ヘルスレント事業を展開する「株式会社ダスキン」は、9月16日の「敬老の日」を前に、60〜80代の親世代1000人と、20〜50代の子世代1000人を対象に、介護に関する実態調査を行いました。
「介護」について親子で話し始めるタイミングや、子世代の就業者の介護に焦点を当て調査したところ、「介護について」話し合った経験がある親子は2割前後と低水準ながら、介護について話すことで、介護へのイメージはポジティブに変化すると判明しています。
本調査は、いつか直面する介護への備えとして、いまから準備することの大切さを紹介するプロジェクト「♯いま親のいまを知ろう」の一環として行われたもの。
2022年から開始し、第1弾では、親も子もお互いを気遣うばかりに、親の「老い」に向き合えない親子関係が明らかになり、第2弾では、「介護」や「家族」に対して、親子や性別で違った考えを持っていることが分かりました。
第3弾となる今回は2024年6月19日から6月21日の間で、親世代=自身の年齢が60〜80代で別居の子どもがいる男女1000人(介護経験あり500人・なし500人)と、子世代=自身の年齢が20〜50代で60〜80代の別居する親がいる男女1000人(介護経験あり500人・なし500人)を対象に、インターネット調査を実施しました。
■ 介護に対するイメージ・考え方は介護経験者の方が介護をポジティブに捉える傾向
介護に対するイメージを聞くと、「精神的な負担が大きい」(69.5%)、「肉体的な負担が大きい」(63.5%)などネガティブなイメージが高く、2023年調査とほぼ同様の傾向が見られました。
一方、介護のポジティブなイメージについて、介護経験のあり・なしで比べると、介護経験がある親世代は「親孝行」(介護経験あり47.0%:介護経験なし24.6% 22.4ポイント差)や「恩返し」(介護経験あり29.8%:介護経験なし13.8% 16.0ポイント差)などポジティブなイメージが高くなっています。
さらに子世代も「親孝行」(介護経験あり30.4%:介護経験なし21.6% 8.8ポイント差)と、介護経験がある方が、介護に対してポジティブなイメージが高くなっています。
介護経験がある1000人に、介護経験の前と後での介護に対する考え方の変化を聞くと、「介護のプロに頼ると安心」は、介護経験前は 46.7%でしたが、経験後は 64.5%と17.8ポイント高くなり、「外部の介護サービスを利用するべき」も経験前43.7%から経験後65.0%と21.3ポイント、「杖や介護ベッドなど介護・福祉用具は早めに利用するべき」(29.8%→43.8%)も14.0ポイント高くなっています。
逆に、「高齢者施設に入所させるのは抵抗がある」(25.0%→11.3%)は13.7ポイント、「家族の介護を他人に任せるのは罪悪感がある(18.6%→6.2%)は12.4ポイント、「家族は自分の手で介護すべき」(14.7%→7.7%)は 7.0ポイントと低くなる傾向に。
実際に介護を経験することで、介護のプロのサービスやアイテムを利用するメリットを実感する人が多いようです。
■ 介護について、親子で話し合っている割合は少なく、話し合うタイミングも遅い傾向
将来の介護について事前に話し合うことは難しいと思うかと聞くと、親世代の53.2%、子世代の66.6%が「難しいと思う」と回答。
そこで、親世代には自分自身の、子世代には親の介護について、親子で話し合った経験を聞くと、親世代が自身の介護について子と話し合った経験は 16.5%、子世代が親の介護について親と話し合った経験は25.2%と、親と子の感覚にギャップが生じています。
また、介護について親と話し合った子世代(252人)に、初めて介護について話し合ったきっかけを聞くと、「親が病気や入院をしたとき」(30.6%)、「親の介護が必要になったとき」(30.2%)が上位となり、いずれかを選択した方は 46.8%という結果でした。約半数が親の病気や介護を機に必要に迫られ、ようやく話し合うという結果です。
介護のイメージは、前述の通りネガティブなイメージで捉えられていますが、親子で介護について話し合った経験がある人は、親世代では「家族の絆を深める」「感謝」(同率21.2%)など、子世代では「親孝行」(35.3%)や「恩返し」(25.8%)などのポジティブな気持ちが、話し合っていない人に比べ高くなっています。介護について親子で話し合うことで、介護のイメージはポジティブなものへと変化するようです。
介護経験者1000人に、介護に関する不安の解消につながることを挙げてもらうと、1位「行政・自治体の介護関連サービスについて情報を入手」(58.5%)、2位「介護サービスについての基礎知識を身につけておく」(57.6%)など、まずは介護に関する情報・知識を得ておくことが上位に挙がりました。
次いで「介護費用の準備をしておく」(47.8%)、「介護の方針を決めておく」(47.3%)、「家族や兄弟・姉妹で話し合う」(46.2%)が続いています。具体的な準備と並行して、家族で話し合うことが、介護の不安解消に向けた第一歩となるようです。
また、「介護に関する親の希望を聞いておく」は全体では40.9%ですが、介護経験がある子世代の女性では 56.8%と高くなっています。親の立場に立って考えることも忘れたくない視点の一つでしょう。
■ 子世代就業者の介護は外部サポート利用意向が低く、抱え込みやすい傾向に
現役で仕事に就いている人が多い20〜50代の子世代。今回の調査対象者のうち、子世代の就業者(公務員・会社員・自営業・自由業を選択した629人)に、親が要介護になったと仮定して不安を感じることを聞くと、介護を行う家族の「精神面」(55.6%)や「体力面」(51.0%)の不安と並んで、「仕事を調整しないといけない」(50.1%)を挙げた人が過半数にのぼりました。
子世代の就業者にとって、親が介護状態になることは、精神面や肉体面の不安だけでなく、「仕事」に関する不安が大きくなっているようです。
介護経験がない親世代・子世代 1000人に介護に対する考え方を聞くと、全体では53.5%が「外部介護サービスを利用するべきだと思う」と答えたのに対し、子世代の就業者では47.8%と5.7ポイント低くなっています。
また、「早めに医師や自治体に相談するべきだと思う」も、子世代の就業者は31.2%と全体結果(43.3%)より12.1ポイントも低い結果に。子世代の就業者は、デイケアなどの外部サービスのサポートを望む声が低くなる傾向にあるようです。
次に、子世代に親が要介護となったときに望むサポートについて聞き、就業者と専業主婦・主夫を比較。すると、「デイケアなど短時間でも依頼できるサービス」(就業者57.6%:専業主婦・主夫75.4%、17.8ポイント差)、「行政の支援」(就業者54.8%:専業主婦・主夫69.4%、14.6ポイント差)など、就業者は専業主婦・主夫に比べ外部サポートに頼らない・頼りたくない傾向が見られ、わずかとはいえ4.0%は「サポートは必要がない」と答えています。
さらに「介護休業制度などの職場のサポート」を望むと答えた就業者も35.1%と少なく、周りのサポートやサービスを受けない・受けたくない傾向がうかがえます。
親世代と子世代の就業者に、子どもは親の暮らしをサポートすべきかと聞くと、「そう思う」と答えた親世代は45.0%ですが、子世代の就業者では67.1%と高くなっています。外部サービスのサポートを望まず、親の暮らしをサポートすべきという意識が高い子世代の就業者。もしも親の介護が必要になったとき、一人で抱え込んでしまうことが心配されます。
■ 要介護になったとき、親世代は「できるだけ自立したい」、子世代は「不安を感じる」
親世代に自身が、子世代には親が要介護となったとき、どんな気持ちになると思うかを聞きました。親世代は「出来るだけ自立したい」(57.4%)と思う半面、「申し訳なく感じる」(56.6%)、「不安を感じる」(48.9%)といった声が多く、2023年の調査結果と比べ「不安を感じる」(41.0%)が7.9ポイント増えました。また、子世代が親が要介護になったときの気持ちは、「不安を感じる」(54.7%)がトップでした。
これらの気持ちを、親世代、子世代ともに介護経験のなし・ありで見ると、介護経験がない親世代は「申し訳なく感じる」(59.4%)、介護経験がある親世代は「出来るだけ自立したい」(60.6%)がトップで、介護経験があるだけに子に負担をかけたくない親心が感じられます。
子世代は、介護経験がない人(55.6%)もある人(53.8%)も「不安を感じる」がトップでした。介護経験がない子世代は「悲しい」(23.0%)のスコアが次に高く、介護経験がある子世代は「辛い」(28.0%)のスコアが高くなっています。
■ 自分が要介護になったとき、親世代が感じる不安は「身体的な不安・負担」
介護に伴う「不安」について詳しく聞くと、親世代は自分が要介護になったとき、94.6%が不安や心配事が「ある」(多くある45.4%+いくつかある 49.2%)と答え、2023年の調査結果(90.6%)より4.0ポイント不安度が高くなっています。不安の内容は、「身体的な不安・負担」(75.8%)、「精神的な不安・ 負担」(67.7%)、「経済的な不安・負担」(64.3%)が高くなっています。
子世代は親が要介護になったとき、93.4%が不安や心配事が「ある」(多くある52.2%+いくつかある41.2%)と感じ、不安の内容は、「精神的な不安・負担」(74.9%)、「経済的な不安・負担」(73.1%)、「時間的な不安・負担」(63.4%)の順でした。
■ 親が要介護になったとき、「家族・親族による介護」を望む子世代が約半数
次に、要介護になったときにどんな介護を望むかを聞きました。親世代は自身が要介護になったとき、「外部施設を利用した介護」(68.3%)や「行政や自治体のサービスによる介護」(59.6%)を望む声が多く、「家族・親族による介護」を望む親世代は25.6%でした。2023年の調査結果と比べると「行政や自治体のサービスによる介護」(2023年50.1%)を望む声が9.5ポイント増えています。
子世代は親が要介護になったとき、親世代と同様、「外部施設を利用した介護」(65.2%)や「行政や自治体のサービスによる介護」(63.8%)を望みつつ、半数以上が「家族・親族による介護」(54.4%)を望んでいます。「現実的には難しいけれど、親の介護を本当はしたい」と考える子世代が多いことのあらわれでしょう。
■ 子世代は親が望む以上に、親について「家族による介護」を望んでいる
介護用品のレンタルやヘルパーの派遣など、介護にはさまざまな外部の介護サービスがあります。このような外部の介護サービスに積極的に頼るべきかと聞くと、親世代(95.1%)も子世代(89.8%)も積極的に利用すべきだと回答しました。
そこで、親世代に自身が要介護となったときにどのようなサポートを望むかと聞くと、「デイケアなど短時間でも依頼できるサービス」(61.7%)、「老人ホームなど長期的に介護を依頼できるサービス」(60.8%)、「行政の支援」(58.0%)が上位に挙げられ、いずれも2023年の調査結果より利用意向が高くなっています。
子世代に親が要介護となったときに望むサポートを聞くと、こちらも「デイケアなど短時間でも依頼できるサービス」(61.9%)、「行政の支援」(59.0%)、「老人ホームなど長期的に介護を依頼できるサービス」(56.4%)が高くなっていますが、続いて56.1%が「家族・親族の協力」と答えており、親世代の希望(「家族・親族の協力」41.1%)より15.0 ポイントも上回っています。
介護方法にしても介護サポートにしても、子世代は親が望む以上に親の介護を「自分たちの手で……」と考える傾向が強いようです。
■ NPO法人「となりのかいご」代表理事・川内 潤さん「介護の視点のずらし方が大切」
今回の介護に関する実態調査結果を受け、NPO法人「となりのかいご」代表理事・川内潤さんは「介護マインドを変えるため、”介護は誰のためにするのか”という部分を見直してみてはいかがでしょうか」とアドバイス。
「親のための介護」のつもりが、自分の不安を解消するために手厚い介護を行っている方も見受けられ、親孝行だと思ってやっていることが、親が何をしたいかという考えではなく、自分の不安を解消するための”リスク管理”になってしまい、余計に親を寝たきりにしてしまうケースもあるのだそう。
そこで「心は温かく共感性を持って、でも頭の中は常に冷静に」という介護の極意としても引用される言葉を紹介。「Cool Heads but Warm Hearts」という経済学者の言葉もあるように、「Warm Hearts」に頼る家族の介護だけでなく、「Cool Heads」のために外部のサービスを利用することを薦めています。
例えば地域の掲示板を見ると、自治体主催の介護予防に関する講座や体験会等が開催されています。「ちょっとだけ意識を外に向けてみると、頼れる情報がたくさんあります。一人で抱え込まずにCool Headsに頼ってみましょう」と助言しました。
家族にはさまざまな形があり価値観も異なります。介護の方法もこれが正解というものはありません。自分の親子関係を棚卸しして、自分の家族には何が最適なのか見直してみると良いのではないでしょうか。
情報提供:株式会社ダスキン
Publisher By おたくま経済新聞 | Edited By 山口 弘剛 | 記事元URL https://otakuma.net/archives/2024090409.html