現存する古建築から失われた建築物まで、日本の歴史的建造物を模型・ジオラマにて製作している「宗秀斎」さんが、X(Twitter)で新作を発表しました。今回はかの「洛中洛外図」を元にした室町期の武家屋敷がテーマです。
ジオラマの出来栄えもさることながら、空撮のような動画の撮影方法も見事。まるで当時にタイムスリップして、ドローンで上空から眺めているような臨場感が味わえます。
模型やジオラマを製作する上では、現存しない当時の建造物や風景を形にする方に面白さを感じているという宗秀斎さん。その過程で、古絵図から形にできないか?と考えていたところ、思い浮かんだのが室町・戦国時代の京都で暮らす人々の風景を描いた「洛中洛外図屏風」でした。
特に着目したのは、屏風の中で大きく強調されている武家屋敷部分。中世時代の武士の邸宅がどのような姿であったのか?その時代背景は?そこで暮らす主人はどのような人物であったか?など。
日本の中世時代の歴史を振り返り、色々なイメージを膨らませることでドラマが生まれる……そんなジオラマになればと思い、製作を決意したそうです。
■ 大事にしているのは「資料収集」 時に現地に赴くことも
とはいえ、16世紀初頭から江戸時代ごろに描かれたとされる屏風図から、立体化を試みるという行為がいかに難しいかは、容易に想像できます。どのように図面を起こしたのかをうかがうと「現存していない建造物を再現する上で重要なのは資料収集です」との回答が。
当時の資料はほとんど残されていない中で、特に参考にしたのが、発掘調査の研究論文で示された配置復元図。それでも足らないと感じた場合は、絵図に示された建物の時代に近いものや参考に なりそうな現存する建築物を探して可能な限り現地へ向かうようにしているのだそう。
そこで撮影したものを、絵図と比べながら外観や屋根など類似点を探り、立面図を制作。実物を見ることで建物の構造や外観など、細かい部分までリアルに把握し、観察する目を養うという点においても 暇さえあれば古建築を見て回るようにしているそうです。製作に対するこの妥協のない姿勢には恐れ入ります。
■ 材質、着色、時代背景……こだわりは本物らしさの追求
中でも特にこだわったと語るのは、やはり本物らしさの追求。ほとんどの材料は角材を使用していますが、建具の障子部分には本物の障子を貼り付けたり、地面には土壁を使用したりするなどリアル感を出すために工夫しています。
また、経年劣化した柱、壁、屋根など、褪色感を意識した時間の経過を感じさせるような色彩表現にも注力。模型全体として屋根が特に目立つ箇所なので、神社仏閣に見られる反り屋根の形状を形にするため、型紙を使って何度も試行錯誤しつつ、気を遣いながら形にしていきました。
さらに、当時は競い合うように立派な庭園を造ることが一つのステータスでもあったとされていたことから、建物全体の景観を引き立ててくれる回遊式庭園の再現にも力が入っています。宗秀斎さんは製作中の様子もXに投稿していますが、庭園の石ひとつの置き方についても、慎重に配置していることが伝わります。
■ 作品には大きな反響が 機会があれば展示も?
製作期間1か月半を経て完成した超大作には、2万件近くの「いいね」が寄せられる大反響が。多くの方が、その実物と見間違えるほどのリアルさに感嘆の声を上げています。
これに対し、宗秀斎さんは「現在はその痕跡がほとんど見られない室町・戦国時代の武家屋敷の姿を屏風絵から形にすることで、そこから想像することの楽しさや、CGと違った模型ならではの手作り感の良さを感じて頂けたことがうれしく、製作意義を感じました」とコメント。やはり作品への反応の大きさは、作り手冥利に尽きるといったところでしょう。
また、「映像でなく実物を見たい」という声も多かったことから、機会があれば展示することも検討中とのこと。間近で見ることができれば、本当に当時の日本庭園を巡るかのような、臨場感を楽しむことができそうです。
<記事化協力>
宗秀斎さん(@sousyuusai_ar)
(山口弘剛)