日本オムニチャネル協会は2024年9月18日、定例のITサービスセミナーを開催しました。今回のテーマは「顧客体験で差をつける!~顧客ロイヤルティ向上ソリューションセミナー~」。顧客体験を向上する施策の重要性が高まる中、施策を支援するソリューションのトレンドと、ソリューションを使って効果を上げた活用事例を紹介しました。
バイク専門店パインバレーの代表取締役社長 矢嶋正明氏、フィードフォース執行役員 兼 Omni Hubチームマネージャーの井形岳史氏、ReviCo代表取締役社長 高橋直樹氏、そしてメグリ代表取締役の田代健太郎氏の4名がゲストとして登壇し、各企業の顧客ロイヤリティを高めるための具体的な施策や成功例が共有されました。
顧客体験とデジタル活用の融合: パインバレーの取り組み
セミナーの冒頭を飾ったのは、パインバレーの矢嶋正明氏です。矢嶋は、ハーレーダビッドソンに特化したカスタムバイク事業とEC(電子商取引)を展開するパインバレーを率いる立場から、顧客体験の重要性を語りました。同社は、バイクのカスタムや整備をリアルな店舗で行う一方で、全国向けにECを通じたカスタムパーツの販売も行っています。
特に注目すべき点は、矢嶋氏がファッションブランド「ビームス」での経験を活かし、デジタルとリアルの融合を図っている点です。矢嶋氏は、中小企業であってもデジタル化が顧客体験の向上に直結することを強調しました。たとえば、ハーレーダビッドソンの情報や商品に特化したECサイトを活用することで、リアルの店舗に訪れることが難しい顧客にもアプローチできると述べています。
また、顧客データの一元化が今後の課題であり、これを通じて顧客にパーソナライズされた情報を提供することが可能になると説明しました。顧客がリアル店舗での体験を通じてブランドに対する信頼を深め、ECを活用することでその関係性が維持・強化されるような仕組みづくりが重要だとしています。特にハーレーダビッドソンのようにコアなファン層が存在するブランドでは、このようなロイヤリティを高める施策が極めて有効であると矢嶋氏は述べました。
顧客情報の統合とロイヤリティ向上: フィードフォースの事例
次に登壇したフィードフォースの井形岳史氏は、顧客ロイヤリティを高めるためには、まず顧客情報を統合することが重要であると強調しました。井形氏の担当するOmni Hubは、顧客データの統合をサポートするソリューションであり、複数のチャネルで顧客がどのように行動しているかを一元的に把握するための仕組みを提供しています。
井形氏は、顧客の購買行動だけでなく、例えばウェブサイトでの行動やレビューの投稿などの「行動ベースのデータ」も重要な指標であると述べています。これにより、顧客がどのような商品やサービスに関心を持っているかを把握し、パーソナライズされた体験を提供することができるからです。
たとえば、ある顧客が店舗で商品を見て、その後オンラインで購入する場合、その顧客がどのチャネルでどのような接点を持っているかを正確に把握し、それに基づいて適切なタイミングで関連する情報を提供することができれば、顧客体験が格段に向上します。こうした統合的なデータ活用は、単なるマーケティング手法ではなく、企業の競争優位を生む重要な戦略であると井形氏は述べました。
特に中小企業においては、顧客情報の統合がまだ十分に進んでいないケースが多いことから、統合ソリューションの導入は今後ますます重要になるだろうと指摘しています。
顧客体験を高めるためのレビュー活用: ReviCoのアプローチ
ReviCoの高橋直樹氏は、顧客レビューを活用して顧客体験を向上させる手法について紹介しました。同社は、口コミやレビューを効果的に集め、それを顧客体験にフィードバックすることで、商品やサービスの改善につなげるためのソリューションを提供しています。
高橋氏は、レビューは単なるフィードバックではなく、顧客との双方向コミュニケーションを実現する重要なツールであると述べました。たとえば、顧客が書いたレビューを丁寧に分析し、改善点を見出すことで、顧客満足度の向上だけでなく、新たな顧客獲得にもつながると指摘しています。特に、ポジティブなレビューだけでなく、ネガティブなレビューにもしっかりと対応することで、顧客からの信頼を得ることができると述べました。
また、レビューを活用することで、顧客の期待値を適切に管理することが可能になります。例えば、商品の色やサイズが思っていたものと違ったというケースでは、レビューがそのギャップを埋める役割を果たすと高橋氏は述べています。顧客が実際に購入した後の体験を詳細に共有することで、次に購入を検討している顧客に対して、より正確な情報を提供することができるため、購買体験の質が向上します。
また、レビューを蓄積してデータとして活用することで、商品開発やサービス改善にも役立てることができ、企業の成長にもつながると説明しました。
顧客ロイヤリティ向上のためのアプリ戦略: メグリの事例
最後に登壇したメグリの田代健太郎氏は、顧客ロイヤリティを高め、ファンを生み出すためのアプリ戦略について紹介しました。彼の企業メグリは、顧客体験をデジタルで支えるためのアプリ開発を手掛けており、多くの企業に対して顧客体験の強化をサポートしています。
特に、田代氏はアプリを通じて顧客との関係を深めるためには、単に便利な機能を提供するだけでなく、ブランドの価値観やメッセージを一貫して伝えることが重要であると述べました。田代氏が紹介したパタゴニアやゴールドウィンの事例では、ブランドのミッションや価値観がアプリの設計にしっかりと反映されており、顧客がそのブランドとの深い絆を感じられるような体験を提供しています。
たとえば、パタゴニアのアプリでは、購入後のリペアやイベントへの招待といったアフターサービスに力を入れることで、単なる商品購入に留まらず、顧客がブランドのコミュニティに参加することで、さらに強いロイヤリティを感じられるような仕組みが構築されています。これにより、パタゴニアは単なる商品提供者ではなく、環境保護の理念を共有する仲間として顧客と繋がることができているのです。
また、ゴールドウィンでは、複数のブランドを展開する中で、ブランドごとにアプリを提供しながらも、CRM(顧客関係管理)やECプラットフォームを共通化することで、効率的に顧客体験を提供しています。特に、店頭でのアプリ利用をスムーズにする機能や、ECとのシームレスな連携を通じて、顧客がどこにいても一貫したブランド体験を享受できるように設計されています。
顧客体験向上の鍵はデジタルと顧客との絆
本セミナーを通じて明らかになったのは、顧客体験を向上させ、顧客ロイヤリティを高めるためには、デジタルツールの活用が欠かせないという点です。しかし、単にデジタル化するだけではなく、顧客一人一人との関係を深め、ブランドの価値観を共有することが最も重要であると、全ての登壇者が一致していました。
企業が顧客体験を高めるためには、デジタルツールを活用して、顧客データの一元化や行動データの分析、レビューの活用、そしてアプリを通じたシームレスな体験の提供など、多岐にわたる取り組みが必要です。しかし、最も大切なのは、顧客に対して一貫した価値を提供し続けることであり、それが顧客ロイヤリティの向上に直結します。企業が顧客との絆を深めるために、これらの施策を実施することが、今後のビジネス成功の鍵となるでしょう。
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