日本オムニチャネル協会は2025年1月22日、定例のITサービスセミナーを開催しました。今回のテーマは「人材不足と競争をチャンスに変える!~DXによる従業員支援~」。従業員の業務や働き方を支援するツールや技術の動向を解説しました。
日本企業共通の課題ともいえる「人材不足」。働き手となる人口減少に伴い、次代を担う人材の確保に苦心する企業が増えています。一方、従業員に目を向けると、働きやすい環境を整備しなければ離職を招くといったように、従業員体験を向上させる施策の重要性が増しつつあります。
では、こうした状況をどのように打開し、自社の継続的な成長を導くか。今回のセミナーでは従業員の働き方や満足度にフォーカス。従業員の業務や働き方を支援するツールを紹介し、従業員体験を高める方策について議論しました。
ゲストとして、カンリー HR事業部カンリー福利厚生チーム 事業責任者の林佑樹氏と、クロスビット 事業統括責任者/CROの福山耕介氏(オンラインで参加)、ecbeing RESOMO推進室 室長代理の杉田慶祥氏の3名が登壇。モデレータ―の日本オムニチャネル協会 専務理事 林雅也氏とともに、人材不足の状況をチャンスに変える施策について考えました。
セミナーではまず、日本オムニチャネル協会 専務理事の林雅也氏が、現在の人材不足の背景や店舗を取り巻く厳しい環境を指摘しました。林氏は「人手不足が進行する一方で、顧客体験を高めるために新しいサービスを導入すると現場スタッフが疲弊しやすい。そこで『従業員体験』を同時に向上させることが大切です」と述べ、人材確保が困難な時代こそ従業員を支援する仕組みが欠かせないと強調しました。さらに小売・外食・サービスなどの業種では2030年に向けて需要と供給のギャップがいっそう拡大するとされているため、採用と定着をセットで考え、スタッフが働きやすい環境と評価制度を整えて離職率を下げる戦略が重要だとしました。
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続いて、カンリー HR事業部カンリー福利厚生チーム 事業責任者の林佑樹氏が、同社が提供する「カンリー福利厚生」について紹介しました。林氏は「福利厚生は単なるコストではなく、自社割引をはじめ工夫しだいで売上にも貢献できる可能性があります」と強調し、具体的な事例としてタリーズコーヒージャパンでの活用事例を挙げました。
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これまでは社員証提示による割引を紙ベースで運用していたため、パートやアルバイトが活用しにくく利用率が伸び悩んでいたそうですが、アプリによる従業員証明に切り替えたところ、半年で2万回を超える利用が発生したとのことです。林氏は「特に年収の壁による働き控えが問題化する中で、時給以外で還元していく仕組みが求められています。そこを補完しながら自社の売上アップにもつなげられるという点が魅力です」と語り、福利厚生と売上貢献を両立する新しい手法として注目を集めていると説明しました。
クロスビット 事業統括責任者/CROの福山耕介氏は、シフト管理のDX化による人材不足対策を提示しました。福山氏は「今でも紙やエクセルでシフトを作成している店舗が圧倒的多数ですが、これは店舗スタッフも本部もお互いに無駄が多く、データも活用できません」と述べ、同社の『らくしふ』を活用すればスタッフはLINEで簡単にシフト希望を出せ、本部側ではリアルタイムに売上計画や人件費を比較しながら配置を最適化できると指摘しました。大手外食チェーンで実際に導入したところ、月に数百万円単位の人件費削減や離職率の改善が確認できたそうです。福山氏は「シフトにまつわる作業をDX化すると、店長やエリアマネージャーが売上管理やスタッフ育成に時間を充てられます。これは企業にも働き手にも大きなメリットです」と語り、紙ベースのシフト管理からの移行を急ぐ必要性を強調しました。
最後に、ecbeing RESOMO推進室 室長代理の杉田慶祥氏が、予約管理システム「RESOMO」の機能と導入事例を紹介しました。杉田氏は「顧客体験を高めるための来店予約やイベント予約を導入しても、裏側の運用が煩雑になるとスタッフが疲弊してしまいます。そこで店舗スタッフの業務負荷を減らす工夫が大事です」と述べました。
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具体例としてコスメ業界では、事前に試したい色や種類を入力してもらえばスタッフがスムーズに商品を用意でき、当日の待ち時間を大幅に減らせるとのことです。さらに羽田空港のオンラインショップでは、事前決済と店舗受け取りの予約フローを整備し、店舗側のレジ混雑と顧客のストレスを同時に解消しているケースが紹介されました。杉田氏は「ECサイトと予約管理を統合すれば、顧客履歴と店舗接客がつながり、スタッフが販売機会を逃さずに済むだけでなく、接客の質も上がりやすくなります」と語り、オンラインとオフラインの連携による好循環づくりを提案しました。
セミナーでは、顧客体験を高めるサービスを導入する際に、それを運用するスタッフ側の業務負荷が増えすぎないようにすることがポイントだと繰り返し指摘されました。一方、紙やエクセルのままでは今後の人材不足を乗り切れない可能性が高いため、積極的にデジタルを取り入れながら「従業員が働きやすい」「やりがいを感じられる」環境を整えることが不可欠だという共通認識が示されています。賃金や労働条件の改善だけでなく、福利厚生の拡充やシフト管理の自動化、来店予約とECサイトの連携など、多様なDXソリューションを活用すれば、人材不足の悩みを解消しつつ、顧客満足度と売上の向上も同時に期待できるのではないでしょうか。
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