犬が「噛む」理由とは
まず犬が「噛む」という行動についてですが、これはそもそも犬という生き物のコミュニケーション手段のひとつ。それはわざわざ教えられて学ぶものではなく、生まれながらにして備えている生得的行動というものです。
私たち人間の場合にたとえるとしたら、赤ちゃんのときのことを考えてみてください。
赤ちゃんは泣くことでおむつの状態やお腹が空いた、眠い、怖い、嫌だ、ということを教えてくれます。また同時に、赤ちゃんは手で物が掴めるようになると、なんでも口に入れてそれがどんなものかを確かめる、というように、これらは人間の赤ちゃんがもつ生得的行動です。
これが犬の場合には、どうなるのでしょうか。
犬は身体の動作で示すボディランゲージ以外にも、吠える・唸る・噛むなどのコミュニケーション方法を使って相手に気持ちを伝えています。
そして今回のテーマである「噛む」というコミュニケーション方法は、決して異常でも問題行動でもなく、犬という動物として当たり前の行動であることをまずは知っておきましょう。
犬の「噛む」は『最終手段』
とはいえ、「犬は噛むものだから全く問題ない」というわけではありません。
人と共生する以上は噛ませない…というよりも、噛むという攻撃行動をしなくて済むように、人間のほうが工夫して生活する必要があります。
そのうえで、この「噛む」という行動によるコミュニケーション方法は、実は犬にとっては『最終手段』であることも知っておいてほしいのです。
犬はボディランゲージの中に、さまざまな小さなサインを出して快や不快、葛藤といった気持ちを伝えてきます。
犬という動物は、そんな小さなサインを使ってコミュニケーションを取っているのですが、人間は犬に比べると非常に鈍感でなかなか気づかないのです。または、気付いているのにも関わらず、「これくらい大丈夫」「怖くないからもっとやってもいい」という軽率な行動をしてしまう人が少なくありません。
犬はなんとか止めて欲しいと伝えるべく、どんどん大きなサインを出していきます。しかし、残念なことに人はそのサインに全く気付けず、犬に対して嫌なことを続けてしまうのです。その結果、犬に(もっと攻撃しないと伝わらないんだな…)と思わせてしまい、最終的に「噛む」という攻撃行動を発現させてしまいます。
犬が「噛む」必要の無い環境作りが先決
前述しましたように、「噛む」という攻撃は犬にとっての『最終手段』です。しかも、噛むことで不快なことが取り除かれたとすれば、次からは早々に「噛む」という方法を選択します。つまり、それまでは唸ったり噛む手前で警告を出してくれていたのをやめてしまったり、または手前の警告を省略して最短で噛むようになってしまうことを意味します。
そうすると人は「しつけができていない犬だ」「飼い主を主として認識していないから主従関係をしっかりさせなければ」と勘違いし、犬を悪者扱いして罰を与え、矯正しようとするのです。
しかしここまで話を整理してみて、どうでしたでしょうか。
本当に悪いのは「噛む」という攻撃行動をした犬でしょうか。犬は何度も何度も、「噛む」前に警告サインを出して伝えていたはずです。それなのにやめてもらえない、不快が取り除かれないために、最終手段の「噛む」という行動で身の安全や資源の確保をしていたに過ぎません。
人間がすべきことは、犬を悪者にして噛まないようにしつけることではなく、犬が「噛む」という選択をしてしまったり、そもそもそのような状況になってしまわないような環境作りをすることです。
例えば、犬が食べてしまったり噛んでは困るものを犬が届いてしまう場所に置かないことだったり、万が一に備えて普段から遊びの中で口に入れているものを出したら別のメリットがあることを教えるなどです。
また、このような環境の整備やトレーニングをするにあたっては、厳しくしたり罰を使用する必要はなく、ひたすら犬にとってメリットとなることを提供してあげるようにしましょう。
まとめ
「犬が噛むのはしつけができていないからだ」「主従関係ができていない主と認識していないからだ」というようなセリフは今でもたくさん耳にします。しかし実際のところは、ただ犬は犬という動物として正常な行動を取っているに過ぎません。
とはいえ、人間としては一緒に生活をする以上噛まれると大変なことになってしまうのも事実。それを回避したいがために、犬の「噛む」という行動そのものを封じ込めようとしてしまうのでは、と考えます。
しかし、そもそも犬と関わるのであれば、犬が「噛む」という行動を選択する必要がない環境づくりをしたり、犬がポジティブな目的のために楽しく行動できるように、飼い主として日々の取り組みが大事なのだということを知っておかなければなりません。
犬は人間ではありませんが、家族なのです。その大切な存在である犬が、人を噛まなくて済むようにどうしてあげられるかを考えて行動するようにしましょう。
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