全国様々な場所にある神社仏閣。人々の信仰の対象として親しまれていますが、神社仏閣に向いた土地、というのはあるのでしょうか。実は、一部の神社仏閣については、一定の法則性が見出せる場合があります。その一例として、愛宕神社と弁天堂の立地について見てみましょう。
神社は「神の鎮まる場所」として、その神徳に応じた土地に造立される例が少なくありません。例えば水害の多発するところには水を司る水神社があるなど、厄災を封じる目的で社が作られることがあるのです。
■ 見晴らしのいい場所から火事を防ぐ愛宕神社
火伏せの神として知られる愛宕神社も、火災からその土地を守るため、集落を見渡せる小高い山や丘の上に作られる例が多くあります。そういった山を「愛宕山」と呼び、全国にいくつも存在します。
代表的な例が、東京都港区にある愛宕神社。鎮座している愛宕山は自然に形成された山の中では東京23区最高峰(標高25.7m)で、正面の鳥居からまっすぐ伸びる急な86段の石段で構成される男坂は、曲垣平九郎(盛澄)の逸話から「出世の石段」として知られています。
まるで壁のようにそびえる石段を登った先にあるのが本殿。江戸に入城した徳川家康がこの山に登り、江戸の市中を見渡せることから、この地に愛宕神社を勧請したと伝わります。当時は東京湾から遠く房総半島も望めたのだとか。
ここで大事なのが「家並みを見渡せる場所であること」。火の見櫓と同じで、火事の発生をいち早く見つけ、初期の段階で消し止められることから、火伏せの神が鎮まる場所として最適、というわけです。
幕末の「桜田門外の変」で、水戸浪士たちの集合場所ともなった愛宕山。周囲より高いという立地を買われ、大正時代には日本で最初のラジオ送信所(本放送)も置かれました。現在、その場所にはNHK放送博物館の建物があります。
登る時も大変な男坂ですが、むしろ降る時に注意が必要。上から見るとただの急な斜面にしか見えず、特に雨や雪の時などは足を滑らせて転ぶと大変です。
男坂を降りる自信のない方は、本殿の右手にある女坂を下ると、男坂の隣に出ることができます。ただ、こちらも通常の「男坂」並みの傾斜なので、くれぐれもお気をつけて。
■ 水辺に作られる弁天堂
芸能の神として知られる弁天(弁財天)ですが、同時に水を司る神としての側面もあります。このため、弁天を祀った弁天堂は水辺に近いところに建立されることが多いようです。
ただ水辺に近いだけではありません。水を司ることから、水辺に近くても水害に遭わない高台や、海や湖の中にポツンと浮かぶ島がふさわしい場所として選ばれ、俗に「弁天島」と呼ばれます。
日本三大弁天とされるのは、琵琶湖に浮かぶ竹生島(宝厳寺/都久夫須麻神社=竹生島神社)、神奈川県湘南の江ノ島(与願寺/江島神社)、広島県の宮島こと厳島(大願寺/厳島神社)。どれも島に作られていることが分かります。
東京の上野公園、不忍池にある弁天堂は、不忍池を琵琶湖とし、竹生島に見立てた島を作って建立されたもの。周囲を池に囲まれ、周りの水を従えているような演出がなされています。
このように、一部の神社仏閣においては「そこにある理由」が存在し、人々の信仰がどのようなものであったのか、しのぶことができます。参拝したついでに、その立地について調べてみると、新たな発見があるかもしれません。
(咲村珠樹:宮崎民俗学会員)