抜く競争力を得られるのではないか。富永さんの姿を見て、こう感じずにはいられません。今後のアシックスの展開に目が離せません。本日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。

富永:ありがとうございました。


株式会社アシックス
https://corp.asics.com/jp

一般社団法人日本オムニチャネル協会
https://omniassociation.com/


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